複利、コスト
ETFは、毎年分配金を受け取りその分配金に対して課税されるので、課税されずに全額を再投資できるインデックスファンドの方が有利だという考え方があります。理屈はその通りですが、どれほどの差になるのでしょうか。今回は、この複利による差以外にも、コストなど様々な角度からETFとインデックスファンドを比較検討します。
ETF、インデックスファンド
なお、ETFもインデックスファンドの一種で「上場されているインデックスファンド」なのですが、ここでは便宜上、上場されているインデックスファンドを「ETF」、上場されていないインデックスファンドを「インデックスファンド」と呼びます。
1.TOPIX
分配率2%、税金20%
TOPIXで考えてみましょう。TOPIXの分配率は最近2%弱で推移しています。分配率は今後少しずつ上昇傾向にあると考えますので、分配率を2%、トータルリターンを5%として計算します。投資金額を1,000,000円、税率を20%とします。なお、税金は20.315%の源泉徴収が適用されますが、ここでは簡明にするために20%として計算します。
1年経過すると分配金は
1,000,000 ✖ 2% = 20,000 ・・・①
となります。インデックスファンドなら、この20,000円が全額再投資に回されます。一方で、ETFだと税金で4,000円が源泉徴収され、受取金額は16,000円になります。
税金:4,000 ・・・②
受取分配金:16,000 ・・・②
この16,000円はすぐに再投資するとします。翌年、この税金分4,000円の複利分がETFとインデックスファンドの差になります。この時は分配率2%でなく、トータルリターン5%を乗じます。
4,000 ✖ 5% = 200 ・・・③
従って、1,000,000円に対して200円ですから 0.02%です。
もう少し、他の要素も具体的に考えてみましょう。次の2銘柄は、ETFとインデックスファンドの中で、最も低コストのものを選びました。
ETF:1308(上場インデックスファンドTOPIX) 信託報酬 0.088%(税抜き)
インデックスファンド:<購入・換金手数料なし>ニッセイTOPIXインデックスファンド 信託報酬 0.14%(税抜き)
信託報酬は、約0.05%だけETFの方が低くなっています。そして、信託報酬の差の方が複利分よりも大きな影響を及ぼしていることが分かります。現状の信託報酬から見ると1308のETFに軍配が上がりそうです。他にも考えるべき要素があります。
両銘柄の純資産総額の比較です。
1308 : 49,153億円
ニッセイ : 273億円
2桁違っています。私はETFを選ぶ基準として、信託報酬が十分に安いことと、純資産総額が1兆円を超していることの2つを設定しています。1308は約5兆円あるので十分に大きなファンドですが、ニッセイは、まだまだという大きさです。
現在はETFが有利だが、積み立てにはインデックスファンド
以上の検討結果から、複利の効果があるからと言って、インデックスファンドの方が有利とはいえないでしょう。ただし、ETFと違ってインデックスファンドは少額から購入することができるので、毎月積み立てるための銘柄としてはすぐ手ています。
2.S&P500
SPY、SBI・バンガード・S&P500
外国の代表的な投資対象であるS&P500の場合は、同じことが言えるのでしょうか。世界最大のETFであるSPYは、信託報酬 (税抜き)/年0.0945%のSPDRのETFです。それと比較するのは、SBI・バンガード・S&P500インデックス・ファンドとします。この銘柄は2019年に発売された、信託報酬 (税抜き)/年0.0853%のファンドです。
分配率は1308(TOPIXのETF)は2%弱でしたが、SPYの分配率も2%弱です。分配額は、
1,000,000 ✖ 2% = 20,000 ・・・④
となります。ここまでは、ETFもインデックスファンドも同じです。ところが税金の取られ方が、TOPIXとS&P500では異なります。
10%分が二重課税
TOPIXの税金は20%でしたが、S&P500の場合はアメリカで10%徴収され、その後日本でも20%徴収されますから合計で30%の税率になります。二重に徴収された10%分については、ETFの場合、翌年の確定申告で還付することができるのですが、SBI・バンガード・S&P500の場合は還付することができません。従って、
SPYの税金:4,000 ・・・⑤
SBI・バンガード・S&P500の税金:2,000 ・・・ ⑥
従って、税金の差は
4,000 - 2,000 = 2,000 円
となります。
翌年、この税金分2,000円の複利分がETFとインデックスファンドの差になります。この時は分配率2%でなく、トータルリターン6%を乗じます。この6%は、日本のトータルリターン5%より1%だけ高くしてあります。
2,000 ✖ 6% = 120 ・・・③
従って、1,000,000円に対して120円ですから、インデックスファンドの方がETFよりも0.012%有利です。
信託報酬については、
SBI・バンガード 0.0853% - SPY 0.0945% = 0.0092%
だけインデックスファンドが有利です。
外国為替手数料
それ以外に考えるべき要素は、外国為替手数料です。日本円から米国ドルへの手数料を片道0.5%とすると、往復で1.0%になります。これは毎年かかる経費ではなく、売買で合計2回だけかかりますから、10年間保有するとなると1年平均0.1%、インデックスファンドが有利です。なお、外国為替手数料という手数料自体は無く、ここでは為替スプレッドに基づいて計算しています。野村證券の米ドル為替スプレッドは0.5円、SBI証券は0.25円です。1米ドル=100円とすると、それぞれ0.5%、0.25%になります。
インデックスファンドとETFの売買手数料
SBI・バンガード・S&P500に売買手数料はかかりません。
野村證券でETFを買う場合には、100万円の場合12,188円売買手数料としてかかります。ついでに言うと、SBI証券の場合は487円です。率でいうと、それぞれ1.219%と0.0487%です。かなり大きな差ですが、10年、20年の長期保有をすれば、1年あたりの負担額は減ります。しかし、これから新たに口座を開設しようと考えている人、あるいは、現在の対面証券会社以外に2口座目を開設しようとしているのなら、SBI証券、楽天証券、マネックス証券、松井証券などのネット証券に口座を開設すれば、余計なコストを抑えることができます。
以上がコストに関する比較検討ですが、最後に純資産残高を比較します。
SBI・バンガード・S&P500インデックス・ファンド 103億円
SPY 345,197億円
SPYは世界最大のETFであり、SBI・バンガードは昨年スタートしたばかりのファンドです。歴史(SPY27年、SBI半年未満)も、規模(SPYはSBIの3,000倍)も全く違いますので、安心感には大きな差があります。
以上をまとめると次のようになります。
- 複利の効果: SBI・バンガードが 0.012% 有利
- 信託報酬:SBI・バンガードが 0.0092% 有利
- 外国為替手数料:SBI・バンガードが 0.1% 有利(以上コスト合計0.1212%)
- 歴史・規模・安心感では圧倒的にSPYが有利
低コストならSBI・バンガード、安心ならSPY
結論としては、コストが0.1212%安いSBI・バンガードを選ぶか、少しコストはかかるけど安心できるSPYを選ぶかです。なお、SPYではなくVOO(バンガード社のS&P500 のETF)を選べば、信託報酬が0.03%なのでSBI・バンガードより0.0567%安くできます。この結果、合計のコストは0.0553%まで縮まります。
投資の特性による積み立てのしやすさ
もう一つの判断基準は積立のしやすさです。SBI・バンガードは、100円以上1円単位で買うことができますが、SPYは外国のETFなので、数十万円単位からの買い付けになるでしょう。