いよいよ、新NISAがスタートしました。オルカンが人気のようです。
2024年1月10日の日経電子版です。
三菱UFJ系の投信「オルカン」、1日で1000億円超流入
三菱UFJアセットマネジメントが運用する投資信託「eMAXIS(イーマクシス)Slim 全世界株式(オール・カントリー)」(オルカン)の9日の資金流入額が1000億円を超えたようだ。2023年12月の推計の月間流入額(1088億円)と同程度の資金が流入した。1月から始まった新しい少額投資非課税制度(NISA)が資金流入を後押しした。
2023年12月1カ月で資金流入(購入)が多かったファンド上位3銘柄は以下の通りですが、1か月分が1日で購入されたことになります。
1位 eMAXIS Slim 全世界株式(オルカン):1,088 億円
2位 eMAXIS Slim 米国株S&P500: 777億円
3位A・バーンスタイン・米国成長株投信D: 587億円
私自身も、家族も、全員がオルカン等の外国株式投資信託を購入していて、今年1年で1,400万円を購入する予定です。日本円で保有しているのが不安なので、外貨に換えているのですが、これが進むとどうなるのでしょうか。
2024年1月21日のロイターの記事を見てみましょう。
新NISA、外貨買い誘発し「貯蓄から逃避」の契機になるのか=唐鎌大輔氏
筆者は昨年6月に「弱い円、家計の資産防衛意識に注目 外貨シフトの胎動」、昨年9月には「貯蓄から投資に秘められた円安マグマ、注目される個人の外貨買い」といったコラムを寄稿した経緯がある。「家計の円売り」こそ、円相場ひいては日本経済にとって制御が難しい最大のリスクだと常々、懸念してきた。
<始まったマイルドなキャピタルフライト>
2024年に入り、残念ながら「家計の円売り」はテーマ性を帯び始めている。新NISA(少額投資非課税制度)の稼働を契機として、国内大手運用会社が運用する海外株式を対象とする投資信託に1日で1000億円を超える流入があったという事実と、円相場の軟調地合いをリンクさせる報道も目立ち始めた。
非常に短期間のうちに家計部門が自国通貨売りを行い、国債を含めた自国通貨建て資産価格が一斉に暴落する場合、「キャピタルフライト(資本逃避)」という表現が使われるが、現状はそこまでの急性的な症状は出ていない。
だが、マイルド・キャピタルフライト(穏当な資本逃避)程度の表現は今後、当てはまる可能性がある。過去の寄稿の経緯もあって照会も非常に増えているため、改めて新NISAに伴う「家計の円売り」を掘り下げてみたい。
<「家計の円売り」は年間7─9兆円程度か>
細かい試算の経緯は紙幅の関係上、割愛するが、現在までに入手可能な情報に基づき、筆者は「7─9兆円程度」という数字を「新NISAに伴う家計の円売り規模」として試算している。
今後、週次・月次の証券投資統計や民間証券会社から徐々に明らかになる数字をもとに試算はアップデートするが、政府が連呼する資産運用の必要性やこれを受けた世の中における新NISAのあおられ方を見る限り、「7─9兆円程度」は、現時点でさほど大胆な予想でもないだろう。
今後、資産運用に関連したニーズは増える一方と思われる。金融庁調査(2023年9月)に基づけば、旧NISAの口座数の中で、30代(17.5%)・40代(18.9%)・50代(18.3%)がコアゾーンとなり、60代以降のシェアは低下する。
見方を変えれば、今後、高齢者になる世代は従前の高齢者世代とは異なり、運用意欲とリテラシーを備えた層に入れ替わっていくことが想定される。
また、コアゾーンである30─50代も、「円高の歴史」が当たり前ではなくなったことを知る世代に入れ替わっていく。投資ではなく防衛としての資産運用を検討する動機は、過去の世代よりも強いと思われる。いずれにせよ、ここから運用ニーズが収縮するとは考えにくい。
「今までよりも資産運用ニーズは増える」という予想に立った場合、まず「今まで」を知る必要があるが、この点は投資家部門別の対外証券投資動向から大まかなイメージが得られる。
具体的には、投資信託委託会社等(以下単に投信)経由で対外証券投資がどれほど出ていたかが参考になる。2014年1月に旧NISAが始まり、それ以降、投信経由の対外証券投資は前年比での増勢が途切れたことはない。
2014年から2023年の10年平均で年間3.6兆円程度、コロナ前に限ったとして2014年から2019年の6年平均で計算しても年間3.4兆円程度とあまり変わらない。ちなみに2023年は年間4.5兆円程度に増えた。この年間4.5兆円程度が新NISAでどこまで膨らむのかがポイントになる。
既述した「7─9兆円程度」という試算は4.5兆円程度に照らせば1.5─2倍程度になる。もちろん、直ちにそれほどの規模に達するのは難しいだろう。しかし、これから掘り起こされる潜在的な投資家層も踏まえれば、さほど非現実的な想定とも言えまい。
<「資産運用立国」対「観光立国」>
では「7─9兆円程度」が円相場の需給環境にとって、どれほどの意味を持つのか。ここでは経常収支の現状と比較してイメージを把握したい。
例えば、昨年1─11月分の旅行収支黒字の合計は約3兆円だった。これは暦年としての過去最大(2019年の約2.7兆円)を更新する大きな黒字だ。国策に照らして表現すると「資産運用立国」に伴う円売りが「観光立国」に伴う円買いを上回った状況になる。
また、旅行収支を含めた経常収支という観点に立てば、1─11月分は約17.7兆円と非常に大きな黒字だ。
だが、これは統計上の数字である。経常収支黒字の主柱をなす第1次所得収支黒字は、筆者試算によれば25─30%程度しか円買いにつながらない。
米国債の利子や米国株の配当金、海外子会社の内部留保などは、外貨のまま再投資されてしまうにもかかわらず「統計上の黒字」として計上されてしまう。この点を加味した筆者試算のキャッシュフロー(CF)ベースでの経常収支は約2兆円の赤字だ。
2024年は旅行収支黒字の拡大と貿易サービス収支赤字の縮小が重なることで、CFベースの経常収支が若干ではあるが黒字を回復するというのが筆者想定である。しかし、その若干の黒字も「7─9兆円程度」という「家計の円売り」に飲まれて、やはり円売り超過の体質が変わらないという可能性も視野に入る。まさに筆者が常々懸念していた展開だ。
なお、本コラムでも過去に議論し、ようやく市場関係者の間でも話題となってきたデジタル関連収支赤字は2023年1─11月合計で約5.2兆円の赤字、恐らく2023年通年では6兆円弱の赤字で着地しそうだ。「7─9兆円程度」という円売りは、デジタル赤字より大きな規模だ。
<マイルドがストロングになるリスク>
冒頭で述べた通り、足元の為替市場でテーマ視される「家計の円売り」は、まだマイルドであり、月に4─5円も円安になり、円金利まで押し上げられるような状況は想定されない。
もっとも、マイルドな状態が永続する保証もない。2023年末には新NISAの購入予約額がネット証券大手5社で月間2300億円に達したという報道があった。報道内容から察すると、このうちのほとんどが外貨建て投信に向かっている。2023 年 9月末時点の 旧NISA口座数は約2034万口座だったから、円売り規模は「月に1口座1万円」程度と推定される。
今後もこの程度で抑えられるかどうかは、家計の「胸先三寸」で決まる。今は「月に1口座1万円」でも、これが1.5万円ならば3450億円、2万円ならば4600億円と膨らむ。年間ならその12倍だ。
ラフな議論だが、キャピタルフライトがマイルド(穏当)からストロング(強力)へとシフトする未来は、遠いようで近くもある。
「家計の円売り」の規模次第では米連邦準備理事会(FRB)の利下げ・米金利低下・日米金利差縮小という材料がそろっても、円高に振れないどころか円安が進む可能性すらある。
こうなってくると、筆者が本コラムを通じて再三懸念してきた需給構造変化が、いよいよFRBの利下げをもってしても円安を止められない次元まで深いものになっている証左と言える。
<「貯蓄から逃避」という現実>
日本では「皆がやっている」という空気が、個人の行動を駆動しやすい。今後、現状のムードに沿って参入してくる投資家層は相応にいるだろう。
輸入財を中心として一般物価が上昇傾向にある中、投資というよりも防衛として運用の必要性を感じる層は増えるであろう。それは合理的な判断でもある。
防衛意識を前提にする以上、もはや「貯蓄から投資」というよりも「貯蓄から逃避」の様相を呈しているが、そのような保守的意識に基づいた逃避行動であれば日本人と親和性が高いかもしれない。
新NISAを通じて買い付けされた投資は、基本的に塩漬けされる「戻って来ない円」である。2010年以降、企業の対外直接投資が円高抑止効果をもったように、中長期的な円の方向感を縛る可能性がある。
文字通り、円相場は長期円安局面に切り替わる過渡期に入っており、2024年に限って言えば、FRB利下げなどに応じて到来しそうな押し目を見極める局面と位置付けられるだろう。