膨大する国債残高と個人ができるインフレ対策(2022改訂版) 4

<昨日の続き>

<以下は詳細な説明です。>

膨れ上がる国債の現状

国債が毎年増えていても、まだ、個人の預貯金があるから大丈夫だという説明を聞くことがあります。
それではどのような状況になると問題なのでしょうか。2021年12月に、個人の金融資産が2,023兆円ありますが、一方で365兆円が住宅ローンなどの負債だとすると、実質的な資産は

2,023-365=1,658兆円

しかない計算になります。(日本銀行: 部門別の金融資産・負債残高(2021年12月末))その時点での国・地方の債務残高1,419兆円ですから、残りの

1,658―1,419=239兆円

が今後の国債増発分を吸収できることになります。毎年増える国債が40兆円だとすると、あと6年経つと国債増発の引き受け資産が無くなることになります。国債の増え方は、金利によって変化するので、例えば現在のゼロ金利が2%に上昇すれば、28兆円増加します。

1,419 ✖ 2% = 28兆円

その間家計の金融資産は増えるでしょうが、それが国債に向かわずに、海外投資に向かえば、家計は国債の引き受け手になりません。

崖まで239メートル

これを崖にたとえてみましょう。1兆円を1メートルとします。日本は毎年、40メートルずつ、財政の崖に向かって進んでいるとします。崖までは残り239メートルです。崖まではまだ239メートルあるので、差し迫った恐怖を感じている人はまだ少ない様です。3年前に初めてこの記事を書いた時には、新型コロナウイルスの発生やロシアのウクライナ侵攻は予想していませんでしたから、この間、予想外に崖に近づきました。そして、これからも毎年確実に崖に向かっています。崖までの間には背の高い草むらや森や霧が立ち込める中にいるようなもので、今の日本人には、目の前のものしか見えません。もしドローンがあれば崖が近付いていることが分かるのですが、草丈が高いので人間の目の高さで崖は見えません。だから、あまり心配している人がいないのです。国会議員は6年も先のことより、今年、来年の自分の選挙当選の方が、はるかに大事なのです。

戦争直後、日本は200倍以上のハイパーインフレを経験

他の国も国債を増発することは有りますが、これほど早いスピードで崖に向かっているわけでは有りません。過去において、ハイパーインフレに苦しんだドイツは、崖に近づくことに対しての警戒心が強いのです。しかし、日本は過去のことをすぐに忘れてしまいがちです。第2次大戦後にハイパーインフレで、物価が200倍以上になったり、預金封鎖になったことを語り継いでいる人はあまりいないようです。崖まではまだまだ遠い道のりなのだし、将来的に消費税増税などの手段を講じれば崖から遠ざかることもできると思っているようです。

他国の国債残高は日本の半分以下

他の国も国債残高が一定程度ありますが、日本ほどひどくは有りません。

例えて言えば、崖までの距離が1000メートルもあれば崖に落ちる心配はまず有りませんし、崖に向かって進む速さが遅ければ崖から落ちる心配は有りません。新型コロナ対策以外では、ドイツは崖から遠ざかってきました。ドイツは過去にハイパーインフレで苦しんだ歴史に学んでいます。

世界史の教科書に載っているドイツのハイパーインフレの時代の写真です。通貨インフレのために古い紙幣はほとんど無価値になって、こどものおもちゃになったり、壁紙に使われました。アメリカもリーマンショックの後の2012年以降はあまり国債が増加していませんでした。

もし仮に、崖の高さが高くない国であれば、つまり、借金もGDPも小さい国であれば、IMFなどに助けてもらえるかもしれませんが、日本ほどの経済大国が、これだけの借金を抱えていては、救済できないと言われています。

これから6年で崖に到達?

崖までの距離が239メートルですから、1年、2年で崖に到達してしまうことはないかもしれませんし、国民の預貯金が増えれば、崖は遠ざかるので、崖が目の前に現れるのがいつかを正確に予測することは難しいのです。財政の面から見ると、歳入拡大も歳出削減も難しく、適度なリフレも意のままには行きません。

日銀OB、財務省OBは、円を持ちたがらず、外貨を買いたがる

ところで、6年かからずに崖までたどり着くことは有りうるのでしょうか。あり得ます。逆にもっと遅くなることもありえます。
有名な経済評論家のブログを読むと「私の周辺でも日銀OBたちが、退官して退職金の運用を始めるや『円』を持ちたがらず金とかドルを買いたがる。」とあります。また、この種の話は私自身も友人から聞いています。今は、このような日銀OB、財務省OBの日本円離れの動きがわずかなので、あまり問題になりませんが、多くの国民が同じ動きをするようになると、円は安くなり、その結果インフレになります。現に、最近の投資信託では、外国株式への投資が増え、「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year」の上位銘柄は外国株式ばかりになっています。また、投資信託の資金流入ランキングの上位は外国株式ばかりです。

キャピタルフライトは突然やってくる

このように通貨の信任を失った国から、他国へ資金を一斉に移動させることを資本逃避(キャピタル・フライト)と言います。諸外国の例を見ると、それは突然やってくるようです。その場合には、崖が急速に近づくことになるかもしれません。ただし、金融資産を海外に逃避させる動きは、発展途上国などで時々起こりますが、先進国では最近起きておらず、逆に、危機の時には自国通貨を持ちたがる傾向にあるようです。日本でも、東日本大震災の時には、円高に振れた経験があります。

キャピタルフライトと日本人の特性

しかし、今後もその傾向が続くかどうかは分かりません。もし日銀・財務省OBだけでなく、情報が豊富な金融機関の社員や官僚たちが外貨購入に走れば、他の一般国民も同じ行動をとるかもしれません。

それは、次の小話(こばなし)に日本人の行動パターンがよく表れています。

船が沈没しそうな時に、救命ボートに乗客が乗り移りましたが、独りだけ定員オーバーになりました。誰か一人が犠牲にならなければなりません。

どのように説得するのが良いでしょうか。

アメリカ人に対して:あなたが降りれば、ヒーローになれます。

イタリア人に対して:あなたが降りれば、もてます。

イギリス人に対して:紳士は降ります。

ドイツ人に対して:降りるのが規則です。

日本人に対して:みんな降ります。

この話と同様のことは、最近の新型コロナワクチンでもありました。日本人のアンケート調査で、「周りの人が接種したら、自分も接種する。」というのが顕著に増えているのです。今、日本人が外貨の金融資産を持っていないからと言って、今後も持たないとは言い切れません。

<明日に続く>

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