ザ・ニュー・ヨーク・タイムズ紙にリタイヤの記事がありましたので、これを参考にしてリタイヤを考えてみましょう。以下は私の拙訳です。
<昨日の続きです。>
健康保険:「如何に払うか?」
不況で失業した雇用者は、収入だけでなく健康保険も失いました。まだメディケアの資格のない無職の高齢者は個人保険のマーケットに翻弄されていました。もし、何とか保険を見つけることができても、既存の前提条件があるために、ずっと高い保険料――税額控除も増えますが――を払うことになりそうだったのです。
しかし2010年に医療費負担適正化法が成立し、健康保険に加入していないメディケア該当前の高齢アメリカ人の数は、最近10年間で減少しました。
コモンウェルス財団によると、今年、50-64歳のうち9.4%が保険に入っておらず、2010年の14%から減少しています。もし14州がメディケイド(1965年にメディケアとともに創設され、 連邦と州が負担し、州が運営する低所得者向け医療費補助制度)拡大法を拒否していなかったら、もっと大きく減少していただろうと、コモンウェルス財団は言います。拡大した州では、この年代の率が6.4%まで下落したのです。
「その年代のグループは現在とても良く守られています」とコモンウェルス財団の医療保険・利用担当副会長サラ・コリンズは言います。「もし彼らが退職するか、60歳が近づくにつれ何か別のことをしようと決めた場合、個人保険のマーケットで商品を買ったかもしれなかったのです。非常にリスキーだったり、既存の条件があるために加入できなかった。」
あなたはリタイヤマニア?
メディケアのこの10年間の特徴は、急激な加入者と連邦政府の支出増大です。――そして民営化。
今年61百万のアメリカ人がメディケアに加入していて、2010年の33%増です。このプログラムの支出は7490億ドルで、2010年に比べて47%上昇するでしょう。カイザー・ファミリー財団のメディケアデータ分析によれば、人口が高齢化しているため、今年の全メディケア加入者に対し、この制度に貢献している雇用者はわずか2.9%だそうです。2010年より3.4%減りました。
パートB(通院医療費を保障)の標準保険料は2020年に144.60ドル(約1万6千円)で、2010年の31%増でした。今後10年間、年率6%近い増加を、メディケアの役員は見込んでいます。
「これらの数字は、私たちがまだ抱いていない基本的な疑問と問題を明らかにしている:増大し高齢化する人口にどうして払うのか?」とメディケア政策に関するカイザー・プログラム部長のリシア・ニューマンは言います。
もう一つの際立った傾向は、メディケアの元々の診療毎個別支払に対し、一体的に管理されたメディケア・アドバンテージ・プランが民間から提供され成長していることだ。カイザーによると、今年、メディケア加入者の34%がメディケア・アドバンテージ・プランに入りました。2010年の24%から上昇しました。
アドバンテージ・プランに対して疑問を呈す研究があるにもかかわらず、このように上昇しているのです。例えば、連邦政府調査員の昨年のレポートによれば、患者の申し立てが不当に拒絶されたパターンや、医療の質を疑う調査結果がありました。そして今週、アメリカ合衆国保健福祉省監察官室が公表した報告書によると、アドバンテージプランは、患者の病歴に不適切な条件を付加して、プログラムに過剰な請求をしていたとの懸念を示しました。
「民間のプラン――メディケアH.M.OとPPO――の役割が増大していることは、過去10年以上にわたるメディケアに対する変化の中で、最も重要なものとして目に付く」とニューマンは言いました。「この増加は、表舞台での政策論争や政策変更なしに起こった変化だ。」
雇用:増加しているがいつまでも続くダメージもある
最後の10年間の仕事がリタイヤ・プランにとって重要です。その期間に雇用者が最大の収入があるからです。場合によっては、長く働くことによって、後の年金受給請求で社会保障収入を増やし、あるいは貯蓄を増やすことになります。
しかし、不況時における失業増大の結果、数百万人の高齢アメリカ人がリタイヤの見通しに痛手をこうむりましたし、多くの場合立ち直っていません。
ニュー・スクールの経済政策分析シュワルツセンターによると、55歳以上の雇用者の失業率は2007年第1四半期に3.1%でしたが、2010年第3四半期には、最高の7.1%まで上昇しました。しかし、不完全雇用や求職を断念した人を含めると、センターが追跡した広い意味での失業率は、もっと高いレベルに達しました。2011年第1四半期に14.6%でした。
経済回復によって、これらの数字は劇的に減りました。本年第3四半期、55歳以上の失業率は2.6%で、就業意欲を失った労働者を含む広義の失業率は5.5%でした。
高齢の労働者も不況の時期に比べ、今は雇用を取り戻してなので良い時代になりました。55歳より上の典型的な失業者は、本年第3四半期に新しい職に就くために21週を要しましたが、35週間必要だった不況のピークよりずっと少なくて済みます。
このような改善がありましたが、国勢調査局のデータによると、55歳から64歳までのフルタイム・ワーカーのインフレ調整後週平均収入は、2019年第3四半期に872ドルでした。2008年第3四半期には861ドルでした。
不況時に失職した多くの労働者にとって、ダメージは何時までも続いていると、労働エコノミストでセンターの部長であるテレサ・ジラーダッチは言います。「不況時に55歳以上だった人たちは完全に復活したわけではない――貯蓄を形成するという点において大きく後れを取り、別の仕事を見つけた時には、たぶん不況以前に稼いでいたよりはるかに少ない収入になった。」
住宅:経済的安定にとって重要であるが、ぐらぐらしている
ほとんどのアメリカ人にとって、住宅保有はリタイヤ後の安定にとって極めて重要です。「退職口座はリタイヤのために蓄える重要な方法の一つだ。そしてもう一つはリタイヤの住宅ローンを支払うことだ。」とボストン・カレッジのリタイヤ研究センターの部長アリシア・マネルは言います。
しかし、ハーバード大学住宅研究合同センターによると、不況の後、高齢アメリカ人の住宅保有率は急激に減少しています。そして、既に明確になった人種間の所有格差は経済回復の間に大きく開きました。例えば、黒人の50-64歳持ち家率は2004年の62%から2018年には54%に落ちました。
この持ち家の動向は厄介です。というのは株式を担保にして住宅ローンを組んだり、消費を減らすことによって家庭内の資産を流出させることになるかもしれないからです。さらに、持ち家なら賃貸よりも、住宅の安全性を高め、それなりの住宅コストはかけます。
割合が増えつつある高齢の世帯は住宅ローンを抱えていて、住宅費用を負担していることを、ハーバードの研究者は見出しました。収入が半分の世帯より住宅のためにたくさん支出している、とセンターは明らかにしました。
「不況の時から改善していない指標がたくさんある。――それどころか、多くの場合悪化している。」とセンターの上級研究員ジェニファー・モリンスキーは言う。
以上が私の拙訳でした。
年金、健康保険の問題は、日本と同様にアメリカでも大きな問題です。しかしアメリカは人口が増加していて、逆に日本は減少しているところが大きく違います。また、健康保険については、「世界に冠たる国民皆保険制度」という言い方をされることが良くありますが、実際には、ひどい逆累進課税になっています。住宅費用は、日本の場合、年収の5倍が目安と言われますが、アメリカでは2.5―3倍が目安ですから、日本の方がつらい状況です。