長期金利上昇の先に待ち受けるもの

長期金利が上昇しています。どうなるのでしょうか。識者の意見を見てみましょう。


歯止めがかからない国内長期国債利回りの上昇

2025年02月19日 NRI

日本銀行の利上げに前向きとの見方が強まった

国内債券市場では、長期国債利回りの上昇(価格の下落)に歯止めがかからなくなっている。2月18日の10年国債利回りは1.4%台に乗せ、2010年4月以来14年10か月ぶりの水準にまで達した。1.5%の水準も視野に入ってきた。

長期国債利回りの上昇は、日本銀行が長期国債利回りをコントロールするイールドカーブ・コントロール(YCC)の見直しを進め、さらに米国で急速な利上げが始まって米国の長期国債利回りが急速に上昇を始めた2022年以降、トレンドとして続いてきた。

最近になって上昇傾向が特に顕著になったのは、2024年10月以降のことだ。2024年10月初めに日本の10年国債利回りは0.8%台だったが、年末には1.1%台まで上昇した。この間の利回り上昇は、主に、米国の長期国債利回りの上昇の影響によるものだった。

トランプ氏が大統領選挙で勝利するとの期待が高まると、財政赤字拡大や追加関税による米国物価高への懸念から、米国の長期国債利回りは大きく上昇し、日本の長期国債利回りもそれに引っ張られた。

しかし、年明け後の1月下旬以降は状況がそれまでと異なった。米国の長期国債利回りは1月半ばから低下傾向に転じたが、そうしたなかで日本の長期国債利回りは、逆に1月下旬から上昇傾向を強めたのである。そのきっかけとなったのは、1月24日の日本銀行の追加利上げ策だったと考えられる。

1月23・24日の金融政策決定会合が近づいてくると、日本銀行の総裁、副総裁が、「(次回1月会合で)利上げを行うかどうか議論し、判断する」と揃って発言し、唐突に金融市場に利上げを織り込ませたのである。このことが、日本銀行が追加利上げにかなり前向き、との見方を市場に一気に広めるきっかけになったと考えられる。

政策金利を1%辺りまで引き上げた後に様子見に

金融市場での政策金利の先行きの見通しに基づいて計算されるスワップレート、円OISスワップレートを見ると、2月18日時点で10年利回りは1.3%台と、現物の国債利回りに近い水準となっている(図表)。長期の利回りは、短期の政策金利の見通しの平均値で決まるが、円OISスワップレートには、政策金利が来年1%まで引き上げられるとの期待が織り込まれているように見える。

しかし、5年の利回りまでは、ほぼ1%程度の政策金利の水準が維持されるとの見通しが反映されている。つまり、目先1年程度の間に日本銀行は政策金利を1%辺りまで引き上げた後、様子見に転じるとの見通しだ。

ただし、その後も政策金利は緩やかに引き上げられていき、現在から10年先までの政策金利の平均値は1.3%程度になるというのが、現在、円OIS市場に織り込まれている先行きの金利観だ。

図表 円OISスワップレート

「より速く」よりも「より高く」

このように、日本銀行の追加利上げ観測が強まっていると言っても、来年にかけて1%を大きく超える水準まで一気に政策金利が引き上げられるとの期待が高まっている訳ではない。

中長期的な政策金利の平均的な水準への目線が引き上げられていることこそが、足もとの長期国債利回り上昇の主な背景となっている。そのきっかけは、1月24日の日本銀行の追加利上げだったと考えられるが、目先の追加利上げが加速するというよりも、従来の予想よりも日本銀行が高い水準まで中長期的に政策金利を引き上げるという観測が強まることになった。つまり「より速く」よりも「より高く」、日本銀行が政策金利を引き上げるとの期待こそが、足もとの長期国債利回りの上昇をもたらしている。

長期国債利回りの急速な上昇は行き過ぎか

当面の利上げペースは日本銀行の政策姿勢で決まる部分が大きいだろうが、中長期的に政策金利が平均的にどの水準に落ち着くか、いわゆる中立水準は、政策姿勢ではなく中長期的な経済、物価環境によって決まる。それはかなり不確実である。

足もとで、この政策金利の中立水準を決める経済、物価環境の見通しに修正を迫るような変化は生じていないように思われる。これらの点から、1月の決定会合以降の長期国債利回りの急速な上昇は行き過ぎている、と見ておきたい。

しかし、その流れがいつ変化するかを予測するのは難しい。足もとの長期国債利回り上昇は、投資家が円債投資のリスク回避傾向をにわかに強めた、という市場参加者の心理も反映しているとみられるためだ。

そうした中、国内債券市場が安定を取り戻すきっかけとなりうる要因として注目したいのが、トランプ政権の関税政策だ。それは、日本にとっては最も避けたい対米自動車輸出への関税である。実際その可能性が高まれば、日本経済に相応の打撃が生じるとの懸念から、先行きの政策金利の見通しが下方修正され、長期国債利回りの低下を促す可能性があるだろう。

その際に、先行きの経済への不安から国内株式が大きく下落すれば、リスク回避傾向により安全資産の国債が買い戻され、長期利回りの低下傾向がより増幅される可能性もあるだろう。


「国債大量保有」状態からの日銀「出口戦略」の果てに待つ「長期金利7%」のリスク

2025.2.12 DIAMOND Online

国債の中長期的見通し:日銀の保有国債残高は減少へ

2013年4月の量的・質的金融緩和の導入以降、政府が国債の供給を増やしても、日銀が大規模な買い入れを実施したため、長期金利は上昇しにくかった。だが、国債の最大の保有主体である日銀は、長期的に保有残高を大幅に減らす見込みだ。

日銀が保有する国債の中長期的な減少ペースを捉えるため、減額計画で示された2025年度末までの見通しに加え、減額計画で示されていない2026年4月以降の国債買い入れ額については、上限(2026年3月の月額2.9兆円程度を維持)と下限(一定の資金供給ニーズを考慮しつつ同0.9兆円程度まで減額を継続)を想定し、2040年末までの日銀の保有国債残高の先行きをバンドで示したものが図表7・8だ。

図表7・8

2030年代中頃までは比較的早いペースで保有国債残高の減少が進むが、その後、減少ペースは鈍化する見込みだ。国債買い入れ額の上限ケースにおける保有国債残高は2040年末時点で254兆円程度、下限ケースで119兆円程度と試算される。

国債発行残高は増加の見込み:カギは海外投資家の国債保有比率

日銀の保有国債残高は大幅に減る見込みだが、こうした状況でも国債が円滑に発行されるには、他の主体が国債保有を増やす必要がある。その際、長期金利への影響を検討する上でとりわけ重要なのは、海外投資家の国債保有比率(以下、海外保有比率)だ。

国債発行が国内投資家の需要を上回れば、海外投資家の需要の増加が必要になる(増加しないと国債を発行できない)。

だが一般的に、海外投資家は国内投資家よりも高いリスクプレミアム(リスクを引き受けることに対して要求する追加の収益率)を求める傾向が強いため、海外保有比率が高まると長期金利が上昇しやすい。

そこで、以下では国債の供給と国内需要について3つのシナリオを設定し、国債の需給バランスの先行きを示した上で、海外保有比率の変化が先行きの長期金利に与える影響を示す。

まず、国債の供給について検討すると、国債発行残高(ストック)は毎年の国債発行額(フロー)と償還額によって決まる。

そこで、政策的経費を税収などでどの程度賄えているかを示す指標である国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス。以下、PB)について、「(1)財政健全化が進んで2027年度にPBが均衡する場合(「PB:0%」シナリオ)」「(2)大和総研の中期見通しにおける予測期間の最終年度(2033年度)のGDP比▲3%程度で横ばいの場合(「PB:▲3%」シナリオ)」「(3)財政が一段と悪化し、2027年度以降のPBが同▲5%となる場合(「PB:▲5%」シナリオ)」という3つのシナリオを用意した。

内閣府が試算した2023年度のPBの実績見込みは同▲2.9%であるため、(2)は直近の財政状況が長期的に継続したシナリオともいえる。それぞれのシナリオに整合的な国債発行額と償還額を試算すると、いずれのシナリオでも国債発行残高は増加していく見込みだ。

だが、2040年度の水準を比較すると、「PB:▲5%」シナリオでは2600兆円程度となる一方、「PB:0%」シナリオでは1800兆円程度にとどまる(「PB:▲3%」シナリオでは2300兆円程度)。

国債の供給は拡大するものの:国内需要との間に差が

政府はPB黒字化を目指しているが、仮にPBを長期的に均衡させることができれば、国債発行額の抑制を通じて長期金利の安定化に大きく寄与することになろう。

いずれのシナリオでも国債の供給拡大が見込まれる一方、国内需要の増加幅は限定的となる可能性がある。「日銀」による需要(保有残高) は前掲図表7・8で示した通り、減少していく見込みだ。

「その他主体」の保有残高の見通しについては、「保険・年金基金」などの国債保有が名目GDPの拡大に合わせて増加していくと仮定して機械的に試算すると、「日銀」と「その他主体」の合計は2040年時点で足元の水準を下回る可能性が高い。

すなわち、日銀による国債保有減少の影響は大きく、足元での国債の保有構成を前提とすると、国内主体を中心とした国債保有の増加余地は小さい。

もっとも、日銀は銀行などから国債を大量に購入することで量的緩和を進めてきたことを踏まえれば、銀行には足元の保有割合分以上に保有残高を増加させる余地がある。

その余地を正確に把握することは困難だが左三川・阿部・高椋・廣芝(2024)や関(2023)(注1)などを参考に足元での「銀行などの潜在需要」を330兆円と仮定し、名目GDPの伸び率で機械的に延伸した上で、「(1)潜在需要が100%実現する場合(「国内消化余地:大」)」「(2)同60%実現する場合(「国内消化余地:中」)」「(3)同20%実現する場合(「国内消化余地:小」)」という3つのシナリオを想定した。

潜在需要が最大限に発現する場合でも、「日銀」と「その他主体」の需要の合計は2040年度時点で1600兆円程度であり、財政健全化の取り組みが最も進むシナリオ(「PB:0%」シナリオ)でさえ、供給が国内需要を上回る状況となる。

国債の需給が一致するという前提に立てば、国内需要を上回る分の供給に対応するには海外部門の需要を増加させて賄う必要がある。国債の供給と国内需要との差から、2040年度時点の国債の海外保有比率の上昇幅を試算したものが図表7・9だ。

図表7・9
 国債の国内消化余地が大きいほど、また財政健全化への取り組みが進展するほど、海外保有比率の上昇が抑えられている。

財政健全化が遅れれば長期金利は7%に達する可能性も

一般的に海外部門は比較的高いリスクプレミアムを要求する傾向にあることから、その需要を満たすためには長期金利の上昇が必要である。

すなわち、海外保有比率が高まるほど、長期金利に対する上昇圧力が強まるということだ。大和総研の試算では、海外保有比率が1%pt高まると長期金利は0.07%pt上昇する。こうした関係を前提に、財政シナリオ別に長期金利の先行きを試算した結果が図表7・10だ。

図表7・10
 財政健全化の取り組みが遅れるほど、国債の供給が増加し、海外保有比率が高まるため、長期金利への上昇圧力が強まる。

各シナリオにおける実質GDPへの影響を大和総研のマクロモデルを用いて試算すると、2040年時点で「PB:0%」シナリオではベンチマーク比▲4.0~▲1.0%、「PB:▲3%」シナリオでは同▲5.6~▲2.9%、「PB:▲5%」シナリオでは同▲6.5~▲3.9%となった(図表7・10)。リスクプレミアムの上昇が実体経済に大きな悪影響を及ぼす可能性が示唆される。

日本経済に負の影響が大きい長期金利の上昇リスクに警戒が必要

実質GDPの内訳への影響としては、個人消費への影響は比較的小さいと予想される。金利上昇の影響は、ローンを組んで購入することの多い自動車など一部の費目に限られるためだ。

長期金利の上昇は、企業収益の減少や景気の悪化を通じて、労働需要を減少させる。結果として、実質賃金と雇用者数の双方に減少圧力がかかることから、実質雇用者報酬を下押しする効果を持つ。半面、家計は金融負債よりも資産を多く持つことから、長期金利の上昇は純利息収入を押し上げ、実質可処分所得の減少を緩和する。

一方、設備投資への影響は大きいと考えられる。長期金利の上昇によって企業の資金調達環境が悪化することに加え、景気の悪化による企業収益の減少も設備投資を下押しする方向に作用するためだ。

大和総研のマクロモデルでは十分に反映されていないものの、設備投資の大幅な減少は資本ストックの増加を抑制することで、潜在成長率を下押しするとみられる。これは自然利子率の低下を招き、金融環境を引き締め的にすることで設備投資をさらに減少させるだろう。

「設備投資の二面性」(需要と供給の双方に影響するという設備投資の性質)を考慮すれば、長期金利の上昇は需要の抑制だけでなく、供給能力の低下という経路でも日本経済に大きな負の影響を与える恐れがある。

以上のように、今後は日銀が国債保有を減少させていくことで、海外投資家の国債保有割合が上昇する可能性が高く、長期金利が上昇するリスクには警戒が必要だ。

日銀が金融政策の正常化を進める中で金利上昇リスクを抑制するためにも、政府は財政健全化を着実に進め、国債発行の増加を抑制することが重要である。

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