日本の経済は成長せず、給料は先進国から外れ、日本企業の株式純資産総額は相対的に小さくなっています。一方で社会保障費は膨らみ、軍事費増加の必要性が叫ばれています。
こういった状況を打開するための一つの方法として提案されているのが、フレキシキュリティです。
PRESIDENT 2010年1月18日号の説明を見てみます。
行き詰まる雇用政策の打開策として、フレキシキュリティが注目されている。これは柔軟な労働市場(flexibility)と高い失業保障(security)を両立させた政策のことで、デンマークやオランダではこれにより失業率の低下と経済成長を実現したとされる。
柔軟な労働市場とは、すなわち解雇しやすい労働市場である。立教大学の菅沼隆教授によると、デンマークでは「自発的離職を含む年間転職率は30%前後と高い。つまり全労働者の4分の1から3分の1が毎年転職している」。ただし「土壌が異なるので、日本で解雇の自由を認めることは弊害が大きい」とも。
デンマークの転職率の高さの背景には、労使が参加し、莫大な手間と公費をかけた再就職支援政策が存在する。職業訓練プログラムは中央、業界、地域のいずれのレベルでも労使共同で効果的なものが開発され、企業は実習訓練の場を提供する。しかも職業訓練は失業中だけでなく在職中でも受講でき、受講中の賃金減額分は国と経営者団体が拠出する基金から給付されるのだ。
高い失業保障とともにこうした政策をとれば、「大きな福祉国家」化は避けられない。それにもかかわらずデンマークで効率的な国家運営がなされているのは「保育・介護など高度な社会サービスの発達で労働力率が高いうえ、公費による人的投資の額が大きく、生産性の向上と平等な機会の提供に成功している」(菅沼教授)からである。
このような背景を抜きにしてフレキシキュリティ政策を推し進めれば、単に失業者を増やす結果になりかねない。
日経新聞2022年1月1日 の記事です。
▼フレキシキュリティー 柔軟な労働市場と手厚い失業給付、実践的な公的職業訓練の3つを組み合わせた雇用政策。柔軟性と安全性を組み合わせた言葉で、解雇規制が英米並みに緩やかなデンマークが1990年代に職業訓練の強化で失業抑制に成功したのが先駆け。「デンマーク・モデル」とも呼ばれる。欧州連合(EU)は2007年、フレキシキュリティーを域内の雇用戦略の柱と位置づけた。
国内総生産(GDP)比で見るとデンマークの失業給付への公的支出額は主要国で最高水準だ。失業給付の受給者に職業訓練への参加が義務付けられるなど、就労支援と一体で制度が設計されている。新型コロナウイルス下でも短期の職業訓練が拡充された。働き手がキャリアの転換に挑戦しやすい。
デンマークの職業訓練は政労使の3者が緊密に連携するのも特徴だ。カリキュラムの内容は経営者団体と産業別・職業別の労組が話し合って決め、地方自治体が運営する職業訓練学校で実施される。企業も講師を派遣する。カリキュラムは毎年のように更新され、デジタル化などの技術革新や労働市場のニーズの変化に対応する。
Yahoo!2022年6月22日の記事です。
賃上げ実現のためにも「手厚い失業給付と教育プログラムとをセットにした解雇規制の緩和を」
約30年にわたって平均賃金の横ばいが続く日本。政府は昨年も給与を前年度より増やした企業に対する法人税の控除率を引き上げる制度を導入するなどの対策を打ってきたが、東京商工会議所の調査によれば、今年度の賃上げを予定している企業は半数以下で、そのうちの7割が“業績の改善は見られないものの賃上げに踏み切る”と回答しており、厳しい状況を伺わせる。
PIVOT社の佐々木紀彦CEOは「(促進税制では)あまり意味がないと思う。給料を上げるためには企業、経済が成長するのが大前提だ」と指摘、北欧で導入されている「フレキシキュリティ」の考え方を取り入れるべきだと訴える。
“黄金の三角形”
「これはフレキシブルとセキュリティを組み合わせた造語で、デンマークで“黄金の三角形”といわれるモデルでは、解雇規制を緩和するだけでは不安なので、同時に失業給付を行う。例えば退職前の最大9割を4年間保障する、ただしその条件としてリスキリングのプログラムを受けることにする。そうすれば不安なく次の仕事のための勉強、たとえばデジタルの知識を吸収するために時間を使える。この“成功法則”はオランダなどにも広まり、今ではフランスやイタリアといった解雇の難しい社会でも変わってきた。
会社員たちに話を聞いてみると、勤務先が嫌いだという人はいっぱいいる。だけど怖くて辞められない。でもこの制度があれば安心して辞められて、しかも勉強ができて、転職したら給料が上がるかもしれない。転職する人の数が増えたとはいえ、まだまだ少ない。転職するのが当たり前の社会になっていけば、“私はこれだけ価値があるので、もっと給料上げてくれ”と交渉もしやすくなる。日本で解雇規制の話をすると炎上するので政治家も言論人も言わなくなってしまったが、これを手厚い失業給付と教育プログラムとセットで実行する以外に日本復活の道はないと思う」。