金利と利払い費

日本は金利のある世界に戻りつつあります。

住宅ローン、預金など身近な問題以外に、国債利払いの問題が重大です。


金利1パーセント上昇で国債利払い費8.7兆円増 財務省試算

毎日新聞2024/4/4

財務省は4日、国債の想定金利が2025年度以降に更に1%上昇した場合、国の借金である国債の利払い費が33年度に従来見込みよりも8・7兆円増えるなどとする試算を公表した。3月の日銀による金融政策の変更を受けた対応。「金利のある世界」が現実味を増す中で、持続可能な財政運営が課題となる。

同日開いた財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の財政制度分科会で示した。

同省は2月、3%の経済成長を見込むケースで、国債の想定金利が27年度に2・4%に上昇し、国債の償還と利払いを合わせた国債費が34・2兆円に達するとの試算を公表。24年度に9・7兆円を見込む利払い費は、27年度に15・3兆円に膨らむとしてきた。更なる金利上昇を見込んだ今回の試算では、現行水準と同じ約30兆円の新規国債の発行が続く想定で、27年度の利払い費は従来見通しよりも3・2兆円増えるとした。

33年度については従来見通しでは利払い費などは24・8兆円としてきた。今回の試算を踏まえると、利払い費は30兆円台になる計算だ。

金利上昇による利払い費の増加は、徐々に進むのが特徴だ。低金利下で発行した国債の償還にあわせて、高い金利の国債に借り換えるためで、金利上昇による財政への影響は長期化する。

分科会終了後に記者会見した増田寛也会長代理(日本郵政社長)は「金利上昇による利払い費の増加が、財政悪化につながるということは共有されている。今後の日銀の政策も注視しつつ、財政運営の目指すべき方向性を提言したい」と述べた。財政審は提言を5月にも取りまとめ、政府の経済財政運営の指針「骨太の方針」への反映を目指す。


利払い費=国債費―償還費

国債費:国の借金である国債の償還や利子の返済のために充てる費用。国債費は償還期限を迎えた国債の元本を返済するための償還費と、発行した国債の利払い費の2つに分かれる。積み上がった国債の償還費と利払い費は毎年の予算編成を制約する要因になる。


金利上昇に対して脆弱な日本の財政

2023.1.1 三菱総合研究所

POINT

  • コロナ危機により日本の財政はさらに悪化。
  • 今後は財政リスクプレミアムが高まる可能性も。
  • 財政規律の制度化と国民の理解・支持形成による財政再建を。

金利上昇に脆弱な日本の財政

コロナ危機下での大規模な経済対策は110兆円に上った。日本の政府債務残高はGDP比260%へと膨れ上がり、第二次世界大戦時の水準を大きく上回ることになった(図)。

政府債務残高の積み上がりは、財政に対して主に2つの悪影響を与える。

第1に「財政破綻リスクの上昇」である。日本の財政に対する信認が低下すると、投資家は日本国債の保有に高い金利を要求するようになり、その結果、実際に財政破綻する可能性が高まる。財務省によれば、金利が1%上昇すると、3年後の国債費(利払い費)は3.7兆円増加する。これは名目GDP(2021年度)の約0.7%に相当する規模だ。

第2に、国債を発行しづらくなり財政の自由度が制限される。すると不況期の経済対策などに支障が出かねない。気候変動対策や経済安全保障の強化など新しいニーズへの支出は今後本格化する。実際に2010年代の欧州債務危機時に欧州各国は、財政支出の拡大から財政悪化の懸念が高まったことで国債金利が上昇し、不況期にもかかわらず緊縮財政を強いられた。

これまで日本は国債金利が非常に低い水準で推移してきたが、今後は2つの観点から金利が上昇する可能性が高まってくる。

[図] 主要国の政府債務残高

[図] 主要国の政府債務残高

①金融緩和の見直し
まず「金融緩和の見直し」である。過去30年間、物価はほぼ横ばい、政策金利(短期金利)は低水準で推移してきた。2016年以降は、日本銀行が短期金利だけなく長期金利も操作し、10年物国債利回りがゼロ近傍になるように国債買い入れを行ってきた。
しかし足元では価格転嫁の動きが徐々に広がりつつあり、家計や企業の期待インフレも高まっている。加えて2023年春闘で賃上げが進めば、物価安定の目標である物価上昇率2%の達成に近づく。すると日本銀行は緩和的な金融政策を見直すだろう。実際に日本銀行は2022年12月下旬に10年物国債利回りの許容変動幅の拡大を決定した。

②海外投資家の国債保有比率の上昇

次いで「海外投資家の国債保有比率の上昇」である。これまで国内投資家は購入した日本国債を売買せずに保有する傾向が強く、財政が悪化しても金利上昇につながりにくかった。その結果、財政規律の緩みに対する市場からの警告が機能せず、国民や政治家の財政再建への切迫感が乏しかった。

しかし海外投資家の保有比率は上昇傾向にある。2020年末時点で、海外投資家は日本国債の13%を保有する。取引所での海外投資家の売買シェアも67%まで上昇した。海外投資家はグローバルに運用することから、日本のデフォルトリスクが高いと認識したとたん、日本国債の保有に対して国内投資家より高い金利(リスクプレミアム)を要求しかねない。

当社予測では2040年代前半までは家計貯蓄が公的純金融負債を上回り、数字上は国内で国債を消化できる。しかし「貯蓄から投資へ」の流れが進めば実質的な国債買い入れ原資はより少なくなる可能性もある。

国債の海外投資家の保有比率が20%を超えると金利上昇リスクが高まるとの研究結果もあり財政再建に残された時間は少ない。

仕組みづくりと合意形成で財政再建を

日本の財政は将来の破綻リスクが高まっており財政再建が急務である。

鍵は2つある。まず財政再建に向けた仕組みづくりである。例えば米国は、毎年の歳出に上限を設ける「キャップ制」、さらには新たに歳出増・歳入減の政策を実施する場合の措置として別の歳出減・増税措置を求める「ペイ・アズ・ユー・ゴー原則」などの仕組みを導入することで財政状況を改善させた。

財政再建に向けた国民の支持形成も重要だ。これまで日本では財政赤字が常態化したため、「中福祉・低負担」の状態を「中福祉・中負担」だとする誤解が国民に定着した。

増税や歳出削減への国民の反発には強いものがあるが、政治家・政府としては現状の社会保障制度や公共サービスの維持に必要な財源や負担額を丁寧に説明し国民の理解を得る必要がある。

独立財政機関を設立し、追加的な財政支出を実施した場合に必要な、将来の負担額を客観的に示すことも重要になるだろう。

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