老後2,000万円問題
金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」による「老後30年間で約2,000万円が不足する」という試算の報告は、「老後2,000万円問題」と呼ばれて注目されました。ある証券会社は、この問題をてこに、資産形成に役立つ魅力的な税制優遇制度として、NISA・つみたてNISA・iDeCoをご紹介しています。ここまでは良いのですが、それに続けてロボアドバイザーやファンドラップを勧めています。つみたてNISAなどの商品の信託報酬は0.2%以下が主流ですが、ロボアドバイザーやファンドラップの勧めるファンドの信託報酬は、一桁違う2%前後に跳ね上がり、売買手数料も1%以上取られます。
油断も隙もあったもんではありませんが、このワーキンググループが作成した「高齢社会における金融サービスのあり方」の資料自体には有用なものも含まれていますので、その内容を改めて確認しようと思います。
長寿化の進展
現在60歳の人の約4分の1の人が95歳まで生きるなど、長寿化が進展
60歳の人のうち各年齢まで生存する人の割合 | ||
2015年推計 | 1995年推計 | |
80歳 | 78.1% | 67.7% |
85歳 | 64.9% | 50.0% |
90歳 | 46.4% | 30.6% |
95歳 | 25.3% | 14.1% |
100歳 | 8.8% | ― |
アメリカ人は資産が3倍に
米国は、退職口座(IRA、401k等)、投資信託を中心として、退職後も含め現役時代から資産形成を継続し、退職世代等の金融資産は過去20年で約3倍に増加。
米国における年齢階級別金融資産額の推移(万円。1世帯当たり平均) | |||
年齢 | 1998年 | 2007年 | 2016年 |
75~ | 1,952 | 3,126 | 5,870 |
65-74 | 3,144 | 5,095 | 5,896 |
55-64 | 3,365 | 4,766 | 6,270 |
45-54 | 2,075 | 2,995 | 3,399 |
35-44 | 1,205 | 1,315 | 1,371 |
~35 | 404 | 334 | 461 |
日本は変わらず
日本の家計の金融資産は過去20年間伸びておらず、直近では退職世代等の保有する世帯当たりの金融資産は米国の半分以下。
日本における年齢階級別金融資産額の推移(万円。1世帯当たり平均) | |||
年齢 | 1994年 | 2004年 | 2014年 |
70~ | 2,060 | 2,211 | 2,059 |
60-69 | 2,087 | 2,159 | 2,129 |
50-59 | 1,509 | 1,610 | 1,596 |
40-49 | 1,099 | 1,092 | 924 |
30-39 | 700 | 644 | 600 |
~29 | 402 | 341 | 361 |
年齢階級別非正規雇用比率の推移
親は非正規、子供は正規
55~64歳の急激に上昇していますが、我が家においても子供たちが正規雇用社員、親は非正規雇用社員です。また年齢区分が55~64歳になっていますが、55歳になると役職定年や、出向などで非正規雇用になるケースも増えるのでしょう。
60歳代の就業率の推移
70歳まで働く時代に
年金受給会年齢の高齢化と、それに伴う雇用の義務化などで60歳代の就業率が高まっています。日本人男性は、奥さんから働き続けろと言われる場合が多いようですが、欧米ではそのようなことは少ないようです。趣味や社会活動の開始は50歳前後には始めた方が良いという人もいます。
退職給付額の推移
退職金から確定拠出年金へ
退職給付額は減少していますが、その理由は企業型確定拠出年金、選択制確定拠出年金(選択制DC)に置き換わっているという理由もありそうです。
DCは自分で運用
選択制DCは、退職金や給与などの一部について、企業型DCの掛金として拠出してもらうか、これまで通り給与として受け取るか、従業員が自らの意志で選択することができる確定拠出年金制度です。
確定拠出年金は冷たい制度?
退職金や企業年金が減って、代わりに確定拠出年金が導入される場合、従業員はどう思うのでしょうか。約20年前に、私が勤めていた会社が確定拠出年金を導入したときには、自分で運用しなければならず、不安になり、冷たい会社だと思いました。
外国株式インデックスファンドで2.85倍に
しかし、元金600万円を全額外国株式インデックスファンドで運用した結果、2.85倍の1,700万円にまで増加したのですから、今は確定拠出年金を導入してくれてありがたいと思っています。このまま順調にいけば、1,800万円になりそうですから、アメリカ人と同じように3倍になるかもしれません。しかし、これは全額外国株式インデックスファンドで運用したから達成できたのであって、他の多くの人のようにバランス型ファンドを選んでいたら、はるかに低迷していたでしょう。ましてや、当時、銀行預金を選んだ9割の従業員は、金利がほぼゼロですから、悲惨なことになっているはずです。これこそが、日米の退職世代の日米3倍格差なのです。
現役世代と退職制代の金融資産の世帯数分布
退職世代の金融純資産の保有額は現役世代と比べて幅広く分布
一番左の棒グラフは「~0円」となっているので、借金の方が資産より多いという意味です。現役世代で住宅ローンを抱えていれば、「~0円」になります。住宅は人生最大の買い物ですから50歳あるいは60歳くらいまでは、住宅を購入するために働いているようなものです。
世帯主が60代の世帯の資産構成
退職世代の資産全体の6割以上が住宅資産
子供を育てても資産にはなりませんが、住宅は資産として残ります。
現役世代と退職世代の住宅資産額別の世帯数分布
退職世代は現役世代よりも住宅資産を保有している割合が高く、保有している住宅の資産額は現役世代と比べて幅広く分布