資産所得倍増プランの今後の見通し

資産所得倍増プランについて、日経CNBCで解説しましたので、その内容を確認します。

資産所得倍増プランとNISA抜本的拡充案の課題

個人金融資産2000兆円が倍になるとか資産所得全部が倍になるということではありません。岸田さんの目指しているのは減益に中間層の資産所得を何とか増やしたいということではないかということです。もともと分配重視で政権をスタートしたので、分配だけでなく市場も重視しなければならない、ということが合わさった結果、中間層中心の所得倍増ということになったのです。資産所得倍増ということになると、お金持ちばかり投資で儲かり、高齢者ばかり儲かるという話になってしまいます。実際に資産は高齢者や富裕層に偏在はしていますが、それ以外にも現役の中間層は資産を持っていて、まだまだ資産運用する余地はあるという話をしたい。

純然たる家計金融資産の分布推定値

2000万円の個人金融資産があると日銀の資金循環統計でいわれています。この統計の中には年金資産や個人事業主の事業資金も含まれているので、資産運用で使う資金とは必ずしも一致しません。それを除いた純然たる金融資産がどのくらいあるかというと、およそ1400兆円と推測されます。

富裕層(金融資産と準金融資産合計が1億円以上):500万世帯:650兆円:1世帯当たり1億3000万円
65~74才:900万世帯:180兆円:1世帯当たり2000万円
75才以上:900万世帯:160兆円:1世帯当たり1800万円
65才未満:3000万世帯:340兆円:1世帯当たり1150万円

岸田政権の意図は65才未満を分厚くしたいということです。3000万世帯のうち、有価証券を少しでも持っている人の割合は24%しかいません。まったくもっていない人が残りの、4分の3です。

資産所得倍増は、どこを倍増するのか

有価証券をすでに持っている人の金融資産を倍にするのではリスクが大きいので、金融資産を持っている人の割合を倍に増やすことになると思います。つまり、資産所得を得る側に入ってもらう人を2倍にするということです。

65才未満の現在の投資額37兆円のリターンは直近4年間の平均で2.9%。年間総額1兆円、1世帯当たり15万円になる。その15万円を得られる世帯を倍に増やそうということです。現在低所得者層で5万円の給付をするかどうかを政府が検討しているわけですから、15万円が毎年得られれば決して小さくないのです。2000兆円のうち数百兆円が動くかどうかとということと比較すると、小さく感じるかもしれませんが、それは決して小さな話ではなく、投資額の37兆円を倍に増やしてみようというのは意義のある話だと思います。新聞のイメージとはだいぶ違いますが、フォーカスが当たるのは、65才未満の人達だということです。

それを踏まえて金融庁の8月末の税制改正要望を見ます。

現行のNISA制度

◆一般NISA
・年間投資枠120万円
・非課税期間5年
・新規投資期間2028年まで

◆つみたてNISA
・年間投資枠40万円
・非課税期間20年
・新規投資期間2042年まで

◆ジュニアNISA
・年間投資枠80万円
・非課税期間5年
・新規投資期間2023年まで

注:24年からは2階建ての新NISAに変更予定だが、一体化案が通れば撤回

NISA、あるいはつみたてNISAといってよいのかもしれませんが、それの抜本拡充と恒久化です。

金融庁要望の24年からの一体化案:一度、NISAの中で買った株式や投資信託は、ずーと持ち続けることができます。分配金、配当金もずーと非課税だし、いつ売っても非課税です。そうなると、投資家はやりやすくて、どこかで売らなければならないというプレッシャーもなくなります。

非課税期間(新規投資期間は恒久化):財務省はいくらか抵抗するかと思いますが、恒久化したところで、来年から税収が減るかというと、そうではありません。非課税期間が終わった時点で税収が減るかもしれないという程度のことです。このくらいだったら、岸田首相の思いを受けて財務省も納得するのではないかと思われます。

基本部分はつみたてNISA
・年間投資枠40万円を拡大
・非課税限度額800万円を拡大
・対象を未成年にも拡大しジュニアNISAを引き継ぐ

金融庁の案は年間非課税枠だけでなく、累計非課税枠を入れる案。累計非課税枠の上限を設けることによって、過度な富裕層優遇にならないようにするのです。それを超えてしまった部分は普通に課税しましょということになります。イギリスのISAには累計上限がないので、取っ払ってほしいという気持ちはありますが、今回はあくまで中間層のための制度であるということで、どこまで政府として支援するかということが問われています。

今後のスケジュール

年末までに税制改正大綱と資産所得倍増プランを政府与党として作成するので、年末までに枠の金額や累計上限が定まってきます。施行は何時かということに関しては、当初新NISAが予定していた2024年に間に合わせるには、今までにない累計限度額というのがあるので、厳しいかもしれません。また、システムの対応が間に合わないかもしれないという話もあります。日本証券業協会では、2025年からにして、1年間はつなぎで現行制度延長ということも考えられます。ある程度姿が見えてくるのは、年内ぎりぎりで、新制度の施行の時期もまだ見えないけれど、どの辺に気を付けなければいけないというポイントはわかった気がします。