お金と幸せ 3

足るを知る

数年前に、NHKラジオに作家の山本一力が登場しました。

山本一力

山本は、高知市に生まれ、生家は高知市の大地主でしたが没落、14歳の時に上京しました。通信機輸出会社、大近畿日本ツーリスト、コピーライターなど十数回の転職を経て、1997年に『蒼龍』でオール讀物新人賞を受賞してデビューし。2002年には『あかね空』で直木賞を受賞しました。

知足者富

NHKのアナウンサーが、「現代に日本人にとって一番大事なことは何か?」と問われ、「足るを知ること」だと答えました。これは2千数百年前に書かれた「老子」の言葉だとされています。老子は、「知足者富」(足るを知る者は富む)と言いました。

煩悩

欲望が強い、あるいは強すぎると幸せにはなれません。大みそかに除夜の鐘を108回突きますが、それは煩悩(ぼんのう)の数だとされています。煩悩は仏教で心身にまといつき心をかきみだす、一切の妄念・欲望です。もし、足るを知って、煩悩はなくなれば、幸せになれます。

1950年代の電気洗濯機

第二次世界大戦後の1950年代、日本では電気洗濯機が普及しました。それまで、それぞれの家庭には洗濯板とたらいがあって、主婦が冬の冷たい時でもそれで選択して、あかぎれしたものでした。毎年のように給料が増えたサラリーマン亭主が、電気洗濯機を買って妻に楽させることのできる喜びを味わい、妻がそれを使って洗濯ができるようになったために、亭主も妻も幸せになりました。しかし、その幸せを感じることのできる日本人は、現代ではほとんどいません。当たり前のことになってしまったからです。現代人はもっと、強い欲望を持ったからでしょうか。

老子

老子は、「満足することを知っている者は、心豊かに生きることができる」と、説いています。

ボルカー議長

ポール・ボルカー(1927年 – 2019年)は、アメリカ合衆国の経済学者で、カーター、レーガン政権下(1979年 – 1987年)で第12代連邦準備制度理事会(FRB)議長を務めました。

ボルカ―・ルールとインフレ退治

ボルカ―は銀行から投機的な活動を分離する「ボルカ―・ルール」を制定しました。また、インフレ退治をしました。ボルカ―の12月11日のワシントンポスト紙の記事を読みながら考えてみましょう。以下は拙訳です。

ポール・A・ボルカ―がFRBを辞めた後、彼のニューヨークの事務所に、一人の友人が立ち寄りました。彼は自分の息子の話をボルカ―にし始めました。その息子は、ヘッジ・ファンドで働いていて、大金を儲けてぜいたくな暮らしをしていました。ボルカ―は、「息子さんの持っていないものを私は持っている。」と言い返しました。友人は訳が分からず、それは何かと問いました。ボルカ―は一言「足る(たる)」と答えました。

(訳者注:老子の「足るを知る者は富む」の意味は、満足することを知っている者は、たとえ貧しくとも精神的には豊かで、幸福であるということです。この意味で、「enough」と言ったのだと思います。)

二人の大統領、二人の財務長官、議会の仲間の民主党議員、そしてウォールストリートに対して「足る」と言ったことで、ボルカ―は記憶にとどめられるべきです。彼は92歳で死去しました。その途中でボルカ―はUSドルを救い、行政府と議会から独立した機関でプロフェッショナリズムの思想を守ったのです。

以上が拙訳でした。あまり欲張らない方が良いようですが、私は今のポートフォリオでよいのかどうか、考えます。