円安とアベノミクス

このブログでは、国債残高の問題を繰り返し取り上げてきましたが、新型コロナウイルス、エネルギーコスト上昇、ロシアによるウクライナ侵攻、FOMCの金融緩和縮小によって、この問題が大きくクローズアップされるようになりました。

2022年7月25日のBS-TBS「報道1930」の『日本は夜逃げできない…日銀はどうする?』が放送されました。その内容を確認しましょう。

  • 早川英男:元日銀理事
  • 小幡績:慶応義塾大学准教授
  • 加谷珪一:経済評論家
  • 堤伸輔:コメンテーター
  • 司会:松原耕二、出水麻衣

<円はどこまで安くなるか>

出水:元ゴールドマン・サックスAM会長のジム・オニールは、「円が1ドル=150円まで下げた場合、1997年のアジア金融危機並みの混乱を引き起こす恐れ」があるという。

早川:139円まで来ると、これから先、大幅な円安はないんじゃないかと思う。理由は二つ。①現在はとんでもない円安。円の長期的な実力である購買力平価は、90円台だといわれているので、それに比べるととんでもなく安い。②今月末にアメリカの成長率が出るが、場合によっては2四半期連続のマイナスになるかもしれない。そうなると、アメリカはリセッションに入ったことになる。そうすれば、どんどん円安になる状況ではないと思う。ただし、最近、日本銀行は政策決定会合でかたくなな姿勢を示している。7月の会合で、そういう姿勢を示すと、また円安になる可能性もある。

小幡:1ドル150円になる可能性になるかもしれないが、それ以上はないと思う。為替の絶対的水準には意味がない。為替の決まり方に関しては、経済理論でははっきりしていない。購買力平価が一番まともな理論で、アメリカでも日本でも同じものは同じ値段になるという考えで、そうすると1ドルは90円くらい。でも、それで決まったことはあまりない。今は金利差で決まるというが、それは金融市場の話で、モノとは無関係。金利が高いと通貨が高くなるというのは、なんとなくほんとっぽい気もするが、金利が高いとどんどん高くなるはずだが、現実にはそうならない。実際は、雰囲気とノリで決まる。専門用語でいうとモーメンタム。円が安くなっても日銀は動かない、日銀は弱虫だとみなし、何をやっても日銀は動かないから、円を安くしてやれと、ヘッジファンドは調子に乗って攻めてきている。勢いで来ていて、水準からいうと異常事態で、いろんなところにしわ寄せが来ているから、何かきっかけがあれば、戻す。

加谷:今年の3月から円安がスタートした時から、150円はありうると言ってきて、基本的認識は変わらないが、購買力平価の水準からすると著しく乖離している。ただし、マーケットはオーバーシュートする傾向があるので、加速するときは加速する。そして、ビジネスの観点からは、1ドル150円になると、生産コストは中国と日本が完全に逆転するので、150円が一つの目安。

松原:2021年7月から円売り状態が進んでいる。2022年6月8~14日は74327枚の円売りで過去最高。1枚は1250億円相当。9300億円相当売の方が上回っている。

スイスのヘッジファンドEDLキャピタルCIOのエドゥアール・ドラングラード:1ドル105円、107円だった時から、150円くらいまではいくんじゃないかと見ている。私は今のような世界的インフレが起こることを予想していた。それでまず、日本以外の世界の中央銀行が利上げに踏み切り、その流れでアメリカと日本の金利差が生まれて円安が進み、日本の投資家も円を売って、ドルを買う環境になると予想していた。今、日銀は必ず負けるゲームをやっていると思います。デフレだったり、インフレがあまり進まなかったときはウィンウィンだった。しかし、インフレ環境になって円安が進み、債務残高がGDPの2.5倍になっている今では、長期金利を抑え込む政策は火遊びのようなものです。どこかの時点で日銀は海外のように利上げをせざるを得ないということです。今の政策を続ける意味はもうありません。だから日銀の今の政策は大間違いだと思います。日銀が金融緩和政策を変えない限り円安がこれからも進み、円売りで私たちはもうかるでしょう。

<長期金利政策の変更>

早川:長期金利は変えてもよいと思うが、日銀は頑なになっている。何が問題になっているかというと、今のように無理やり長期金利を抑え込んでしまうと、そのしわ寄せが為替に出ることだ。これ以上、円安を進めないためにも、長期金利を弾力化した方が良いと思っているが、日銀は円安は日本経済にとってプラスだと言っているから、本当にそうであるなら、円安でよいという判断なんでしょう。

松原:国債は日銀が無制限に買い支えることができるが、為替は、市場介入したとしてもドルが尽きれば、円の買い支えが不可能になる。

早川:日銀はドルをかなり持っている。ジョージソロスが仕掛けたとき、イングランド銀行は、あまりドルを持っていなかった。ヘッジファンドが勝てると思っているという理由は、円安が進みすぎると日本国民の不満が高まって、政府としては、これ以上の円安は勘弁してほしいという状態になるだろう、ということ。アメリカが日本に協力して市場介入してくれるなら楽勝だが、アメリカは絶対に協力してくれない。

<日本は経済破綻するか>

松原:政治家は、ギリシャは海外から借金しているから借りられず、日本は国内から借りられるから大丈夫だと言ってきた。

小幡:ギリシャは貸し手がいなくなると破綻するので、損をするのは海外の投資家。海外からの借金が多かったギリシャと違って、日本は90%以上国内で持っている。破綻したら日本政府は夜逃げできない(つまり外国人に損をさせて、国内の人は損をしない)。破綻すると、損をするのは90%国内の人々。日本国内で破綻の負担を背負わなければならない。日銀が国債を買い取っても、その買い取り代金は日銀が持ったままで銀行には戻ってこない。日銀は必ず破綻する。財政破綻といっても紙くずになるわけではない。日本政府は毎年100兆円支出していて、税収は60兆円しかないので、40兆円が国債。新しく毎年40兆円貸してくれる人がいないと財政が回らない。でも、もしかして財政破綻するかも、国債が暴落するかも、と思った時点で、今年発行する国債を買う人はいなくなる。国内の金融機関は買わなくなる。国債が紙くずになる前に資金繰り倒産する。それを財政破綻と呼んでいて、必ず10年以内にやってくる。ヘッジファンドが、150円でなく、とことん売ってくる。そうすると株も下がるし、パニックになって破綻になる。

早川:今のままの状態が続くと、そういう状態になる。財政破綻すると、損をするのは日本人というのは小幡さんの言う通り。若干違うのは、ギリシャは自国通貨がないこと。ギリシャはユーロだが、ギリシャの経済規模は小さいので、ユーロが暴落することはない。一方、円は暴落するが、それは150円のレベルではない。その結果として物価が上がる、金利が上がる、国債の値段が下がる。ギリシャと一番違うのは、自国通貨ということ。日本の場合には、為替の下落を通じて物価が上がり、国債の価格が下がる。ただし、現在の1ドル139円は、そういうことではないと思う。

加谷:やりようはあるので、すぐ財政破綻という可能性は低いと思う。小幡さんの行ったことは経験済みで、太平洋戦争の戦費はほぼ全額日銀が引き受けて、すべてが国内債だったが、破綻をして1ドル360円になった。戦前は金本位制があったから単純には言えないが、1ドル、1.何円だった。そして、円が壊滅的に暴落をして360円になった。

<アベノミクスについて>

堤:異次元緩和とアベノミクスで達成されたのは、それ以前と比べての株高と円安だけで一人当たりGDPは下がり(2013年40935ドル、2021年39340ドル)、平均賃金もほかの国どんどん抜かれて、いわば先進国で一番後塵を拝している。この10年近い間に日本経済は全然強くなっていないし、逆に破綻のリスクをどんどん抱え込んでいった。今、国債に頼ってどんどん予算を組んでいること自体が、素人から見るとすでに財政破綻しているんじゃないかと見えなくはない。為替は本来相対的なもので、上がったり下がったりするものだが、現在の円は、安いか高いかではなく、弱い通貨になってしまった。円が強い通貨に戻ることはあり得ないのがつらい。

早川:この間は、日本国民にとって良いことはなかった。日本の一人当たりGDPは2012年に世界でドルベースで14位で、2021年は28位まで下がった。先進国から脱落した。

小幡:政府の借金残高計算の前提が、内閣府の試算では成長率3%だが、こんなことはあり得ない。竹中平蔵が経済企画庁の時から役人のエコノミストのプライドがなくなった。日本はリスクと嫌なことは見ない、思考停止。現実直視しない。財政破綻より、ハイパーインフレの方が怖い。財政破綻もよくないが、政府部門が一時的に倒産して立て直して、苦労はするが何とかなる。ところが、財政破綻を回避するために日銀をつぶすと、通貨が全く使えなくなって日本経済全体、社会全体がつぶれるので、日銀をつぶさないでほしい。守るべきは日銀だ。国債が暴落すると日銀が債務超過になり、通貨が信頼がなくなり、経済が死んでしまう。その瞬間に国際的な取引が全くできなくなる。

加谷:借金体制をやめ、経済成長をさせるしかない。

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