金融庁の報告書
少し古い話になりますが、2013年4月に金融庁金融研究センターは、金融経済教育研究会の研究会報告書として、「最低限身に付けるべき金融リテラシー」をまとめました。
日本人の特徴
2008年にリーマンショックが発生し、儲けた人もいますが、逆に損をした人も多くいました。日本人の場合には、郵便局の貯金や、銀行預金など元本確保型の商品が好きで、それ以外の商品に対する知識があまりありませんでした。
儲け主義だけの金融機関
また、金融機関も売買手数料で儲ける証券会社、内部留保獲得に躍起になる生命保険会社、顧客のことを考えず自分たちのことを重視する銀行等、金融機関にも大きな問題がありました。
消費者のことを考えない金融行政
また金融行政も、アメリカの退職者向けの制度に比べると、大きく水を空けられていました。
利用者の問題
このような、金融機関、金融行政以外にも、金融を利用する消費者にも問題がありました。アメリカでSPY(アメリカSPDRのS&P500のETF)が発売されたのは1993年でしたから、この報告書が出た2013年には既に20年が経過しています。ところが、世界最大のETFであり、アメリカ大型株全体に分散投資すれば年率10%のリターンを得られるということを、ほとんどの日本人は知りませんでした。2020年の現在でも、このことを知る日本人は、極めてわずかでしょう。
金融行政、金融機関、利用者の努力
一方で、金融行政、金融機関の確信を推し進めると同時に、他方で、利用者の金融リテラシーが向上すれば、金融機関の選別、金融商品の選別が進み、利用者にとって役に立つものだけが生き残れるようになります。
金融リテラシー=金融ケイパビリティ
リテラシー(Literacy)とは読み解く能力のことで、金融リテラシーとは金融に関する知識や情報を正しく理解し、主体的に判断することができる能力を指します。なお、OECD によれば、米英では、ほぼ同じ内容について、「金融ケイパビリティ」という用語を用いています。
イギリス
日本のNISA、つみたてNISAはイギリスの制度を参考にして作ったものですが、イギリスは金融リテラシーをどう考えているのでしょうか。
FSA(金融サービス機構(Financial Services Authority))が実施した「英国における金融ケイパビリティ」(2006 年3 月)という調査において、家計管理や長期的な生活設計の能力の欠如が、金融取引を巡るトラブルを招いている、との指摘を行った上で、身に付けるべき金融リテラシーとして以下の4つを掲げています。
- 家計管理(収支を一致させること、収支を記録することの重要性)
- 長期的な生活設計(緊急事態に備えた資金の確保、中長期的な教育資金・老後資金の確保のため計画を立てる重要性)
- 金融知識(金利(単利、複利)、分散投資、インフレ、デフレ等の知識の理解の重要性)
- 適切な金融商品の選択(保険商品、ローン商品、投資商品で適切な商品を選択する能力の重要性)
アメリカ
確定拠出年金で参考にしたアメリカはどうなっているのでしょうか。
「金融ケイパビリティに関する大統領諮問委員会」に関する大統領令(2010 年1 月 29 日)において、「金融ケイパビリティとは、知識とスキルとアクセスに基づいて金融資源を効果的に管理する能力です。(中略)金融ケイパビリティは、個人に、情報を選択し、落とし穴を避け、どこに助けを求めにいったらよいかを知り、現状を改善し長期的な金融面での暮らしを改善するための行動を取る力を与える。」とされており、知識・スキルのほか、どこに助けを求めにいったらよいかというアクセスの重要性が追加されています。
アメリカ人シニアの資産は20年で3倍
(平成30年7月3日の金融庁の「高齢社会における金融サービスのあり方(中間的なとりまとめ)」)
アメリカと日本の金融の差は、リタイヤ―後の保有資産において、顕著に出ました。日本は1990年代も現在も約2060万円で変化がありません。アメリカは1990年代は日本よりやや低かったのですが、現在は5870万円で約3倍になっています。
日本の金融リテラシー
日本においても、生活スキルとして最低限身に付けるべき金融リテラシーを整理すると、以下の通りです。
- (a)家計管理
- (b)生活設計
- (c)金融知識及び金融経済事情の理解と、適切な金融商品の利用選択
- (d)外部の知見の適切な活用、
金融の教育
現在、日本における金融経済教育は、金融庁をはじめとする関係当局、金融広報中央委員会や各都道府県金融広報委員会、学校や自治体、業界団体や各金融機関、NPO 団体等の多種多様な関係者によって、様々な取組みが行われています。
(1)金融広報中央委員会における金融経済教育
- 学校における金融教育を効果的に進めるために、教員、学識経験者、政府と連携しながら、小・中・高等学校の各段階における金融教育のあり方、指導計画例を取りまとめた「金融教育プログラム10」の作成
- 平成 24 年(2012 年)9 月には、国民の金融リテラシーの水準を客観的に把握する観点から、知識に加え、金融行動や態度に関する調査項目を加えた、「金融力調査」の公表
(2)学校段階における金融経済教育
学校段階における金融経済教育は、主として社会科・公民科及び家庭科で実施されています。
(3)社会人・高齢者段階における金融経済教育
業界団体・各金融機関等、自治体(消費生活センター、公民館等)、市民グループ等の取組み、確定拠出年金加入者への投資教育が行われています。
<明日に続く>