公的年金支給額2・2%増
公的年金の支給額が6月から2・2%増に改定されます。これは3年ぶりにプラスですが、マクロ経済スライドが発動されているので、サラリーマンの給料ほどには上がりません。読売新聞などの記事を読んでみましょう。
厚生労働省は20日午前、2023年度に公的年金を受け取り始める67歳以下の人の支給額を前年度比2・2%増に改定すると発表した。既に受け取っている68歳以上の人の支給額は同1・9%増となる。6月に支給する4月分から反映される。プラス改定は3年ぶり。
厚生労働省試算
厚労省の試算によると、23年度に受け取り始める場合、自営業者らの国民年金は満額で月額6万6250円(前年度比1434円増)、厚生年金は夫婦2人の標準的な世帯で同22万4482円(同4889円増)となる。過去3年間の名目手取り賃金変動率が2・8%上昇したことを踏まえた措置。物価と賃金の上昇を踏まえ、将来世代の年金水準を確保するため、法律の規定で年金額の増額を抑制する「マクロ経済スライド」が3年ぶりに発動され、改定率はマクロ経済スライドによる調整率0・6%を差し引いて算出した。
この記事を読むと、いくつかの疑問点があります。大きな疑問は、なぜ、67歳で改定率が変わるのか?マクロ経済スライドとは何か?などです。朝日新聞、日本年金機構の解説を読みます。
Q 年金の増減は物価の上下で決まるのか?
A 年金は毎年1回4月に、物価や賃金に応じて増減する仕組みになっている。基本ルールでは、年金をもらいはじめの人(67歳以下)は、賃金で決まる。「少し前まで現役だった人」として現役世代の賃金に合わせるという考え方だ。
一方、すでに年金をもらっている人(68歳以上)は物価で決まる。年金生活者の暮らしを維持するには物価に合わせる、という原則的な考え方に基づく。
Q マクロ経済スライドで、どれくらい減額するのか?
A 以下の通りです。
- 過去3年間の名目手取り賃金変動率が2・8%上昇
- 改定率はマクロ経済スライドによる調整率0・6%を差し引いて算出
- 実際の受け取り額は賃金上昇の79%、つまり減額率は21%
Q マクロ経済スライドとはどういうものですか。
A 平成16年の年金制度改正によって導入された、賃金・物価による改定率を調整して、緩やかに年金の給付水準を調整する仕組みです。
具体的には、賃金・物価による改定率がプラスの場合、当該改定率から、現役の被保険者の減少と平均余命の伸びに応じて算出した「スライド調整率」を差し引くことによって、年金の給付水準を調整します。
なお、このマクロ経済スライドの仕組みは、賃金や物価がある程度上昇する場合にはそのまま適用しますが、賃金や物価の伸びが小さく、適用すると年金額が下がってしまう場合には、調整は年金額の伸びがゼロになるまでにとどめます(結果として、年金額の改定は行われません)。
賃金や物価の伸びがマイナスの場合は調整を行わず、賃金や物価の下落分のみ年金額を下げることになります。
〔賃金・物価の上昇率が大きい場合〕
マクロ経済スライドによる調整が行われ、年金額の上昇については、調整率の分だけ抑制されます。
〔賃金・物価の上昇率が小さい場合〕
賃金・物価の上昇率が小さく、マクロ経済スライドによる調整を適用すると年金額がマイナスになってしまう場合は、年金額の改定は行われません。
〔賃金・物価が下落した場合〕
賃金・物価が下落した場合、マクロ経済スライドによる調整は行われません。結果として、年金額は賃金・物価の下落分のみ引き下げられます。
Q なぜマクロ経済スライドを行うのですか。また、いつまで行われるのですか。
A 平成16年の年金制度改正によって、将来の現役世代の負担が過重なものとならないよう、最終的な負担(保険料)の水準を定め、その中で保険料等の収入と年金の給付水準をマクロ経済スライドによって調整することになりました。
マクロ経済スライドを行うことで、年金制度の長期的な給付と負担の均衡が保たれるとともに、将来の年金受給者の年金水準の確保につながります。
また、少なくとも5年に1度行われる財政検証において、年金財政が長期にわたって均衡すると見込まれるまで、マクロ経済スライドによる調整が行われます。
次期財政検証は、令和6年に予定されています。
Q マクロ経済スライドのキャリーオーバー制度とは何ですか。
平成28年に成立した「公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律(平成28年法律第114号)」では、マクロ経済スライドによって前年度よりも年金の名目額を下げないという措置は維持した上で、未調整分を翌年度以降に繰り越す仕組み(キャリーオーバー制度)を導入しました。
これは、将来世代の給付水準の確保や、世代間での公平性を担保する観点から、年金額の改定に反映しきれなかったマクロ経済スライドの調整率を、翌年度以降に繰り越すこととするものです。
この年金額改定ルールの見直しは平成30年4月1日から施行され、平成30年度以降に発生したマクロ経済スライドの未調整分が繰り越しの対象となります。
賃金や物価による改定率がマイナスの場合には、マクロ経済スライドによる調整は行わないことになっているため、令和4年度の年金額改定では、マクロ経済スライドによる調整は行われません。なお、令和4年度のマクロ経済スライド調整率(マイナス0.2%)と令和3年度の繰り越し分(マイナス0.1%)をあわせたマイナス0.3%が翌年度以降に繰り越されます。