401(k)、通常IRA、Roth IRA

アメリカの年金制度

日本の確定拠出年金には、企業型と個人型(イデコ)があり、企業型は2001年10月1日から掛け金の運用が始められ、日本版401(k)ともいわれます。このブログでは、アメリカのお金について新聞記事を紹介することがありますが、日本にはない制度があります。アメリカには、401(k)以外にも、通常IRA、Roth IRAがあるので、ここで整理しておきましょう。

401(k)

米国の確定拠出年金制度のうち、内国歳入法401条(K)項を根拠とする税制適格年金制度で、1978年の法改正で導入されました。

従業員給与からの拠出がメイン

従業員の給与からの拠出金が主となりますが、企業もそれに上乗せ拠出を行うことができます。各従業員の加入は任意で従業員が自ら運用指図を行い、その結果については自分自身が責任を負います。従業員の拠出は課税所得から控除、企業の上乗せ拠出は損金算入、資産運用の収益については給付金受取りまで課税繰り延べなど、税制面で優遇措置があります。

401(K)のポータビリティ

各従業員の持分が明確であり、転職時には転職先の401(K)プラン等に移換することができます(ポータビリティ)。転職先に401(K)プランが導入されていない場合はIRA(個人退職勘定)に移換する、そのまま残す、一時金で受け取る(ペナルティあり)等が選択できます。

Roth IRAとTraditional IRA

401(k)と並んで、リタイヤメント準備のためによく使われるIRA(Individual Retirement Arrangements)。IRAにはいろんな種類がありますが、その中でももっともよく使われるのはRoth IRAとTraditional IRAです。このふたつのうちで、どちらがベターかという前に、収入がなかったり逆に多すぎたりしてはそもそも利用できない場合もあります。

IRAについて、ペンション・リサーチ・センター研究理事 杉田 健の「米国の個人退職勘定IRAと日本への導入の可能性について」に基づいて勉強しましょう。

IRA

IRAとは図1に示すとおり米国の個人年金制度の一種で、Individual Retirement Accountの略であり、個人退職勘定という意味です。

4種類のIRA

米国のIRAには4種類あり図2のように分類できます(IRS(2013))。

IRAは1974年の退職所得保障法(ERISA)の成立と同時に、職域年金のない従業員に、税制優遇のある退職資産形成の手段を提供する目的で導入されました。また、1997年には拠出時点では所得控除ができませんが、運用時非課税、給付時非課税のロスIRAが導入されました。ロスというのは、この制度を提案したウィリアム・ロスWilliam Roth上院議員の名前をとったものです。伝統的IRA,SEP-IRA,SIMPLE-IRA,ロスIRAの4種類があるわけですが、このうちSEP-IRAおよびSIMPLE-IRAは個人年金というより、企業年金に分類することもできましょう。

全般的特徴

(1)課税

米国の年金税制について、拠出・運用・給付それぞれの段階における課税(TAXのTであらわす)、非課税(ExemptのEであらわす)を一覧にすると表1のようになります。

表1 米国の年金課税

公的年金 税制適格年金(DB、401kを含む) 伝統的IRA(広義) ロスIRA
拠出時 課税 非課税 非課税 課税
運用時 非課税 非課税 非課税 非課税
給付時 非課税 課税 課税 非課税
まとめ TEE EET EET TEE

伝統的IRA(広義)は拠出段階で非課税(E)、運用段階で非課税(E)、給付段階で課税(T)なので、EETで、ロスIRAは拠出段階で課税(T)、運用段階で非課税(E)、給付段階で非課税(E)なのでTEEとあわらします。

(2)運用対象

IRAに蓄積された資金の運用は自己責任で行いますが、以下の者への運用はできません:
・自分への融資
・ローンの担保にすること
・自分が使用する不動産購入

それ以外は、投資信託、個別株、債券、年金保険、不動産など、何にでも投資できます。IRA口座の投資収益(利息・配当・キャピタルゲイン)には税金がかかりません。

(3)資金の引き出しに係る課税

ロスIRAの場合は、最初の拠出から5年以上たてば非課税となります。
伝統的IRAの場合は59.5歳未満で引出すとペナルティーとして10%の税金が控除され、しかも引き出し額には所得税もかかります。ただし、以下の場合は例外として10%のペナルティーは課されません:
・自分・配偶者・子供または孫の大学の学費
・調整済み総所得の7.5%を超える医療費
・最初の自宅購入(上限10,000ドル)
・突然の障害の費用
さらに、一旦金額を引き出しても税務申告までに戻せば10%のペナルティーはかかりません。

伝統的IRA(広義)において年齢59.5歳以上の引き出しはペナルティーとしての課税がありませんが、所得税はかかります。

70.5歳以上になると伝統的IRA(広義)の場合は金額の一部または全部の引き出し義務があり、それに所得税がかかります。

(4)IRA口座を開設できる金融機関

IRA口座はたいていの大規模な金融機関で扱っています。例えば銀行、投資信託会社、証券会社です。これらの会社の差異は手数料体系にあります。

伝統的IRA(狭義)

(1)特徴

最も普及しているIRAです。

(2)拠出

課税所得があり、70.5歳未満であれば拠出できます。拠出限度は、以下の小さい方の額です。
・5500ドル(50歳以上であれば6500ドル)
・当該年度の課税総報酬額
なお、この限度は他の制度からの移換(ロール・オーバー)には適用されません。

ロスIRA

(1)特徴

ロスIRAは伝統的IRA(広義)と異なり、所得制限がありますので、一定の所得以上であれば選択できません。
前述のようにロスIRAは拠出段階で課税済みですから、伝統的IRAと比較して払い出しが比較的柔軟です。すなわち拠出した元本相当額には10%ペナルティがかかりません。しかし、59.5歳前に投資収益相当額を引き出そうとするとペナルティがかかります。また、伝統的IRA(広義)等の他の制度から移換された金額は、移換から5年経過しないと引き出しにペナルティがかかります。実務的には、お金に色があるわけではないので、米国の税当局は資金の引き出しを元本、伝統的IRA(広義)等からの移換金額、投資収益の順に行ったと見做して課税判定します。

(2)拠出

課税所得があり、70.5歳未満であれば拠出できますが、伝統的IRA(狭義)と同じ拠出限度に加えて、所得等による制限があります。