ノーベル賞と大学とお金

日本の25倍の給料

米国プリンストン大の上席研究員で、気象学者の真鍋淑郎さんが、2021年のノーベル物理学賞に選ばれました。1958年にアメリカ合衆国に移住し、研究をつづけました。1950年代後半は世界の中でアメリカが最も裕福だった時代ですから、日本の25倍の給料をもらって、存分にコンピュータを使える時代でした。

アメリカの大学の基金

真鍋氏を始め、最近のノーベル賞受賞者が口にするのは、若い研究者が研究するためのお金がないということです。日本では大学の研究費を政府の助成金に頼っていますが、アメリカはまったく事情が異なります。アメリカでは莫大な額の大学基金があって、そのリターンで研究ができます。

日本の二けたの基金

世界一かつ全米トップのハーバード大学の大学基金は、慶應義塾大学の80倍近く、東京大学の380倍近くの3兆8,800億円(2015年度)もの規模に達しています。また、年間の寄付金は、800億円程度です。ハーバード大学は、この基金の運用で年平均15%の収益(3500億円)を出しています。米国においては、各大学が大学基金の拡大にしのぎを削っており、これが米国の大学の豊かさと柔軟性の原動力になっている。近年、ハーバード大学だけでなく、イェール大学、プリンストン大学など有力な私立大学は、軒並み記録的な収益を得ています。

第2次大戦前の日米比較

第2次世界大戦前の戦力の日米比較をすると、アメリカは日本の70倍ありました。日本政府はそれを知っていながら戦争に突入して、当然のことながら負けました。現在の日米の研究資金の差は当時と同じです。このままでよいはずがありません。

アメリカのベンチャーキャピタル

米国の大規模な大学基金は、過去数十年で最大の投資利益を記録しています。ベンチャーキャピタル投資の大きなリターンと株式相場の高騰によりポートフォリオが強化されたからだ。ミネソタ大学基金は6月30日までの1年間で49.2%、ブラウン大学基金は50%超のリターンを得たそうです。特に最近1年間のリターンは高かったので、このような数字もあり得るだろうと思います。

一方、デューク大学は先週末、同大学の基金の収益率が55.9%となったことを発表しました。ワシントン大学(セントルイス)は、過去最大の年率65%のリターンを記録し、管理する基金の規模が153億ドル(約1兆7100億円)に拡大したことを明らかにしました。バージニア大学基金の収益率は49%。

日米シニア層の資産

アメリカ人のシニア世代の貯蓄がが最近20年間で日本の3倍に増えましたが、全く同じようなことが大学の基金にも言えているようです。

早慶東大も悲惨なほど少額研究費

日本国内においては、私立大学では以前から基金が設立されており、慶應義塾大学の基金規模が481億円程度(2015年度)、早稲田大学が274億円程度(2015年度)です。国立大学では、東京大学の場合でも100億円程度(2015年度)に留まっています。旧国立大学は、法人化後、国からの運営費交付金を2割近く減らされました。寄付などの自主財源は思うようには集まらず、早慶東大ですらその平均額は世界の一流大学より2桁も小さいのが現状です。

10兆円基金

起死回生として国が決定した対策が総額10兆円の大学基金で、国費を投入して運用し、年間3000億円と目する運用益を活用することとなっています。この3000億円を得るためには、コスト込みで平均5%近い運用が必要です。

アメリカの大学の高収益の要因

アメリカでめったにみられないような高収益の要因となったのは、世界の株式市場の高騰です。ファクトセットによると、今年6月までの1年間のトータルリターンは、世界市場の指標である「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス」が約40%、S&P500指数が約41%。こうした利益により、ケンブリッジ・アソシエイツの暫定データによると、10億ドル以上を運用している大学基金のリターン中央値は36%となっています。

ハーバード大学基金の気候変動アクション・イニシアチブ

60年以上も前に日本から移住した一人の研究者の研究成果が、現在のハーバード大学の基金を大きく動かしました。米ハーバード大学は、ハーバード大学基金運営のハーバード・マネジメント・カンパニー(HMC)が機関投資家の気候変動アクション・イニシアチブ「Climage Action 100+」に参加すると発表しました。HMCは2014年に国連責任投資原則(PRI)に署名し、同年に同社の「サステナブル投資ポリシー」を策定しました。

HMCは、ハーバード大学の寄付金等を運用する機関で、運用資産総額は392億米ドル(約4.2兆円)。株式6割、債券4割ほどで運用しており、年間リターンは平均11%。ハーバード大学の運用資金や奨学金等に毎年18億米ドル(約1,900億円)捻出しています。

また、カリフォルニア大学(UC)は、運用している大学基金134億米ドル(約1.4兆円)で化石燃料ダイベストメント(投資引揚げ)を実施すると発表しました。別途運用している年金基金700億米ドル(約7.5兆円)も同様にダイベストメントする予定だそうです。

お金の増やし方、使い方が変わってきています。