<昨日の続き>
ところで「崖」とは何でしょうか。
「崖」とは今までの平穏な生活が続けられなくなることです。自分の財産が大地のようにしっかりしたものと思っていたのに、その財産が突然崩れ落ちることです。第2次大戦直後に日本では、ハイパーインフレが起きてインフレ率が2万%以上になりました。つまり、1000万円の貯金があると思っていたのが5万円の価値しかなくなってしまったのです。あるいは、金利が高くなって、自分の勤めている会社が不況倒産になり、収入が無くなってしまうかもしれません。他には、円や国債の暴落も考えられます。円が暴落すれば輸入品が高騰して、生活が苦しくなります。国債が暴落すると、倒産する銀行も出てくるでしょう。そうなれば、その銀行から借り入れを続けられるのかという心配もあります。どちらにしても、安全だと思っていた前提が崩れてしまうことです。
崖が近付く要因は何でしょうか。
このことを考える要素の主なものは以下の項目ではないかと思います。
+①国債残高増加
+②ヘッジファンドによる仕掛け
+③家計や企業の資産が海外に逃避
+④大地震(財政出動と建設需要などによるインフレ)・新型コロナ・ウクライナ侵攻
-⑤緩やかなインフレ(政府・日銀が目指している)
~急激なインフレ(現在世界的に発生)
-⑥経済成長
-⑦本格的財政再建
±⑧日米金利差拡大
丸付き数字の前の+と-の記号は、崖に進む場合が+、崖から離れる場合が-です。そして、それぞれ、進む速さと影響度等が異なりますので、それを表にしました。
崖が近付く要因
進む速さ(最大5個) | 影響度 (最大5個) | 起る確率(最大5個) | 備考 | |
①国債残高増加 | + | 〇〇〇〇〇 | 〇〇〇〇〇 | 根雪がどんどん積み重なっている |
②ヘッジファンドによる仕掛け | +++ | 〇〇〇 | 〇〇〇 | 崖に近づいてから突然仕掛けられる。東日本大震災で経験 |
③家計・企業の資産が海外に逃避 | ++++ | 〇〇〇〇〇 | 〇〇〇〇 | 日銀OB・財務省を始めとしてすでに開始 |
④大地震・新型コロナ・ウクライナ侵攻 | +++++ | 〇~
〇〇〇〇〇 |
〇〇〇 | いつ、どれほどの規模の災害・事件が起こるか不明(新型コロナ・ウクライナ侵攻は小規模だった) |
⑤インフレ | - | 〇〇~〇〇〇〇〇 | 〇〇~〇〇〇〇〇 | インフレ税。インフレ率5%、10%になる恐れ |
⑥十分な経済成長 | - | 〇〇〇 | 〇 | 他国並みが精いっぱい |
⑦本格的財政再建 | --- | 〇〇〇〇〇 | 〇 | 十分な増税はほぼ不可能 |
⑧日米金利差拡大 | ± | 〇〇〇 | 〇〇〇〇〇 | 国債暴落なら日本の金利上昇 |
今の日銀の政策には出口がない?
国債残高増加は、毎年確実に進んでいます。
緩やかなインフレがすでに起こり、世界の後を追って急激なインフレになる可能性が出てきました。
経済成長はあまり進まず、国債残高問題の解決は期待できません。
本格的財政再建は、先延ばしの状態が進まず、それどころか、新型コロナウイルスショック、ロシアのウクライナ侵攻によって、政府の債務問題は一層悪化しています。
日米金利差が急激に拡大し、その結果、円安が進んでいます。現在の金融緩和をいつ止めて、国債価格の下落、日本の金利上昇がいつ始まるかが問題になってきました。しかし日本の金利が上がった時には、財政赤字の急速な増大につながりますが、これは実現可能でしょうか。これがいわゆる出口論です。
崖はどこか?
今後数年たつと、ヘッジファンドが円売りを仕掛けたり、家計の資産が海外に逃避すること(キャピタルフライト)が本格的に起こる可能性もあります。その動きは、突然、一気に加速する恐れがあります。そうなった時に、その動きを止めることができるのでしょうか。世界的な自由経済が定着している中で、それを実施することは容易なことだとは思えません。
MMT理論の「天秤」と「鹿威し(ししおどし)」
現代貨幣理論(MMT:Modern Monetary Theory)は、「通貨発行権を持つ国家は債務返済に充てる貨幣を自在に創出できるため、財政赤字で国は破綻しない。」と主張します。
「インフレにならない限り」
この理論には、「インフレにならない限り」という前提条件が付いています。
インフレは「天秤」
MMT推進派の主張は、「債務がインフレを引き起こすレベルまで達していないことは確かです。債務は全く課題ではない。」ということを前提としています。つまり、国債を発行しても天秤が一方的に傾くような問題が発生していないのだから、どんどん国債を発行して長期停滞から脱却した方が良い、ということですそして、ハイパーインフレの懸念に対しては、「財政拡張策にインフレ防止条項を入れておけばいい。例えば5年間のインフラ投資計画を開始しても、2年目にインフレの兆しが出れば、支出を取りやめる」という対応策を実施するというのです。天秤が動き出したら、下がった方の錘を取り除くということです。
しかし、この対応策には2つの問題があります。
① ハイパーインフレは「鹿威し」
MMTに反対する人は、気がついたときに天秤の錘(おもり)を取り除こうと思っても、時すでに遅く、ハイパーインフレや通貨暴落が発生して、大きな不幸に見舞われることを懸念しているのです。鹿威しが傾き始めたら、それを元に戻すことは不可能で、あっという間にすべてが終わってしまうということです。現在は、この鹿威しを日本銀行が力づくで抑え込んで、ひっくり返らないようにしているのです。まだ、鹿威しはひっくり返っていませんが、水しぶきは既に飛び散り始めました。それは日本の円に見切りをつけた財務省や日銀のOB達です。彼らは退職金を外貨に換え始めました。また、日本の投資家も資産を海外に投資し始めました。2%のインフレ目標を達成して日銀が手を離したら、すぐにひっくり返るのか、あるいは、まだ、ひっくり返らないのかは分かりません。
② ハイパーインフレを止める苦しさ
国債残高が増えれば増えるほど、ひっくり返るときの不幸の大きさは大きいので、それを防ぐためには未然に国債残高を小さくする努力をしなければならないのです。その努力を実行すると、歳出削減と増税によってひどい不況になる恐れがあります。そうなれば、企業倒産が起こり、公務員の給与不払い・解雇、社会不安などが懸念されます。もし破局に至る前に、国債残高を減らすことができたとしても、その努力のための苦しさは、最初から増やさないようにする努力よりもはるかに大きいのですから、最初から増やさないようにすべきだということです。そして、ドイツをはじめとするEU諸国はその努力をしてきましたが、その間日本はどんどん政府の債務を増やし続けてきました。そのツケを払うときが近づいています。
<おしまい>