MMT(現代貨幣理論:Modern Monetary Theory)

 

1.緑はドイツ、黄色が日本、赤が第2次大戦後の日独

MMT

MMT(Modern Monetary Theory)とは、「独自の通貨を持つ国の政府は、通貨を限度無く発行できるため、財政赤字が大きくなっても問題は無い」という考え方が中核にあります。そして、「インフレにならない限り財政赤字を気にしなくてよい。」という立場を取っています。この「インフレにならない限り」というのが曲者で、「インフレ、しかも、ハイパーインフレになる恐れがあるので、問題だ」という考え方に対しての有効な反論になっていません。

アメリカ・ニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授は、「巨額債務を抱えるのに、インフレも金利上昇も起きない日本が実例だ」と主張します。しかし、日本で金利が上昇しないのは、日本銀行がどんどん国債を購入しているからで、もし、国債購入を止めたら、国債が買いたたかれて、金利が上がるかもしれません。それは現在は分からないのです。これについて、後ほど図で説明します。

30年前の日本は緑色

図のA1●は国債残高で緑の枠の左にあるほど、残高が少ないことを意味します。緑は、ハイパーインフレの無い状態です。1989年から1993年の5年間、特例公債残高は増えませんでした。この頃は、緑の一番左の方にあるので、ハイパーインフレになる心配はありません。

異次元緩和金融政策で黄色に移行

その後、1994年から現在に至るまで、特例公債残高は増える一方でしたが、低金利の時代が続き、インフレにはなりませんでした。2013年から異次元緩和金融政策がとられた、日本銀行が強制的に低金利を続けたので、高金利になるかどうかは不明の状態です。それが黄色の状態です。

大地震で突然赤に移行する恐れ

将来、日本銀行が異次元緩和金融政策を止め、その時に首都圏直下型大地震や南海トラフ地震が来ると、建設需要、復興需要などで、一気に高インフレの状態になる恐れがあります。それが赤の状態です。

地震が起きなくても赤になるかも?

また、大地震の来る前に、国民や企業が、日本円に見切りをつけてドルなどの外貨に逃避する可能性も十分にあります。既に、日本銀行や財務省の退職者は、「円を持っていたくない」と外貨に換えていると聞きます。富裕層や経済評論家も自分が外貨を保有していることを認めています。

みんながやり始めたら一気に加速

日本人がこのような行動に走るときの効果的な言葉は、「みんなやってる。」です。それはいつなのでしょうか。もう、すでにそのような状態かも知れませんし、数年後か十数年後かも知れません。日本銀行の異次元緩和金融政策が出口に着いたときに分かるはずです。

ドイツは、緑色の一番左

日本は、先進国の中で最悪の国債残高ですが、他の国はどうなっているのでしょうか。債務残高の対GDP比は、日本が236に対し、ドイツは60、アメリカは108です。ドイツは、日本の1990前後と同じレベルに債務残高を抑え込んでいる上に、抑制努力を続けています。ドイツは、2回の世界大戦後にハイパーインフレで苦しんだので、もう二度と同じ思いをしたくないと考えているのでしょう。

日本も戦後ハイパーインフレだった

実は、日本も第2次世界大戦後に20000%のハイパーインフレを経験しているのです。しかし、それを覚えている人もわずかですし、学校の授業で習った記憶のある人はほとんどいないのではないでしょうか。ハイパーインフレに関するドイツの学校教育を参考にすべきだと思います。ドイツのハイパーインフレの写真は、日本の教科書にも載っているので、よくご存じだと思いますが、日本の預金封鎖などの悲惨さを後世に伝える努力は、今からでも実施してほしいと思います。

アメリカは、共和党が小さな政府を標榜しているので、ある程度の抑制作用が働いているようです。ただし、トランプ大統領はそうではなさそうですが。

2.MMTに対する反論

財務省の資料

先日このブログで、MMTについて図を使って説明しましたが、財務省から様々な意見をまとめた資料が公表されましたので、それについてもう一度扱います。日本語では、現代貨幣理論、現代金融理論とも言われていますが、財務省は理論に値しないと考えているためか、「理論」と言わずに「経済運営の手法についての考え方」と言っています。

鹿威し

私の結論から言えば、この考え方に似ているのは「鹿威し(ししおどし)」だと思います。「水を注いでも、注いでも変化がないから大丈夫だ」ということです。この「水」は「国の借金」で、どんどん増やしても問題がないという考えです。しかし、あるとき突然、鹿威しの向きが傾いて、とんでもないことが起こります。その後、ハイパーインフレによって「国の借金」がゼロになり、国民の金融資産が無くなるのです。鹿威しの向きが突然変わる要因の例を挙げると、次の3つです。

① 国民が自分たちの金融資産を外貨に換えるため大幅な円安になり、その結果インフレになる

② 首都圏直下型や南海トラフの大地震が起こって、住居、ビルなどの再建需要、復興需要が引き金となってハイパーインフレが発生する

③ 団塊の世代を中心とする高齢化が進み、家庭の資産が減少するため、国債の引き受け手が日銀しかいなくなり、ハイパーインフレ、財政立て直し、ひどい不況になる

このうち、③はゆっくりと十数年かけて来るでしょうが、②は突然やって来る可能性があります。また、①は、既に、日銀OBや財務省OBは行動に移していますが、国民の多くが気付くには、もう少し時間がかかりそうです。

今1滴加えても何も起こりませんが、次の1滴を垂らした時にすべてがひっくり返るのです。あるいは、次の1滴を垂らさなくても、鹿威しの受け皿が突然小さくなれば、やはり、すべてがひっくり返ります。

以上が私の考えですが、以下は主要な人物の考えです。

黒田日銀総裁

「MMTというのは、最近米国で色々議論されているということは承知していますが、必ずしも整合的に体系化された理論ではなくて、色々な学者がそれに類した主張をされているということだと思います。そのうえで、それらの方が言っておられる基本的な考え方というのは、自国通貨建て政府債務はデフォルトしないため、財政政策は、財政赤字や債務残高などを考慮せずに、景気安定化に専念すべきだ、ということのようです。」

●ポール・クルーグマン

(ニューヨーク州立大学、経済学者、2008年度ノーベル経済学賞受賞)
「債務については、経済の持続可能な成長率が利子率より高いか低いかに多くを左右されるだろう。もし、これまでや現在のように成長率が利子率より高いのであれば大きな問題にならないが、金利が成長率より高くなれば債務が雪だるま式に増える可能性がある。債務は富全体を超えて無限に大きくなることはできず、残高が増えるほど、人々は高い利子を要求するだろう。つまり、ある時点において、債務の増加を食い止めるために十分大きなプライマリー黒字の達成を強いられるのである。」

●ジェローム・パウエル

(FRB議長)
「自国通貨で借りられる国にとっては、赤字は問題にならないという考えは全く誤っている(just wrong)と思う。米国の債務は国内総生産(GDP)比でかなり高い水準にある。もっと重要なのは、債務がGDPよりも速いペースで増加している点だ。本当にかなり速いペースだ。歳出削減と歳入拡大が必要となるだろう。」

●ウォーレン・バフェット

(バークシャー・ハサウェイCEO)
「MMTを支持する気には全くなれない(I’m not a fan of MMT — not at all)。赤字支出はインフレ急上昇につながりかねず、危険な領域に踏み込む必要はなく、そうした領域がどこにあるのか正確にはわからない。(We don’t need to get into danger zones, and we don’t know precisely where they are.) 」

 

3.MMT理論の「天秤」と「鹿威し」

MMT

現代貨幣理論(MMT:Modern Monetary Theory)は、「通貨発行権を持つ国家は債務返済に充てる貨幣を自在に創出できるため、「財政赤字で国は破綻しない。」と主張します。

1990年以降の理論

MMTは、1990年代にウォーレン・モスラー(米投資家)、ビル・ミッチェル(豪ニューカッスル大学)、ランダル・レイ(米ミズーリ大学-カンサスシティ)、ステファニー・ケルトン(米ニューヨーク州立大学、サンダース上院議員の顧問)等によって提唱された経済運営の手法についての考え方です。

選挙がらみ

米国では、2018年11月にニューヨーク州から連邦議会下院選に立候補し当選したアレクサンドリア・オカシオ-コルテス氏がMMTを支持したこと、また、MMTの主要な発信者であるケルトン教授が2020年の大統領選に出馬を表明している民主党サンダース議員の2016年大統領選時の顧問を務めていたことなどから、注目が集まっています。
(参考)米国におけるMMT支持者は、国債発行で確保した財源を用いて、完全雇用を達成・維持するため、「雇用保障プログラム」(Job Guarantee Program)(政府が基金を作り、失業者を雇用してその業務を担わせる)を実施すべきとの立場。

「インフレにならない限り」

この理論には、「インフレにならない限り」という前提条件が付いています。ニューヨーク州立大・ケルトン教授は、こう言います。

日本が実例

「日本は有益な実例を提供しています。国内総生産(GDP)比の公的債務は米国の3倍もあるのに、超インフレや金利高騰といった危機は起きていません。自国通貨建ての債務は返済不能にならないと、史上は理解しているのです。」

「日本政府と日銀はMMTを長年実証してきた。日銀は日本国債の40%を買い上げ、金融政策で長期金利を抑制している。政府債務が問題なら、実体経済に問題が出るはずだ。」

インフレは「天秤」

ケルトン教授の主張は、「債務がインフレを引き起こすレベルまで達していないことは確かです。債務は全く課題ではない。」ということです。つまり、国債を発行しても天秤が傾くような問題が発生していないのだから、どんどん国債を発行して長期停滞から脱却した方が良い、ということです。そして、ハイパーインフレの懸念に対しては、「財政拡張策にインフレ防止条項を入れておけばいい。例えば5年間のインフラ投資計画を投資たとしても、2年目にインフレの兆しが出れば、支出を取りやめる」という対応策を実施するということです。天秤が動き出したら、下がった方の錘を取り除くということです。

しかし、この対応策には2つの問題があります。

① ハイパーインフレは「鹿威し(ししおどし)」

MMTに反対する人は、気がついたときに天秤の錘を取り除こうと思っても、時すでに遅く、ハイパーインフレや通貨暴落が発生して、大きな不幸に見舞われることを懸念しているのです。それは、鹿威しが傾き始めたら、それを元に戻すことは不可能で、あっという間にすべてが終わってしまうということです。現在は、この鹿威しを日本銀行が力づくで抑え込んで、ひっくり返らないようにしているのです。まだ、鹿威しはひっくり返っていませんが、水しぶきは既に飛び散り始めました。それは日本の円に見切りをつけた財務省や日銀のOB達です。彼らは退職金を外貨に換え始めました。2%のインフレ目標を達成して日銀が手を離したら、すぐにひっくり返るのか、あるいは、まだ、ひっくり返らないのかは分かりません。

② ハイパーインフレを止める苦しさ

国債残高が増えれば増えるほど、その不幸の大きさは大きいので、国債残高は小さくする努力をしなければならないということです。歳出削減と増税によってひどい不況になる恐れがあります。そうなれば、企業倒産が起こり、公務員の給与不払い・解雇、社会不安などが懸念されます。もし破局に至る前に、国債残高を減らすことができたとしても、その努力のための苦しさは、最初から増やさないようにする努力よりもはるかに大きいのだから、最初から増やさないようにすべきだということです。