夫婦合計の運用実績は5億円を回復しました。
リーマンショック後の大幅下落、その後数年単位の停滞時期は有ったものの、全体としては純情に成長しています。
元金の3.5倍ほどに増えました。もちろん現金化すると2割の申告分離課税を徴収されますので、7千万円ほど割り引いて考える必要があります。
私の家族は、全員主に外国株式インデックス・ファンドに投資していますが、その理由は日本円が脆弱だと考えているからです。
現在も参議院選挙で給付金や減税を公約に掲げている政党ばかりで、国の借金を減らそうという政党はありません。
この結果、2022年にはイギリスでトラス・ショックが起きました。
それを振り返ってみましょう。
第一生命経済研究所
2025.06.17
日本でトラス・ショックは起きるのか?
~局面は酷似、海外勢の国債市場でのプレゼンス拡大に注意~
要旨
●英国でトラス・ショックを引き起こした要因のうち、①年金基金のLDI運用による国債市場の動揺増幅は英国固有の要因だが、②中期的な財政運営や規制緩和の具体策を明らかにせず、財政規律を度外視した大型減税を発表した市場対話の失敗、③国債の最大の買い手であった中銀が量的引き締めを開始するタイミングと重なったことは、日本でも起こり得る。
●日英の財政を取り巻く環境を比較すると、英国が長年の経常赤字で対外純資産がマイナスであるのに対して、日本は巨額の経常黒字と対外純資産を抱える点を安心材料とみることが多い。筆者もこうした要因が日本の財政リスクの封じ込めにつながっていることに同意するが、経常収支と国債の保有構造が必ずしも一致しないことや、日本の国債市場で海外勢のプレゼンスが高まっている点には注意が必要となろう。
財政膨張への警戒から、日本の国債利回りに上昇圧力が及んでいる。5月には20年債入札の記録的な不調や、30年債や40年債の利回りが過去最高を更新するなど、国債市場が動揺している。こうしたなか、日本でも2022年秋に英国で起きた「トラス・ショック」の再来を不安視する声も一部で浮上している。ここでは、当時の状況を振り返り、現在の日本との相違点について考察する。
トラス・ショックとは、相次ぐスキャンダルで辞任したボリス・ジョンソン首相に代わり、2022年9月に新たな英国の首相に就任したリズ・トラス氏が、財政規律を度外視した大型減税(通称:ミニ・バジェット)を発表したところ、英国の資産が売り浴びせられ、金融市場に動揺が広がったことを指す。トラス首相の就任時に3%前後で推移していた英国の10年物国債利回りは4.5%前後に上昇し、ポンドの対ドル為替レートが過去最低の1.035ドル/ポンドまで下落、英国の代表的な株価指数であるFTSE100も1年半ぶりの水準に下落するなど、トリプル安が進んだ。
市場の動揺を受け、英国の中央銀行であるイングランド銀行(BOE)が、予定していた量的引き締め(過去の量的緩和を通じて保有する国債の売却)の開始を延期し、時限措置として英国債の買い入れを開始したことや、英国政府がクワジ・クワーテング財務相を更迭し、後任のジェレミー・ハント財務相が、財政規律を重視する趣旨の発言を積極的に発信し、看板政策である大型減税の大半を撤回するとともに、エネルギー料金の凍結(当時はエネルギー価格の高騰が国民生活に深刻な影響を及ぼしていた)を半年で打ち切ることを決定したことを受け、金融市場の動揺は沈静化に向かった。
大型減税の発表が市場の動揺を誘ったのは、①英国の年金運用に広く用いられていた金融派生商品の追い証(マージンコール)による市場動揺の増幅、②新政権による市場対話の失敗、③英国債の最大の買い手であったBOEが量的引き締めを開始するタイミングと重なったことがあった。
2000年代以降、低金利で十分な年金給付を確保することが難しくなった英国の年金基金は、国債を担保にデリバティブなどに投資する運用手法(Liability Driven Investment:LDI)を積極的に活用していた。国債価格の下落(利回りの上昇)で担保価値が目減りし、追加の証拠金の提出を求められ、保有国債の売却に迫られたことが、更なる国債価格の下落を招いた。
英国では秋と春の定例予算の発表時に、独立した財政評価機関(予算責任局:OBR)が政府の予算措置による中長期的な財政や景気への影響評価を発表するのが通例だが、ミニ・バジェットの発表時にはそうした手続きが取られなかった。トラス首相は巨額の財政悪化につながるエネルギー料金の凍結と大型減税を先行して発表したが、この段階ではOBRによる財政評価を求めず、規制緩和の具体策も明らかにせず、財政安定に不可欠な中期的な景気浮揚をどう実現するかの青写真を描かなかった。
トラス・ショックの発生以前、新型コロナウイルスの感染拡大時の経済活動の下支えや金融市場の動揺封じ込めを目指し、BOEは政策金利(ベース・レート)を0.1%まで引き下げるとともに、量的緩和(資産買い入れ)を強化していた。その後、エネルギー価格の高騰による歴史的な高インフレに見舞われるなか、トラス・ショックの発生当時、BOEは金融引き締めを開始していた。2021年12月を境に利上げに転じ、新規の資産買い入れを停止した後、10月からは保有国債の売却(量的引き締め)の開始を予定していた。BOEは当時、英国債の4割近くを保有する最大の買い手であった。量的引き締めを開始するタイミングで、政府が大幅な財政拡張路線に舵を切ったことで、国債需給の急激な悪化が意識された。しかも、トラス首相は保守党の党首選を通じて、BOEの対応の遅れが物価上昇を招いたと批判し、BOE改革の必要性などを訴えてきた。自らの中銀批判が、政府とBOEとの意思疎通が円滑でないとの印象を与え、政策協調の信頼性を損ねてしまった面もある。
こうした英国の市場混乱を引き起こした要因のうち、①は英国固有の要因で日本には当てはまらない。だが、②は7月に予定される参議院選挙を前に、与野党ともに財政拡張につながる現金給付や消費税減税の機運が高まっている。ちなみに、トラス減税の規模は450億ポンドで、当時の英国のGDPの約1.4%に相当する。自民党が検討する国民全員に2万円、子どもや低所得者にはさらに2万円を上乗せする現金給付を行った場合の財政負担は3兆円程度とされ、日本のGDPの約0.54%に相当する。食料品の消費税の軽減税率を0%に引き下げた場合の財政負担は約2兆円とされ、日本のGDPの約0.36%に相当する。両者を合わせた財政負担はGDP比で約1%と、トラス減税に比べてやや小さいが、財政悪化につながるかどうかは現金給付や減税による景気浮揚効果がどの程度になるかに依存する。加えて、英国の例からは、中期的な財政運営の信頼性を確保することや、債務の持続可能性を高める潜在成長率をどう引き上げるかも、重要となりそうだ。
また、③についても、日銀は長年、国債買い入れを通じて金融市場に大量の資金供給を続けてきたが、2024年7月に長期国債の買い入れ減額を開始している。日銀は昨年末時点で国債の52%を保有する最大の買い手だ。財政悪化につながる政策議論が中銀の量的引き締めのタイミングと重なる点は英国と共通する。ただ、急激な買い入れ減額による長期金利の急騰や市場の混乱を回避するため、2026年春以降については減額ペースを縮小する案が検討されている。
日英の財政を取り巻く環境を比較すると、英国が長年の経常赤字で対外純資産がマイナスであるのに対して、日本は巨額の経常黒字と対外純資産を抱え、国内の余剰資金で国債消化を賄えることや対外資産の売却を通じて政府債務の返済原資に充てられる点を安心材料とみることが多い。筆者もこうした要因が日本の財政リスクの封じ込めにつながっていることに同意するが、経常収支と国債の保有構造が必ずしも一致しないことや、日本の国債市場で海外勢のプレゼンスが高まっている点には注意が必要となろう。
かつて日本の国債のほとんどを、銀行、生損保、年金基金などの国内勢が保有していたが、海外部門の保有割合が徐々に増加しており、昨年末時点では6.4%となっている。海外部門が半分以上を保有する国庫短期証券を含めると11.9%に達する。一般に、国内投資家には海外資産よりも国内資産を選好する「ホームバイアス」があるとされ、逃げ足が早い海外部門の保有割合が高い方が、国債市場が不安定化するリスクが高い。海外部門の保有割合が32%に達する英国の国債市場と比べれば、日本の国債市場での海外部門の影響力は小さいが、満期保有を前提とした国内勢が多いなか、海外勢の動きが相場変動を引き起こす着火点となる可能性がある。
また、高齢化で貯蓄を取り崩す世帯が増加することや、製造業の輸出競争力が低下するなか、日本の経常黒字や対外純資産が中長期的には縮小する可能性も指摘されている。これまで財政危機が起きなかったことや現時点で経常収支が黒字であることを理由に、今後も日本で財政危機が起きないと断じることには一抹の不安を覚えるのも事実だ。