リタイヤ後の10年 1

最初に「リタイヤの夢」という話から始めます。

メキシコの漁師

メキシコの海岸で釣りをしている漁師がいました。彼は朝だけ漁をして午後は子供と遊び、夜は仲間と魚を食べて酒を飲む生活を楽しんでいます。病気や将来についてあまり心配していません。

エリートビジネスマン

そこにアメリカのエリートビジネスマンがやって来て、「私は、ハーバード大学のMBAを取ったエリートビジネスマンだ。

ビジネスモデル

いいことを教えてあげよう。遊んでばかりいないで、朝早くから遅くまで船で漁をするんだ。そうしてお金がたまったら、もっと大きな船を買って、人も雇って、たくさん魚を獲るんだ。そして、加工場を作って、ハーバードのMBA流マーケティングでたくさん高く売るんだ。」と言った。

リタイヤ後

すると漁師は「そうするとどうなる?」と聞いた。するとエリートビジネスマンは「たくさんお金がたまったら引退して、トローリングをしたり、毎日楽しくパーティーをひらける。」といった。漁師は「それなら、俺が今やっていることだ。」と言った。誰が、足るを知っているのでしょうか。

リタイヤの記事

ザ・ニュー・ヨーク・タイムズ紙にリタイヤの記事がありましたので、これを参考にしてリタイヤを考えてみましょう。以下は私の拙訳です。

リタイヤ後の10年:裕福なアメリカ人は一層裕福に

アメリカ人のリタイヤ後の安心確保は多くの場合改善されていません。しかし、裕福な家計にとっては、リタイヤ後うまく行く可能性はずっと大きくなっています。

アメリカのリタイヤは、この10年間で2種類の現実に分かれるようになってしまいました。

2010年、最近の記憶にある中で最悪の不況と金融危機から、経済が回復を始めました。失業率は高く、株式市場は回復途上で、何百万人もの労働者は自分たちのリタイヤ・プランが崩壊したと心配していました。

その当時から、堅調な経済回復のおかげで、リタイヤに向けてしっかり再建したアメリカ人もいましたが、全員が同じようにというわけにはいきませんでした。雇用は進みましたが、賃金の上昇は最近になってようやく回復を始めたばかりです。―――そして以前から雇用されている労働者の賃金は上昇していません。FRBのデータによると、リタイヤの蓄えは、高所得家庭に独占的に集められてきました。一方で、中低所得家計は現状維持か悪化しています。

社会保障と高齢者健康保険も厳しい傾向にあります。社会保障受給額の価値は――リタイヤ以前の収入に代替する割合で計測した場合、つまり所得代替率――減少し、高齢者健康保険の経費は上昇しています。被雇用者受給研究協会は、何パーセントの家計がリタイヤ後の支出に見合う十分な原資を保有しているかを、シミュレートするモデルを開発しました。ここでは、家計の貯蓄、住宅持ち分、社会保障と年金からの収入を考慮に入れています。

このモデルによると、最高収入家計がリタイヤ後に成功する可能性がこの10年で急激に改善されました。一方、中所得家計は少し改善されたものの、まだ成功する確率は50-50です。そして、低所得家計のリタイヤ後見通しが急激に悪化しています。――リタイヤに近づいているベビー・ブーマーのうち、成功する確率はこの10年間で26%から11%に落ちました。

「高所得の労働者は、幸運にも退職年金制度に拠出してくれる雇用者のもとで働いていたので、リタイヤ後の見通しは著しく改善された。」と同協会の研究部長ジャック・バンダーヘイは言います。

今終わろうとしている10年間でリタイヤの景色がどれほど変わったかを考えてみましょう。

リタイヤのための貯蓄:豊かになるために

株式市場は2009年3月にボトムアウトして、それから4倍以上になりました。リタイヤ後のために貯蓄している人たちの多くは、暴落の間株式市場を見限ることは無かったと、投資研究バンガード・センターの上級研究員ジャン・ヤングは言います。「見限った人もいましたが、最後まであきらめなかった人が圧倒的多数です。」

株式市場が回復した結果、リタイヤのための蓄えは裕福な家計に集まりましたが、彼らには職場の退職年金制度があり、有効な手段を使うことができたのでした。例えば、2018年に15万ドル以上の収入のあった退職年金制度加入者の平均残高は193,130ドルで、3万~5万ドルの収入の労働者はわずか22,679ドルでした。

FRBのデータによると、2016年に退職勘定を保有していたアメリカの家計は、52%に過ぎませんでしたが、その数字は2010年の50%とあまり変わっていません。

(訳者注)アメリカでは企業が行う401kプラン以外に個人退職勘定(IRA)があります。IRAには、トラディショナルIRAとロスIRAがあります。トラディショナルIRAは、積み立てた分について税法上の所得控除がありますが、引出しのときに元金、利子ともに課税されます。Roth IRAは、積立て時に所得控除は使えませんが、引出しのときには元金、利子ともに非課税です。つまり課税のタイミングが違います。

退職勘定を幅広く利用してもらおうという連邦政府の努力は、この10年間上手く行きませんでした。オバマ政権時代、アメリカ連邦議会は強制的自動加入IRAシステムの立法化に反対しました。これは、職場に年金プランがない労働者のためにバラク・オバマ大統領が提案した制度です。それ以来、10州が同様の制度を立法化し開始しました。

職場に退職年金制度がある家計の場合、資産増加はかなりの大きさでした。バンガード社のデータによると、口座残高の2006年から2018年への平均伸び率は、22%でした。

年金制度のスポンサーが自動加入規定を広く採用した結果、この制度に拠出する労働者が増えました。ターゲット・デート・ファンドを利用することになったことも同じように重要でした。このファンドは、リタイヤが近づくにつれ株式と債券の割合を調整し、両者の間のアセットアロケーションを自動化することによって、プロ並みのマネジメントができるものです。バンガード社によると、昨年は52%の加入者がターゲット・デート・ファンドを利用し、2008年に対し13パーセント上昇しました。同社は2023年にこの数字が70%に届くと予想しています。

<明日に続きます。>

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