為替の展望
円安が急激に進んでいます。私が、為替相場に関して最も参考にしているのは、ソニーフィナンシャルホールディングス 執行役員兼金融市場調査部長の尾河眞樹 です。最近「ドル円取り巻く環境に変化、『円安雪崩』には要警戒」をロイターに寄稿していますので、勉強しましょう。
ドル/円は、2018年11月以来、約3年ぶりとなる114円台を付けた。ドルと円の名目実効為替レート(BIS・60通貨ベース)を見ると、これまでリスクオンの際にはドル安・円安、リスクオフではドル高・円高と、その他の通貨に対してドルと円は同じ方向に連動しており、力関係が概ね拮抗するなかで、ドル/円は方向感に欠ける相場展開が続いていた。
ところが直近は、こうしたドルと円の正の相関関係が崩れ、ドル高と円安が同時進行している。10月以降はドル高よりも、円安の動きが勢いを増しており、さながら「円独歩安」の様相を呈している。
FRBのタカ派シフト
第1に、最も大きな変化としてFOMCメンバーの政策スタンスが挙げられよう。9月のFOMCでは、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が記者会見でテーパリングについて、「不測の事態にならない限り今年11月に決定し、22年半ば頃に終了する」との見通しを示した。日米2年債利回り格差とドル/円相場の連動性は高まっており、ドル高・円安が進みやすかったこともうなずける。
グローバルインフレと金融政策
第2に、米国のみならずグローバルにインフレが注目され、市場のメインテーマになってきたことも大きな変化だ。パンデミックは世界のサプライチェーンを滞らせ、供給不足が広がった。加えて労働力不足によって賃金にも上昇圧力がかかってきた。折しも経済活動の再開による需要増も相まって、物価が押し上げられている。これに原油価格の上昇という要因も加わったことで、予想以上にインフレは加速し、想定よりも長く続くのではないかとの見方が広がっている。一方で、日本はといえば、消費者物価指数(CPI・生鮮食品を除く)は低下にこそ歯止めがかかったものの、8月は前年比0%と、上昇率は2%のインフレターゲットには遠く及ばない状況だ。日銀の緩和からの出口は、他の主要国と比べて明らかに最も遠く、これが足元の円全面安を促していると思われる。
財政支出拡大
2020年11月の選挙結果は上院の議席数が民主・共和が半々となり、カマラ・ハリス副大統領のたった1票のみ民主党が上回る形となった。いわゆる「薄氷のトリプルブルー」となったことで、バイデン政権はその後、「小さな政府」の共和党に譲歩せざるをえなくなった。当初計画していたような規模のバラマキは不可能な情勢となったことで、実際にはドル独歩安とはならなかった。また、想定以上にインフレが加速するなか、FRBもいよいよ金融政策の正常化に向かって準備しはじめた。
リスクシナリオ
翻って、日本はといえば、衆院選の各政党の公約を見る限り、与野党そろってバラマキ色が強くなっている。バラマキの結果日銀は緩和を続けざるをえず、日本の緩和からの出口はさらに遠のく可能性もある。足元の円安がそれを意識したものと判断するのはやや早計だが、円だけが不気味に独歩安となっている状況や、シカゴIMM市場で投機筋が再び円のネットショートポジションを膨らませつつある点などは、市場がそれを織り込みに行っているのかどうか、その背景を注意深く観察する必要がありそうだ。
筆者はFRBの出口戦略による日米実質金利差拡大に伴い、今後も「緩やかに」ドル/円が上昇するとの見方は変えていない。一方、ドル/円の115円ちょうどは17年3月以来上抜けておらず、極めて強いレジスタンスであり上抜けるのは当面困難と思われる。ただ、今後仮に突破した場合には、重要な節目となるだけに雪崩のようなドル/円の買い戻しが起こるリスクもある。その場合は短期的に17年1月高値の118円台半ば付近まで急上昇する可能性もあるため注意が必要だ。
短期と中長期
尾河氏の115円、118円という数字は、短期的な見通しの中の数字であるので、私にとってはあまり関心がありません。尾河氏の考えを見聞きする人たちは、業界関係者や個人の投資家、特に個別株式を中心に短期で売買する割合が多いでしょう。一方私は数年前に株式ETFを買って、そのままにしてあります。つまり「買いっ放し Buy and Hold」です。私の子供達も、確定拠出年金やつみたてNISAで、毎月あるいは毎年、外国株式インデックスファンドを一定額ずつ買い続けています。こういう人達にとって、半年後、1年後の為替動向に関心がありません。大事なのは10年後、20年後にどうなるだろうかということです。
日本円の独歩安
尾河氏の「日本だけが・・・バラマキをする結果日銀は緩和を続けざるをえず、日本の緩和からの出口はさらに遠のく可能性もある。・・・円だけが不気味に独歩安となっている状況などは、市場がそれを織り込みに行っているのかどうか、その背景を注意深く観察する必要がありそうだ。」という言葉を聞くと、5年後、10年後、15年後の大きな円安相場にまた一歩近づいたような気がします。