1980年代に、山一證券の知り合いから「証券会社の投資信託だけは買ってはいけない」といわれました。その理由は、当時の投資信託はアクティブファンドしかなく、売買手数料が高く、信託報酬も高い物しかなかったからです。その上、営業員が頻繁に新規銘柄を勧めるので、売買手数料は常にコストになりました。2010年代に入って、低コストインデックスファンドが発売され、普及してきましたが、相変わらず、問題のある商品を販売し続けている実態があります。特にひどい商品は仕組債で、儲けはすべて証券業界に入り、損失だけが顧客に押し付けられ、信託報酬が実質的に8%というものまであるそうです。
金融庁では、これらの商品に警鐘を鳴らす目的もあって、「資産運用業高度化プログレスレポート」を公表していますので、その内容を見てみましょう。
1.アクティブファンド
(1)アクティブファンドの「シャープレシオ」
公募アクティブファンドのシャープレシオは、ファンド数が少ない社では、旗艦ファンドに注力しリソースを集中させることで良好なパフォーマンスを実現している傾向が見られる。一方、100本以上のファンドを運用する社では良好なパフォーマンスを実現するファンドもあるが、シャープレシオがマイナスとなっているファンドも多く見られる。
(2)国内株アクティブファンドの「アルファ」
アクティブ投資の付加価値である超過リターン(「アルファ」)を定量的に把握するために、国内株アクティブファンド444本の時系列データを用いて重回帰分析による統計的な推計を行った。アルファの推計値が有意にマイナスとなったファンドは32本。大手資産運用会社のファンドが多くを占め、独立系等の資産運用会社のファンドは見られない。また、そのうち約7割(23本)が設定から20年以上経過しているファンド。
(3)国内株アクティブファンドの信託報酬設定
国内株アクティブファンドのうち約8割強のファンドは、コスト控除前では一定程度パッシブ投資を上回る運用成果を実現しているものの、その成果がコストに相殺されてしまい、顧客に付加価値を届けられていない可能性が考えられる。
コスト控除前アルファと信託報酬水準の分布からは、信託報酬の設定が、同種のアクティブファンドで横並びに行われており、個別ファンドの商品性に応じた信託報酬水準の設定や、設定後のパフォーマンス結果に基づいた信託報酬水準の見直しは行われていない可能性が推測される。
2.ファンドラップ
好調なマーケット環境の恩恵を受け、2021年のパフォーマンスはプラスとなったファンドラップが多いが、その質には差がみられる。コスト控除後の5年間のシャープレシオを見ると、バランス型ファンドに劣るファンドラップが依然として多い。コストが高いファンドラップほど、パフォーマンスが劣る傾向がある。
ファンドラップのコストは全体で年率1.5%以上のものが多い一方で、現状の低金利環境下で安全資産が1.5%を上回るリターンを上げることは難しいと考えられる。そのため、当該安全資産部分については「逆ザヤ」となっているファンドラップが多く、特にパフォーマンスの悪いファンドラップでは、安全資産の組入れ比率が高い傾向にある。
安定的な資産運用を望む顧客が安全資産の組入れ比率を高めるのは当然であるが、安全資産についてはファンドラップ以外の選択肢も複数あり、あえて高コストのファンドラップを利用する必然性はないとも考えられる。「逆ザヤ」により負のリターンとなれば、顧客の資産はむしろ毀損する。一方、販売会社からすると、ファンドラップが残高ベースのフィー体系となっているため、安全資産を含め多くの顧客資産をファンドラップに含めたいという利益相反の誘因が働きやすい。高コストで安全資産の組入れ比率の高いファンドラップについては、真に顧客利益に資するものか、商品性についての再考が求められる。
仕組債
仕組債のうち一定の販売規模を占めるEB債(他社株転換可能債)の仕組みは、株式のプットオプションの売りポジションに類似しており、株価の大幅下落時には大きな損失が発生しやすい。サンプルの中には、僅か3か月で元本の8割を毀損した例もあり、リターンの分布を見ると、頻度は少ないものの損失率の裾野が広い。リスク(分布の標準偏差)は相応に高く、いわゆるテールリスクと呼ばれる性質を有している。
他の資産クラスの長期的なリスク・リターン比と比べると、EB債のリターンはリスクに見合うほど高いとは言えない。商品特性上、株式との相関が強い一方で、リスク・リターン比は劣後するため、株式に代えてEB債を購入する意義はほとんどないと考えられる。
EB債の実質コスト(元本と公正価値の差)は、当庁による業界ヒアリングや公開情報からの推計に基づくと、投資元本に対して平均して5~6%程度と推定されるが、実現満期が0.6年程度と短いため、実質コストを年率換算すると8~10%程度に達すると考えられる。こうした高い実質コストが、リスク・リターン比の悪さにつながっていると考えられる。取扱金融機関(販売会社もしくは組成会社)側から見ると短期間で収益を上げやすいため、償還済み顧客に繰り返し販売する回転売買類似の行動に対する誘因が働きやすい商品性となっている。取扱金融機関各社や業界団体が自主的にデータを集計して定期的に公表するとともに、重要情報シートで組成・販売それぞれの実質コストを開示するなど、顧客向けの情報提供が充実されることが望ましい。