長期・分散・低コストによる資産形成 7

<昨日の続き>

「2041 年、資産形成をすべての人に~5 つのターゲットと 15 のアイデア~」をもとに考えています。

詳細で精密であるほど、うさん臭さを感じる

この報告書の後半では、「ターゲット達成に向けた15のアイデア」を載せています。しかし、個人投資が現在迎えている大きな変化をとらえているものは一つもないように感じます。また、この報告書はボリュームも大きく、精緻に検討がなされているように思えますが、このような一見精緻に見える報告書や制度というものは、そのまま、素直に受け取ってよいかどうかは疑問です。私はかつて勤めていた会社で新人事制度を策定した経験がありますが、その制度について「詳細で精密であるほど、うさん臭さを感じる」と言われた経験があります。私が、思っていたことをズバリ言い当てられた思いでした。その制度は結論ありきで、それを従業員、労働組合に説明するために複雑な内容にしたのです。それは、私も、経営者も労働組合も暗黙の裡に理解していて、合理化、リストラを実現するための作文でしかないという面が強かったのです。

そこでここでは、この報告書ではあまり扱いっていない、個人投資家に起こっている事象を再度検討したいと思います。

① 確定拠出年金、つみたてNISA

確定拠出年金は、個人型であるイデコ(ideco)が脚光を浴びる場面が多いのですが、企業型の方も重要です。

iDeCo運用商品

イデコを利用する人は、比較的金融リテラシーの高い人なので、商品選びもしっかりしているようです。マネックス証券のランキングを見てみましょう。

8位のひふみ年金と9位の ゴールド・ファンド(為替ヘッジあり)以外は信託報酬が0.2%以下なので、低コストの商品を選んでいることが分かります。

iDeCo運用商品ランキング(2020年7~12月)

順位 商品名 信託報酬(年率・税込)
1 eMAXIS Slim 米国株式(S&P500) 0.10%
2 eMAXIS Slim 先進国株式インデックス 0.10%
3 三菱UFJ 国内債券インデックスファンド(確定拠出年金) 0.13%
4 One DC 国内株式インデックスファンド 0.15%
5 eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー) 0.11%
6 eMAXIS Slim バランス(8資産均等型) 0.15%
7 eMAXIS Slim 先進国債券インデックス 0.15%
8 ひふみ年金 0.84%
9 ゴールド・ファンド(為替ヘッジあり) 0.41%
10 eMAXIS Slim 新興国株式インデックス 0.19%

つみたてNISA

マネックス証券のつみたてNISA「毎日つみたて」買付口座数ランキングは以下の通りです。こちらも信託報酬が0.2%以下の低コスト商品がそろっています。

順位 商品名
1 eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)
2 eMAXIS Slim 先進国株式インデックス
3 eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)
4 eMAXIS Slim バランス(8資産均等型)
5 <購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンド

企業型確定拠出年金

一方、企業型確定拠出年金は、イデコやつみたてNISAと異なり、自発的に拠出・運用しているわけではありません。したがって、投資に対する認識、知識、経験が少なく、あまりリターン・リスクを追わない傾向があるのでしょう。

元本確保型商品のみで運用する加入者

元本確保型商品のみで運用する加入者が4割以上存在する企業が37.9%を占めている。

また、この傾向は選択制の企業型確定拠出年にもみられ、5万5千円まで積み立てられるのに、付き合いで1万円を銀行預金で運用している人もいます。わたしなら、迷わず限度額いっぱいの5万5千円を外国株式インデックスファンドにします。イデコや、つみたてNISAだけに焦点を当てるのではなく、企業型確定拠出年金や、その選択制の場合についても議論してほしいものです。

② ネット証券

この研究会の構成メンバーが対面証券だけで、SBI、楽天などのネット証券が入っていないので、インターネットを活用した個人投資に焦点が浴びられない恐れがあります。デジタルトランスフォーメーションについても議論されていますが、それは対面証券会社にとって、という狭い範囲の議論になりがちです。既に、我が家では対面証券の時代は終わり、ネット証券の時代に移行しました。私と連れ合いがいなくなった後、子供たちはSBI証券だけで資産運用をするでしょう。

③ 自動積立とクレジットカード

証券会社でiDeCo、つみたてNISA、自動積立を行うときに少し難しい仕組みが、銀行の自動引き落としと送金です。それをなじみのある方法で、かつ、ポイントまでつけて行っているのが楽天証券です。これからの証券会社は、楽天のように様々な手続きのハードルをいかに低くするかに知恵を絞る必要があります。

④ ブログ、ユーチューブ

楽天証券は、今にも野村證券やSBI証券の口座数を上回る勢いですが、その大きな要因の一つが、ユーチューブによる解説だと言われています。私自身も、ペイペイの利用方法はユーチューブで学びました。また、トイレの貯水槽の修理の仕方もユーチューブで詳しく説明してくれています。

ブロガーのブログも有効で、これからはまとわりついてうるさいネット広告より、ブログ、ユーチューブの影響力がますます高まるでしょう。

⑤ 低コストインデックスファンド

低コストインデックスファンドは、ネット証券、若い個人投資家、積立投信にとっては必須の商品ですが、相変わらず、野村證券、大和証券などの対面証券は品ぞろえをしていません。このため、私の子供たちは野村證券を見限りました。低コストインデックスファンドをテーマに議論しなければ、問題の核心に迫ることはできないでしょう。

⑥ メディアの責任

新聞、雑誌は、相も変わらず、アクティブファンド、ラップなど広告主のための記事を載せていますが、読者である個人投資家のためになる記事はなかなか見ることがありません。日本で低コストインデックスファンド、ETFが普及しない最大の要因はマスメディアではないかと思います。個人投資家のため、読者のために、マスメディアは記事の内容を検討してほしいと思います。

今回、この報告書を読んであらためて思ったのは、対面証券会社と個人投資家の立場、ものの見方の違いです。対面証券には、顧客の立場に立った商品づくり、事業運営をしてほしいものです。

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