親子上場

最近、親子上場が問題視され、解消が進んでいます。


YAHOO!JAPANニュース 2025年6月3日

トヨタ、NTT、イオン…親子上場の解消はなぜ進む?

日本企業が親子上場関係を解消する動きが活発化している事をご存知でしょうか?

5月にトヨタ自動車の源流企業である豊田自動織機の株式非公開化構想を巡り、トヨタグループが11月にも豊田織機に対し株式公開買い付け(TOB)を実施する計画が明らかになりました。買収総額は6兆円超にのぼるとの報道もあります。

親子上場が活発化している理由その1

親子上場が活発化している理由その2

もう一つはアクティビスト(物言う株主)の存在です。 2024年5月、英投資ファンドのアセット・バリュー・インベスターズは、豊田自動織機と、豊田自動織機の上場子会社アイチコーポレーションに親子上場の解消を求めました。また、豊田自動織機は仏ファンドのロンシャン・SICAVから2025年4月に、資本コストや株価を意識した経営の実現、取締役会の過半数を社外取締役とすること、取締役の報酬を譲渡制限付き株式により増額することなどの株主提案を受けました。そうしたことを踏まえ、非上場化で株主の圧力から逃れ、グループ全体の経営安定化につなげる狙いが背景にあります。

塩野義製薬は、JTの子会社である鳥居薬品をTOBにより完全子会社にするほか、JT本体の医薬事業も譲り受ける事を公表しました。買収総額は1600億円規模としています。鳥居薬品にも、以前から香港のアクティビストであるリムジャパンイベントマスターファンドが、PBR1倍割れを問題視し、JTと鳥居薬品との親子上場の解消や医薬事業全体の売却などの株主提案を行った経緯がありました。

親子上場数は200社を下回る

野村資本市場研究所が調査した2024年3月末時点での日本の親子上場企業数は190社となり、親子上場企業数が200社を下回ったのは1993年度末以来30年ぶりと報告しています。

そのような中、ファイブスター投信投資顧問は、親子上場解消などを背景として他社からのTOBの可能性の高い銘柄に着目して投資する「資本効率向上ファンド 愛称:TOBハンター」を運用しています。4月30日に更新された、月次報告書を参考にすると、保有銘柄数が173銘柄。組み入れ比率上位10銘柄は、以下のとおりです。

・シグマクシス・ホールディングス
・コスモスイニシア
・ダイハツディーゼル
・住友電設
・東映アニメーション
・ハピネット
・東京きらぼしフィナンシャルグループ
・オルガノ
・JMDC
・ライフコーポレーション

同社は、持分法適用会社を有する企業やその他の出資企業によるTOB案件、敵対的買収、戦略的提携、非上場化、中小型株の大手企業傘下入り等の「親子上場解消以外の形」による買収・被買収がこれからは増えてくると予想しています。


マネクリ 2024/01/10

加速する東証改革から「親子上場」を読み解く

進む東証改革、親子上場の存在感も浮き彫りに

親子上場の存在は、東証(というより、日本の証券取引所)で主に見られる世界的にも稀な現象と言っても過言ではありません。そして、それは従前より特に海外投資家からの不興対象となっていました。

2022年の市場区分変更、2023年の低PBR改善要請に続く改革の目玉として、東証が親子上場を位置付けているとしても最早おかしくないでしょう。実際、2023年末には親子上場の意義を東証が開示要請するといった報道も出てきました。市場関係者ほど、東証からはその取引所としての魅力を高め、世界中から資金を集めるために改革を続けるという強い姿勢を感じているのではないでしょうか。

親子上場の問題点、その背景にある要因とは

親子上場の抱える問題は、大株主と少数株主で利益相反が生じかねないことにあります。基本的に親会社は子会社の経営権を有していることから、自社の業績拡大に向けて子会社から資金や人材、技術を引き抜いて、(子会社の業績を犠牲にして)親会社のために活用することは理論上何ら問題がありません。株式市場においては連結決算で捉える以上、グループ内での経営資源の移動は本質的な価値に影響を与えないためです。むしろ、子会社の経営資源を親会社で活用した方が果実は大きいとなれば、その方が望ましいとも考えられるでしょう。

しかし、子会社が上場している場合(つまり、株主が親会社と異なる場合)は様相が異なります。子会社の株主からすれば、株式を保有していない親会社の犠牲になって経営資源を吸い取られるというのはたまったものではありません。企業の経営陣は基本的に株主の期待に応える義務を負うのですが、子会社の経営陣が大株主である親会社の期待に応えようとすると、少数株主にはデメリットを招くこともあり得るのです。

逆もまた真で、子会社の少数株主への配慮が過ぎると大株主が不利益を被るケースも考えられます。これが利益相反です。これは子会社でなく関連企業であっても同じです。グローバル視点で親子上場が稀なのは、そして親子上場が海外投資家から不興なのは、このような利益相反が忌避されるためなのです。

それにも関わらず、日本で親子上場が一般的であったのは、親子双方の経営陣にメリットがあったからです。子会社株式の限定的な売却であれば、親会社は経営権を維持したまま、株式売却益という形で資金調達ができます。子会社も頼れる親会社を維持しつつ、上場企業という社会的信用を得ることができるというわけです。

また、親子上場が頻発した時は右肩上がりの経済であったという背景も見逃せません。経済成長の追い風が結果的に全株主を満足させることとなり、少々の利益相反は深刻な問題にならなかったのです。加えて、株主代表訴訟リスクやアクティビストなどの影響が希薄であり、企業側に利益相反をそこまで深刻に捉える必要がなかったという時代背景もあります。現在の親子上場の問題はこうした「昭和時代の思考の残渣」とも言え、それをグローバル思考にアップデートしていく必要を東証は捉えているのだと思われます。

親子上場問題を解決するポイント

親子上場問題の解消は、親会社が株式売却を進めて親子関係を解消するか、子会社株式を買い取って少数株主の存在しない完全子会社にするか、の選択となります。

例えば、親子上場問題で先行した日立製作所(6501)は、自社の戦略に沿って上場子会社群を関係解消と完全子会社化に明確に分けて対応しました。かつて日立御三家ともされた伝統ある上場子会社(電線、金属、化成)とは親子関係を解消する一方、情報関連事業の子会社群は完全子会社化を推進したのです。

上場グループ企業を多く抱えるトヨタ自動車(7203)も、デンソー(6902)の株式を一部売却するなど株式の相互持合を緩和させる動きを見せてきました。実はこのような流れは既にあり、2006年には400社超あった親子上場企業数は現在およそ200社まで減少しました。東証改革がこの領域にメスを入れれば、この数はもっと減るのではないかと予想します。

ちなみに、日本取引所グループはこの親子上場問題に関する2019年の資料において、上場子会社の多い企業例として、ソフトバンクグループ(9984)、日産自動車(7201)、伊藤忠商事(8001)、イオン(8267)、GMOインターネットグループ(9449)、三菱商事(8058)、RIZAPグループ(2928)などを挙げています。

親子問題の解消や緩和には親会社の明確な経営戦略と強烈な推進力が不可欠です。親子上場問題をどのように対応するのかが、このような企業の変化の兆しを占う一手になるのかもしれません。