<昨日の続き:「行動経済学を応用した消費者詐欺被害の予防に関する一考察」―金融広報中央委員会(事務局 日本銀行情報サービス局内)福原 敏恭ーという論文の勉強です>
(注)⇒ は私の意見です。
被害者心理面からみた詐欺被害予防の原則
情報の受け手である被害者の心理に配慮した上で、具体的な詐欺予防策を検討する(。検討に当たっては、
①情報過多に配慮し伝える要点を 3 点までに限定したほか、
②自信過剰傾向のみられる平常時の対応を加えるとともに、
③各対応策の表現を禁止型・否定的ではなく、行動奨励型・肯定的内容とする、
といった点に配慮した。
以下の表に従い、①平常時の準備、②突然電話がかかってきた場合の対応、③その他心理要因、の三つのフェーズに分けて詐欺予防策を検討する。
被害者心理面からみた詐欺被害予防の原則
状況 | 被害者心理 | 対応策 |
平常時の 準備 | 自信過剰・無関心 | (電話に出ないための事前対応) ① 詐欺脆弱性テストなどで、「誰でも騙される」ことを理解 ② 「電話に出ない」ためのハードウエア上の対策 |
犯人からの 突然の電話 | 説得的話法により、 次第にひきこま れていく | (突然の電話への対応原則) ① 説得的話法の速やかな察知と会話の打切り ② 第三者と相談する機会の確保 ③ 個人情報の秘匿と質問・反論による牽制 |
その他心理 要因 | 疲労や高ストレスに よる判断力の低下 被害に遭った記憶 と教訓の散逸 | ① 疲れやストレスがたまっていると感じるときは、電話に 出ない。または、「家族と相談する」と言って電話を切る。 ② 再被害防止のため、第三者への相談体制などの徹底 |
(自信過剰傾向の拡がりと問題)
心理面で平常時の最大の問題は、「他人は詐欺被害を受けることがあっても、自分は撃退できる」あるいは「自分は騙されない」という自信過剰傾向が行動に及ぼす影響である。
わが国の消費者のうち、どのくらいの人に自信過剰傾向がみられるのか、データで確認する。内閣府が 2017 年に公表した特殊詐欺被害に関する世論調査の結果では、約 8 割の回答者が、広義の「被害に遭わないと思う」と回答している。
高齢者ほど自信過剰傾向
これを回答者年齢別にみると、広義の「被害に遭わないと思う」の回答比率は、どの年代でも 8 割程度でさほど変わりはない。ただし、その内訳をみると、高齢者になるほど、「どちらかといえば自分は被害に遭わないと思う」が減少する一方、「自分は被害に遭わないと思う」の選択比率が上昇しており、自信過剰傾向が強まっている。
融リテラシーが低い層は自信過剰
また、詐欺対応能力と関連が高いとみられる金融リテラシーの状況について、2016 年公表の「金融リテラシー調査」の結果をみると、消費者は、自分の金融リテラシーを実力以上に評価する傾向がみられ、こうした傾向は金融リテラシーが低い層で特に顕著である。
(自信過剰傾向への気づき)
一般的に、自信過剰傾向にあることに自ら気付くことは難しい。このため、第三者が、ミニテストやセミナーなどの機会を提供することで、個々人に詐欺被害に対する対応能力が十分ではないことを自覚させるアプローチがとられることが多い。
まず、米国の例をみると、
①詐欺脆弱性を診断するミニテストを実施し、採点結果に基づき警告する、
②「宝くじに当選した」など実際の勧誘を装った模擬訓練を行い、勧誘に興味を示した潜在的な被害者に対して詐欺脆弱性が高いことを警告する、
などの手法が実用化されている。
米国の詐欺脆弱性テストは、主に架空投資詐欺被害を念頭においた 12 問から構成されているが、これには、詐欺被害の危険因子に関する長年に亘る研究結果が反映されている。
米国の詐欺脆弱性テストの例
設問1 | 過去1年間にテレビ・新聞・インターネット等の無料品進呈広告に応募したことはあるか (はい/いいえ) |
設問2 | 過去1年間に無料の懸賞金に応募したことはあるか(はい/いいえ) |
設問3 | 過去1年間に無料食事付きの投資セミナーなどに参加したことはあるか(はい/いいえ) |
設問4 | 過去1年間にダイレクトメールを含め殆どの郵便物に目を通しているか(はい/いいえ) |
設問5 | 電話勧誘拒否制度に登録しているか(はい/いいえ) |
設問6 | あなたが興味を示す勧誘は次のうちどれか(複数回答可) (SECの登録業者である/期待収益率は、最低で50%、多くの場合110%/元本保証で、 損は生じない/最近3か月間に1万人以上が購入している) |
設問7 | 過去1年間に投資する前に、投資業者の各種情報を尋ねたり、自分で確認したか(はい /いいえ) |
設問8 | 過去に投資したことのあるものを全て挙げよ(資源開発関連投資/優良企業株式/ 宝くじ/商品先物取引/金貨) |
設問9 | 次のどちらの投資がより好ましいか?(市場平均的収益率の比較的安全な投資/より リスクは高いが収益率も高めな案件) |
設問10 | 一般的に、面白いことなら、少しぐらい危険を伴っても構わない(当てはまる/当てはま らない) |
設問11 | 一般的に、比較検討せずに、行動することが多い(当てはまる/当てはまらない) |
設問12 | 年齢は?(未成年/19~30歳/31~49歳/50~64歳/65~80歳/81歳以上) |
採点方法……赤字の選択肢を選択した場合1点、その他の場合0点として合計点を算出。
合計点 0~5点……低リスク
6~11点……中リスク
12~17点……高リスク
わが国でも、個人の心理特性に着目して、陥りやすいトラブルを自己診断するテストがインターネット上で公開されているほか、セミナー参加者に対しても同様のテストが実施されている。また、敬老会など地域住民が集合する場で詐欺予防セミナーを開催することにより、詐欺対策に無関心な消費者層にも学習機会を提供する工夫が行われている。
わが国における詐欺脆弱性テストの例(「だまされやすさ心理チェック」)
(問1) 自分のまわりにあまり悪い人はいないと思う
(問2) 相手に悪いので人の話を一生懸命聞くタイプだ
(問3) たまたま運の悪い人がトラブルにあうのだと思う
(問4) 知人から「効いた」「良かった」と聞くと、やってみようと思う
(問5) 有名人や肩書のある人の言うことはつい信用してしまう
(問6) 人からすすめられると断れないタイプだ
(問7) 迷惑をかけたくないので家族にも黙っていることがある
(問8) 実際、身近に相談できる人があまりいない
(問9) しっかり者だと思われたい
採点方法……当てはまる数が多いほど、消費者トラブルにあう危険度が上昇。また、
設問別に、以下の傾向がみられる
問1~3に該当する場合は、トラブルに応じて危機意識が薄い傾向
問4~6に該当する場合は、騙されているのに気が付かない傾向
問7~9に該当する場合は、騙されたとき一人で抱え込んでしまう傾向
⇒ この論文には、この後も細かいことをたくさん書いてありますが、一般の人が、そんなに細かいことを気にしていられませんから、私は次のことに気を付けようと思います。
① 留守電
家の電話は留守電にして、電話のそばにいる場合も出ず、録音を始めた内容を聞いて、知り合いなら出る。
② 現金、預金は最小限
家に現金を10万円以上は置かない。預金は、生活で使う口座に数十万円だけ入れて、だまされても100万円以上の詐欺被害に遭わないようにする。
③ 家族に連絡相談
家族に連絡・相談を頻繁にする。