JPXプライム150は有望か?

昨日はTOPIXと日経平均のどちらを投資先として選ぶかを考えましたが、7月からJPXプライム150がスタートしました。

いろいろな見方を確認しましょう。


三井住友DSアセットマネジメント 2023年6月22日

JPXプライム150指数が7月3日から新たに算出開始

●新指数はプライム市場を対象に資本収益性と市場評価の観点から選定された150銘柄で構成。
●資本収益性はエクイティ・スプレッド、市場評価はPBRをそれぞれ銘柄選択基準の指標として採用。
●投資家や企業の価値創造意識がいっそう強まれば新指数は日本株魅力向上の1つのきっかけに。

新指数はプライム市場を対象に資本収益性と市場評価の観点から選定された150銘柄で構成

価値創造に着目した新指数「JPXプライム150指数」の算出が、いよいよ7月3日から始まります。開発を進めてきた日本取引所グループ(JPX)傘下のJPX総研は5月26日、新指数の算出要領などの詳細を発表しました。そこで今回のレポートでは、JPXプライム150指数とはどういう指数なのか、公表資料から読み解き、株式市場にとっての意味合いを考えます。

JPXプライム150指数のコンセプトは、「価値創造が推定される我が国を代表する企業で構成される指数」です(図表1)。具体的には、東証プライム市場に上場する時価総額上位銘柄を対象に、「資本収益性」と「市場評価」という、価値創造を測る2つの観点から選定した150の銘柄によって構成されます。指数の基準日は2023年5月26日、基準値は1,000ポイントで、算出方法は浮動株時価総額加重型となります。

資本収益性はエクイティ・スプレッド、市場評価はPBRをそれぞれ銘柄選択基準の指標として採用

前述の資本収益性については、「エクイティ・スプレッド」が選択基準の指標として採用されます(図表2)。エクイティ・スプレッドとは、株主資本利益率(ROE)と株主資本コスト(投資者の期待リターン)の差で、ROEが株主資本コストを上回ると、エクイティ・スプレッドはプラスとなり、価値が創造されたと推定されます。この資本収益性の観点からは、別途規定された手順に基づき、75銘柄が選定されます。

そして、市場評価については、株価を1株当たり純資産(BPS)で割った株価純資産倍率(PBR)が選択基準の指標として採用されます。株価が1株当たり純資産であるBPSを上回ると、PBRは1倍を超えるため、価値が創造されたと推定されます。この市場評価の観点からは、別途規定された手順に基づき、75銘柄が選定されます。銘柄入れ替えは年に1回、毎年8月に行われますが、2023年8月は実施せず、初回は2024年8月となります。

投資家や企業の価値創造意識がいっそう強まれば新指数は日本株魅力向上の1つのきっかけに

なお、JPX総研が5月26日に公表した参考資料によると、業種別分布状況(ウエイト・ベース、5月)について、JPXプライム150指数では、東証株価指数(TOPIX)と同様、電気機器が1位、情報・通信業が2位を占めています。ただ、構成銘柄のPBR1倍未満、ROE8%未満の指数に占める割合については、TOPIXがそれぞれ50%程度であるのに対し、JPXプライム150指数は、順に10%未満、20%未満となっています。

東京証券取引所が3月末に、資本コストや株価を意識した経営などを企業に要請したことを機に、国内外で日本株を見直す機運が高まっています。この流れのなか、価値創造の推定される企業で構成される指数が発表されることは、非常に良いタイミングと思われます。新指数の算出開始は、投資家や企業がエクイティ・スプレッドやPBRをより強く意識し、ひいては日本株の魅力向上につながる、1つのきっかけになるのではないかとみています。


ダイヤモンド・ザイZAi ONLINE  2023年7月4日

「JPXプライム150」算出開始! 組み入れ上位を点検

日本取引所グループ(JPX)は3日より、新指数「JPXプライム150指数」の算出を開始した。同指数をざっくりと言えば、PBR(株価純資産倍率)やROE(自己資本利益率)によって、東証プライム企業の中でも、優良150社を選りすぐったものだ。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などの主要公的年金で使う見通しがなく、現時点では連動する株価指数先物もないことから、普及を疑う声もある。一方、優良大型株の選別のきっかけになるとの見方もあり、注目しておいて損はなさそうだ。

JPXプライム150指数上位銘柄一覧

表はJPX総研が公表した5月26日におけるJPXプライム150指数のウェイト上位銘柄の一覧だ。最も比率が大きいのがソニーグループで、同日時点で5.72%となる。海外の売上高比率が拡大するキーエンスや、1株につき25株の割合で大胆な株式分割を実施したNTTなど、話題の銘柄も顔を出す。一方で、最近までPBR1倍を割っていたトヨタ自動車は、国内時価総額トップでも入っていない。三菱UFJフィナンシャル・グループといった低PBR銘柄も対象外だ。

東証はPBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業を問題視する姿勢を強めている。根本的な解決には資本効率の改善が不可欠で、結果的にROEの向上も期待する構えだ。同指数は東証プライムの時価総額上位500銘柄が母集団。「エクイティスプレッド」(ROE-株主資本コスト)とPBRによる2段階のスクリーニングを経て、「価値創造が推定される我が国を代表する企業」を選定する狙いだ。基準日である5月26日が1000ポイントで、4日の終値は1054.84ポイントとなっている。


NHK NEWS WEB 2023年7月9日

東証新指数 トヨタ“対象外”はなぜ?【経済コラム】

「東証の市場改革の本丸だ」

市場関係者からこのように注目されているのは、7月3日に算出が始まった「JPXプライム150指数」という新たな株価指数です。日本の株価指数といえば「日経平均株価」や「東証株価指数・TOPIX」が代表的なものとして知られていますが、今回スタートした株価指数は、経営の効率性が高く“稼ぐ力”がある企業を選んだといいます。しかし、そこにはトヨタ自動車や三菱商事といった日本を代表する銘柄は対象外となっています。それはなぜなのか、取材しました。

トヨタや三菱商事は“対象外”

「プライム150」を開発した、日本取引所グループ傘下のJPX総研によると、この指数のコンセプトは「価値創造が推定される日本を代表する企業で構成される指数」です。

価値の創造、つまり稼ぐ力がある日本企業ということで、真っ先に思い浮かぶのは、トヨタ自動車ではないでしょうか。

時価総額は日本企業で最高の38兆円、昨年度の決算では2兆4500億円の最終利益をあげています。

しかし、5月26日に指数を構成する銘柄のリストが公表されると、市場関係者に衝撃が走ります。

この指数では、トヨタのほか、三菱商事やパナソニック、それに大手金融グループなどが対象に選ばれなかったのです。

なぜなのでしょうか。

資本収益性から75銘柄を選ぶ

その謎を解く鍵は選定基準にあります。

対象となったのはことし5月16日時点で東証プライム市場に上場する1800社余りのうち、時価総額上位500の銘柄。

これを「資本収益性」と「市場評価」という2つの基準でそれぞれの上位75銘柄ずつ、あわせて150銘柄に絞りました。

まず、「資本収益性」ですが、これは「エクイティ・スプレッド」という指標が基準になっています。

「ROE=株主資本利益率」から「株主資本コスト」を引いて算出します。

※エクイティ・スプレッドの計算式

ROE(株主資本利益率・8%以上に限る)ー 株主資本コスト(%)(投資家の期待リターン)

ROE=株主資本利益率」というのは、投資家が投じた資本に対し、企業がどれだけの利益をあげているか、つまりどれだけ効率よく利益をあげているかを表します。

一方、「株主資本コスト」とは株主から調達した資本にかかるコストの割合で、投資家からすると出資額に対して期待するリターンのことを言います。

そして「エクイティ・スプレッド」がプラスであれば、投資家の期待を上回る稼ぐ力があり、価値を創造できると考えます。

この中から75銘柄を選びました。

市場評価で75銘柄を選ぶ

もうひとつの「市場評価」は、このところ市場で注目されている「PBR=株価純資産倍率」が基準となっています。

1株あたりの純資産に対して株価が何倍かをあらわす指標で、これが1倍を下回ると、会社が解散したときに株主のもとに残る「解散価値」より株価が安い状態にあると見られてしまいます。

※PBRの計算式

株価÷1株あたりの純資産

このPBRが1倍以上の銘柄から75社を選出します。

こうして選ばれた150銘柄は来年8月以降、年に1回定期的に見直しが行われて入れ替えられます。

トヨタや三菱商事などは、基準日の5月16日の時点では「資本収益性」で上位75社に入れず、PBRも1倍を割れていたため、対象外となったのです。

東証のねらいは

この指数開発のねらいはどこにあるのか。

JPX総研・インデックスビジネス部の橋本元洋統括課長は次のように語ります。

「プライム上場企業を、稼ぐ力という切り口で、投資対象として見える化したのがこの指数です。欧米の主要な株価指数と比べてもPBRなどは遜色がありません。指数に組み入れられた、規模も大きく、稼ぐ力がある企業の成長が、日本市場の活性化には欠かせません。指数に連動するファンドが組成され、こうした企業に国内外の投資資金が流れ込み、さらなる成長につながっていくことを期待しています」

実際にアメリカのS&P500やヨーロッパのストックス600と比べると、JPXプライム150指数のPBRやROEの値が遜色ないことがわかります。

過去の失敗の教訓は

ただこの指数が、さらなる投資資金の流入につながるかどうか、疑問視する声も聞かれます。

どこまで伸びしろがあるのか不透明だという見方があるからです。

過去10年のパフォーマンスを試算すると、TOPIXをやや上回っているものの、足元の値動きはさえません。

算定基準日の5月26日から7月3日までの指数の上昇率は6.7%ですが、同時期のTOPIXの8.1%、日経平均株価の9.1%をいずれも下回っています。

背景には、今回指数の対象とならなかった「バリュー株」に人気が集まっていることがあります。

バリュー株とはPBRやROEが低く、本来の価値より割安な銘柄のことをいいます。

これについてSMBC日興証券の伊藤桂一 チーフクオンツアナリストはこう指摘します。

「選定された企業はもともと株価の水準が高く、伸びしろがない銘柄が集められているように見える。パフォーマンスがTOPIXと変わらない、もしくは下回るのであれば、あえてJPXプライム150指数に連動する投資をすることは考えづらい」

過去に開発された株価指数の中には、鳴り物入りで登場したものの、普及せず存在感が薄れているものもあります。

2014年1月に公表を始めた「JPX日経インデックス400」は、今回のJPXプライム150と同じように、収益性の高さなどを基準にした株価指数でした。

ただ、TOPIXを上回るパフォーマンスが示せなかったことなどから、今や存在感はありません。

「プライム150」の指数を開発した橋本さんは、こんなことも話していました。

「わざわざPBRやROEをもとに銘柄を選ばないと、欧米の株価指数の水準に追いつけないというのが東証の現状です。ただ、この指数に海外の機関投資家などから注目が集まれば、企業もPBRやROEを上げて、指数入りを目指そうという動機にもつながるのではと期待しています。こうした好循環を生み出すことで、東証全体の企業のPBRやROEの水準が欧米に負けない水準に上がり、この指数がお役御免となることがゴールだと思っています」

海外マネーのさらなる流入あるか

東証が去年4月に実施したプライム市場などへの再編は、「看板の掛け替えにすぎない」と指摘されるなど、市場からの評価の中には厳しいものもありました。

ただ、ことし3月、東証が市場での評価が低い企業に改善を促したことで、企業の改革への期待が高まり、海外の投資家が日本企業に目を向け始めました。

この指数の開発が海外マネーのさらなる流入につながるか注目していきたいと思います。