リバースモーゲージとリースバックについては、問題視する人もいるようです。
NHK WEB特集
住み続けたいのに…自宅の「リースバック」契約トラブルも
2024年12月24日
「お父さんが自宅を売却してしまったみたい。すぐに実家に来てほしい」
妹から連絡を受けて、実家に駆けつけた男性。そこで目にしたのは、80代の父親が不動産業者と交わした「リースバック」の契約書でした。
この情報をきっかけに、高齢者が巻き込まれるさまざまな不動産トラブルを調べると、「リースバック」に関する相談が相次いでいることがわかりました。
みなさんは「リースバック」というサービスを知っていますか?
メリットとデメリット、そして契約時の注意点について取材しました。
家族が知らないうちに自宅売却
男性の父親は、首都圏にあるマンションの1室を30年以上前に購入。
母親が亡くなったあとは1人で暮らしていましたが、顔見知りの住人も多くそのまま住み続けたいという意向があったといいます。
男性が異変に気づいたのは、去年のことでした。
家族が知らないうちに、父親が自宅を売却していたのです。
「リースバック」とは
「リースバック」とは、マンションや戸建てなど自宅を不動産業者に売却して代金を受け取るとともに、新たに賃貸借契約を結んで、新しい持ち主に家賃を支払うことで同じ家に住み続けられるというサービスです。

さらに住み慣れた家にそのまま住み続けられることから、老後の生活資金などを考える高齢者を中心に関心が高まっています。
業者訪問の数日後に契約
男性が契約書を確認すると、父親はマンションの部屋を不動産業者に千数百万円で売却していました。
しかし相場を調べたところ、この売却額は市場価格よりおよそ1000万円安かったといいます。
そして同じ部屋に住み続けるため、毎月10万円以上の家賃を支払う契約になっていました。
男性はこの契約に納得いかない気持ちがありました。当時、父親は物忘れが進んでいたからです。
父親が契約書にサインしたのは、業者が最初に訪問してからわずか数日後。
「判断能力が低下していた父親は複雑な不動産契約の内容を十分に理解していたのか」
「業者から迫られ、家族に相談する間もなく契約させられたのではないか」
そう思わざるを得なかったといいます。
さらにこの不動産業者は父親の“代理人”として実印を変更する手続きを行ったうえで、契約を結んでいました。
父親の実印は契約トラブルに巻き込まれないよう家族が預かっていましたが、知らないうちに変更されていたのです。
このトラブルのあと家族で話し合って自宅を離れ、施設に入った父親。その後、認知症と診断され、ことし亡くなりました。
高齢者の契約トラブル相次ぐ
東京の消費生活センターに、2023年度に寄せられた相談件数は113件。
相談は増加傾向にあり、担当者によると特に多いのはひとり暮らしの高齢者だといいます。

▼コロナ禍で周囲との交流が途絶えた中で業者の訪問を受け、その日のうちに契約してしまった。のちに売却代金が、相場の半額以下だったことがわかった。
▼自宅を訪問してきた業者に朝10時から夜9時半まで居座られた。契約書類に署名したが、何の書類なのかよく覚えていない。
リースバックのメリット・デメリットは
1 住み慣れた家に住み続けられる
2 固定資産税や修繕積立金の支払いがなくなる
3 まとまった資金が得られる
▼数年後に高齢者施設に入居が決まっている高齢者が、入居のための一時金などまとまった資金が必要になったとき。
▼年金が少ないなどの理由で経済的に不安がある高齢者が、売却金を生活資金に充てたいとき。
1 売却価格は相場より安くなる傾向
2 いつまでも借りられるとは限らない
3 クーリング・オフできない
売却後も売り主が住み続けることなどから、相場よりも低い価格で取り引きされるのが一般的です。
また、賃料が相場より高額に設定されたり、契約の更新料が高額になったりするケースもあるということです。
▼退去のリスクもあります。「定期借家契約」で期間が定められるケースも多く、そのまま自宅に住み続けられる保証はありません。
契約の更新時に貸主が拒否した場合、退去しなければならなくなります。
特に高齢者の場合はいったん自宅を失うと、次に住む場所がすぐには見つからないおそれもあります。
▼さらに自宅を不動産業者に売却する場合、一定の期間であれば無条件で契約を解除できる「クーリング・オフ」は適用されず、解約する場合には、多額の違約金を請求されることがあります。
ライフプラン考えて冷静に判断を
▼複数の事業者に売却価格の根拠や相場について聞くこと
▼通常の売却や融資などほかの手段も含めて、自分のライフプランに合っている条件を検討すること
独立行政法人国民生活センターの記事を見てみましょう。
リースバックとは?
リースバックは、自宅をリースバック事業者に売却して売却代金を受け取る一方で、リースバック事業者にリース料(家賃)を支払って、契約で定めた期間、自宅に住み続けることができるしくみです(図2)
図2 リースバックのしくみ
リースバックは通常、利用者の年齢に制限はありません。売却代金は一時金で受け取ることができ、使途も制限されません。対象となる物件はリースバック事業者によって条件等が異なります。エリアも対象物件も問わない事業者がある一方、主要都市や首都圏などにエリアを限定しているところがあります。対象物件は多くが戸建て・マンションとも可としていますが、中にはマンション限定としている事業者もあります(事務所や店舗、オフィスビルなど事業用不動産も対象とするところもある)。
自宅を売却してしまうため、所有権はリースバック事業者に移ります。あくまでも家賃を払って元の家を借り続けるかたちです。賃貸契約になるため、固定資産税や火災保険料、管理費・修繕積立金等を支払う必要はなくなります(家賃に含まれる)。
賃貸契約は、「普通借家契約」の事業者と「定期借家契約」の事業者、あるいはいずれかを選択できる場合もあります。普通借家契約は中途解約や契約更新の拒絶がしにくく、借り手に有利です。定期借家契約は2年など設定した賃貸借期間が終わると契約が終了し、更新する場合は新たに契約し直す必要があり、オーナーに有利な内容になっています。
また、契約によっては売却した自宅を買い戻せる場合がありますが、買い戻す際の金額は、売却時の金額より高めに設定されていることが多いようです。
国土交通省では、リースバックに関するトラブル回避などのため、2022年6月に「住宅のリースバックに関するガイドブック」を策定、公表しました。ガイドブックには、リースバックの特徴や利用例、トラブル例、利用する際のポイント等が整理されています*。
リースバックの利用条件
リースバックを利用するには次の条件がありますが、リースバック事業者によって異なりますので、確認が必要です。、リースバックを中心にできる・売却後も自宅に住み続けることができる・固定資産税やマンションの管理費・修繕積立金などは不要(家賃に含まれる)・中には、高齢者向けサービス(ホームセキュリティ等)が付く会社もある・自宅を買い戻すことができる「買戻し特約」を付けて契約すれば、将来、買戻しも可能
〈取り扱い地域〉
- ・全国対応の事業者もあるが、首都圏や中には特定の県だけなど、エリア限定でサービスを行う事業者もある
〈対象物件〉
- ・戸建て、マンションともに可能かなどは事業者で異なる
- ・一定の評価額以下の物件は対象外とする事業者もある
- ・単独名義でないと利用できない事業者が多い
〈住宅ローン残債〉
- ・売却価額が住宅ローン残債を上回らないと利用できない
〈対象者〉
- ・「50歳以上」などと設定している事業者もあるが、年齢については不問の事業者が多い
- ・職業や年収などは厳しくない。年金収入のみの人も利用可能
リースバックのメリットと注意点
リースバックのメリットと注意点には、次のような項目を挙げることができます。
〈リースバックのメリット〉
- ・住宅ローンが残っていても申し込むことができる
- ・売却代金は一時金として支払われ、使途は問われない
- ・不動産を通常の方法で売却するときより短期間(早ければ2週間~20日程度)で手続きができる
- ・売却後も自宅に住み続けることができる
- ・固定資産税やマンションの管理費・修繕積立金などは不要(家賃に含まれる)
- ・中には、高齢者向けサービス(ホームセキュリティ等)が付く会社もある
- ・自宅を買い戻すことができる「買戻し特約」を付けて契約すれば、将来、買戻しも可能
〈リースバックの注意点〉
- ・自宅は自分のものでなくなる(名義も変わる)
- ・リースバックでの売却額は通常に売却する価格より低めに設定されることが多い
- ・リース料(家賃)は買取価格から算出されるため、周辺の家賃相場より高い場合がある
- ・自分のものではないので、自由に設備を改変・設置することができない
- ・賃貸契約が定期借家契約の場合、満了後に居住を継続できる保証はない。再契約ができない場合には立ち退かなければならない
――同じようなリースバック事業者であっても、サービス内容に差がありますので、実際に利用する際には複数の見積もり(査定)をとって比較し、できるだけ条件が良くて自分に合うものを選びましょう。細部まで、しっかり契約内容を確認することが大事です。
おわりに
長寿化に加えて物価上昇などが進むなか、資金不足をリバースモーゲージやリースバックでカバーしようとする人は、今後も増えると考えられます。しかし、ほかにも、家を通常の方法で売却して家賃の安い賃貸住宅へ転居する方法や、資金を借りる場合も不動産担保ローンという手段があります。老後の住宅資産活用は、単なる一時しのぎにならないよう、中長期的な資金計画を立てて行うべきといえるでしょう。