アベノミクスは良かったのか?

アベノミクス検証

安倍総理大臣が辞任し、菅政権が誕生しました。アベノミクスはどう評価されるべきなのでしょうか。クレディ・アグリコル証券 森田 京平チーフエコノミストが興味深い分析をしているので、見てみましょう。

実質GDP

アベノミクス下の実質GDPと需要項目のグラフは次の通りです。安倍政権がスタートした2012年10~12月を100とする指数で、2020年第2四半期まで表示しています。

  • 黄色  実質GDP
  • 赤色  財・サービス輸出
  • 青色  民間設備投資
  • ピンク 民間最終消費
  • 白   民間住宅投資

結果としては最終的に100を下回ってアベノミクスは終わってしまいました。もちろん新型コロナウイルスによる影響はありますが、これは皮肉でした。

国民は潤わなかった

生活はこの8年弱の期間、賃金が上がらず、

  • 円安にして輸出で儲けインバウンドを増やし、
  • 企業が内部留保を増やし、
  • 政府は国際座安高を増やして財政支出をしてきた

わけですが、このグラフはその通りです。特に民間最終消費が指数100のままで推移し、民間住宅投資は多少の凸凹がありますが、ほぼ100前後で推移してきました。つまりアベノミクスで国民は潤わなかったのです。

労働市場

ただしGDPの推移は景気の結果論であって、GDPの目標600兆円は達成できないのですが、問題は労働市場にありそうです。

今後の課題

労働市場でアベノミクスが残した課題を3つ挙げています。

  1. 景気ではなく人口動態を主因とした労働力の需給ひっ迫
  2. 一人当たり実質賃金が上昇せず
  3. 労働生産性が上昇せず

1.景気ではなく人口動態を主因とした労働力の需給ひっ迫

失業率低下の要因

アベノミクスの時代は、新型コロナショック以前は長い間、人手不足と言われてきて、失業率も低下していると評価されてきたのですが、人口動態を見ると、アベノミクスの結果ではないことが分かります。

失業率低下は民主党政権に始まった

労働力の需給バランスのグラフです。黄色い線が完全失業率、青い線が有効求人倍率で、1994年から2020年までを表しています。右側の赤い背景色の部分が安倍政権、その左の背景色がピンクの部分が民主党政権です。黄色い線の完全失業率を見ると、民主党政権になったとたんに下がり始め、安倍政権でもそれが継続しているのが分かります。同様に有効求人倍率も上昇は民主党政権になったとたんに始まったのです。

経済政策でなく団塊世代の退職

トレンドの開始は、民主党政権の開始だったのです。ところで、民主党政権は完全失業率が下がるような政策を実施したのでしょうか。それはなかなか思い付きません。そうすると、これは経済政策によるものではないと考えられます。また、景気に影響されているものでもありません。そうすると、年齢構造の変化、つまり、高齢に人が増えて、労働市場から退出し、はるかに少ない数の労働人口が入ってきたと言えます。従って、アベノミクスで完全失業率低下が起きたのではなく、人口動態の変化によって起こったのです。団塊の世代が一気に退職したことによって、失業率が変化したのです。とりわけ、アベノミクスが始まった2012年は団塊の世代が65歳に到達した年なのです。

2.一人当たり実質賃金が上昇せず

名目賃金と実質賃金のグラフです。黄色の線が一人当たり名目賃金、青い線が一人当たり実質賃金で、右下の方にアベノミクスがあります。実質賃金は消費税を除いているので、消費税を除いても、家計の一人当たり購買力である実質賃金は弱くなっています。そういう意味では、消費が経済をけん引するということは無かったことが分かります。黄色い線の名目賃金は上昇していますが、結果的には物価に負けてしまいました。

3.労働生産性が上昇せず

2と3は関係があって、3が原因で2が結果と考えられます。労働生産性は就業者一人当たり生み出すGDP、即ち付加価値です。

労働生産性=GDP/就業者数

このグラフは黄色が米国、青がユーロ圏、ピンクが日本です。ピンク色の日本の労働生産性の上昇は見事に横ばいなのですが、黄色のアメリカがはっきり伸びていて、青のユーロ圏も、日本よりは伸びています。他国との比較だけでなく、過去の日本との比較でも、アベノミクスになってからは、過去のような伸びが無くなってしまったのです。

団塊の世代は、退職すると所得は減るけど、時間はあるので、消費行動は時間消費型になる。それは、サービスの消費なのです。サービス消費は一般的に労働生産性が伸びにくく、そのウエイトが大きくなったことによって、労働生産性が伸びにくくなったと考えられます。

ところで、それは日本だけでなく欧米でも当てはまることですが、欧米は日本以上にデジタル化が進んでいると思われます。

今後の課題を以下に挙げます。

① デジタル化を進める

日本はデジタル後進国であるという問題意識が重要です。

② 労働市場の流動性を高める

解雇を事後的に金銭で解決することです。人が転職するかどうかは個人の自由ですが、転職することが不利にならないようにすることです。

③ 移民の議論をする

するかどうか以前に議論を深めることが必要。韓国、中国を含め北東アジアは高齢化しています。これからは移民の競争になるので、その準備はすべきだと考えます。

以上が森田氏の主張の要旨です。なかなか興味深い分析です。

国の借金が増えただけ

結局、アベノミクスは過去の延長線上にあって、成果は得られず、ただ国の借金だけが増えた時代だったと思います。

若い人の勘違い

そして、若い人はアベノミクスのおかげで就職がしやすくなったと思っていますが、それはアベノミクスのおかげではなく、団塊の世代の人たちが退職して人手不足になったからと言えるでしょう。