とても勉強になるラジオ番組をご紹介します。
NHKラジオ第一 「ふんわり」 毎週金曜日午前8:30~11:50(特に9時台と10時台が勉強になります)
脳科学者の黒川伊保子が、家族との関係、職場の人間関係、子供の育て方・接し方を脳科学と経験をもとに明快にテンポよく話してくれます。以下のメディアで過去1週間分の放送内容を聞くことができます。
NHKラジオ らじる★らじお 聴き逃し
radiko(ラジコ) タイムフリー
黒川伊保子の著書はたくさんありますが、その中から何冊か紹介します。
AERA dot. 2022/09/14
『妻のトリセツ』黒川伊保子が語る子育て 息子を「将来の妻に好かれるいい男」にする育て方とは
妻の不機嫌や怒りの理由を「男女の脳のとっさの使い方」の違いに注目して解説し、夫側の対策をまとめた『妻のトリセツ』がベストセラーとなった脳科学・人工知能研究者の黒川伊保子さん。自身は一人息子(31)を育てた母でもある。黒川さんの息子育ての目標は、「母も惚れるいい男」にすること。実践された育児方法や、夫婦関係がよくなるヒントを聞いた。
――『息子のトリセツ』(2020年、扶桑社)も書かれた黒川さんですが、息子さんの子育てはどのようにされたのですか?
私が31歳のときに息子を出産したのですが、当時、人工知能の開発の研究をしていて脳の機能性を追究していました。研究と一緒で、子育ても長期目標がいる。目標がないと、世間の評価に振り回されて、育児で迷ったときに正しい判断ができないと考えたので、まずテーマを決めました。それが「母も惚れるいい男」でした。頭にふと浮かんだの。
――「いい男」とは、頭がよくてかっこよくて……というような?
いえいえ、世間でいうエリートはまったく求めていません。エリートになると、海外で仕事をするとか激務で家に帰ってこないとか、まったく会えなくなっちゃうじゃないですか。それは他の人にお任せして(笑)。私の言う「いい男」とは、自分の言葉で宇宙を語れる人。言葉で頭のイメージを伝えられることは、生きる上でとても重要なので、生まれたときからずっと話しかけていました。8歳までが脳の言語機能完成期とされているので、それまで読み聞かせなどもたくさんしました。
――どんな言葉をかけたのですか?
一番は、愛を伝える言葉ですね。私は、愛は言葉で伝えないといけないと考えているんです。愛は、言葉にしなくても伝わるけど、言葉以外の愛は、とっさに記憶からは取り出せないんです。
「雰囲気」とか「情景」は、言葉にできる記憶に紐づけされているだけで、とっさには想起できません。母の温かい手の記憶は、何かの拍子にふと出てくるかもしれないけど、「私が生まれてきたことに意味があったのか」という疑問の回答にはなってくれません。子どもが人生に迷ったとき、自分の存在意義を見失いそうになったとき、その答えになる言葉を先にあげておきたい。私はそう思ったので、「生まれてきてくれて、ありがとう」「あなたがいてくれて幸せ」ということをよく伝えていました。
今は、6カ月の孫に。31歳の息子にもついでに言ってますけど、今や彼は、妻の愛で生きているので、母の愛には上の空ですね(微笑)。
――なるほど、愛を言葉で伝えるというのは、夫婦関係にも応用できそうです。
そうなんです! 「この人と一緒にいることに意味があるのだろうか」と逡巡したとき、妻を引き留めるのは言葉だと思う。私は、夫との離婚を考えるたびに、一緒に暮らし始めた晩、夫がつぶやいた一言「これでもう一人じゃないんだ」を思い出して、踏みとどまってきました。
そもそも妻に言葉をちゃんとくれる夫とは、一緒にいても孤独だなんて感じないはず。「キミと一緒にご飯を食べるとおいしいな」とか、「一緒にいると星がきれいに見えるよ」で十分。とっさに別れを考えたときも、思い出すのは言葉ですよね。夫にうんざりしたその瞬間、誰も「そういえば新婚旅行の時に美味しいデザートを分けてくれたな」とか、「結婚指輪が高かった」なんて思い出さない(笑)。
でも、男の人の多くは、愛を語るのが苦手ですよね。それで『妻のトリセツ』を書いたわけです。なぜ愛を語れないか。それは親が愛を言葉で伝えていないからじゃないかしら。脳だって、入力されていないこと、つまり、まったく体験したことがないことは出力できません。聞いたこともない言語で話しかけられたって、理解するのにも限界があるでしょう? 人工知能だって当然、相手を思いやる優しい言葉は、入力しなければ言えません。息子が将来、女性とのコミュニケーションに困らないように、私がかけてほしいと思う優しい言葉を幼少期からあふれるほど与えました。
――「母も惚れるいい男」とはつまり、「妻に好かれるいい夫」に育てることなのですね。
その通り。私が与えた愛情は、息子が将来のおよめちゃんに返してくれたらいいなと思いました。彼にとってそれが一番の幸せだから。妻に好かれるためには、もう一つポイントがあります。会話には「共感型」と「問題解決型」という2種類があって、多くの男性の脳が得意とするのは後者。目標に対して問題点や課題を見つけ出し、ゴールを急ぐ。だから会話は、妻の悩みに対し、「そうだよね、つらかったよね」といった共感をせずに、いきなり相手の弱点を突いて「そんなに嫌ならやめれば」となって、妻を失望させるわけです。
――「共感型」の会話も息子に教える必要がありますね。
女性の脳は「共感型」の会話を好むものの、意外にも母親となると“多忙な子育て戦士”となっているので、子どもに対し「問題解決型」の会話になっていることが多いんです。「学校どうだった?早く宿題しちゃいなさい!」みたいに問い詰めて追い込む。
そうじゃなくて、「大丈夫? 宿題忘れちゃっているみたいだけど、どうしたの?」と優しく聞くだけで、子どもの受け取り方は変わります。「走る姿、かっこいいね!」「がんばったね」「ありがとう、助かる~」と相手の変化を褒めたり、労ったりするのもいいですね。男の子は13歳になるとテストステロンの影響で一気に目的志向になる傾向があり、会話も「問題解決型」にシフトしてしまうので、それまでにいかに母と「共感型」の会話をしたかで、のちの対話力が決まります。
――なるほど! ほかに、男子の育児でおすすめポイントはありますか?
理系脳を育てるには、部屋を片付けすぎないこと。男の子は、ブロックや積み木を作って壊すことを繰り返せる“基地”を与え、そこで想像と創造を繰り返すことで空間認知能力が育ちます。マンションのモデルルームのように、いつもきれいで床もまっさらだと、創造すらできません。
息子は一人っ子だったけど、2段ベッドを与えて下は自由にレゴを作ったり壊したりを繰り返せる場所にしました。ホコリがたまって気にはなるのですが、多少は目をつむって……。ときどきパンツなんかも落ちてたんですが、それは片付けて(笑)。レゴブロックでの宇宙ステーションづくりは10年くらい続きました。