軌道修正の時期
2020年、新型コロナウイルスで大騒ぎしていた時には、財政出動、超低金利、カネ余りが実施されましたが、いつまでもこんなことをしていては危険だと、軌道修正が近づいてきました。これらの諸問題について、平山賢一氏「日銀ETF問題」などを参考に考えてみましょう。
日本銀行異次元緩和金融政策
日本の超低金利時代を振り返ると、「物価安定の目標」を消費者物価指数の前年比上昇率2%と決めて、これを実現するために、
- 2013年4月の「量的・質的金融緩和」導入、
- 2014年10月の「量的・質的金融緩和」拡大、
- 2015年12月の「量的・質的金融緩和」を補完するための各種措置の導入、
- 2016年1月の「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」導入、
- 2016年7月の「金融緩和の強化」
- 2016年9月の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」導入(イールド・カーブ・コントロール、オーバーシュート型コミットメント」)
を実施してきました。
これらの金融緩和施策の中でETFを購入してきました。どれほど買ってきたのでしょうか。
暦年 | ETF(1)億円 | ETF(2) | J-REIT | 貸付 |
2010年 | 284 | 22 | ||
2011年 | 8,003 | 643 | ||
2012年 | 6,397 | 446 | ||
2013年 | 10,953 | 299 | ||
2014年 | 12,845 | 372 | ||
2015年 | 30,694 | 921 | ||
2016年 | 43,820 | 2,196 | 887 | |
2017年 | 56,069 | 2,964 | 898 | |
2018年 | 62,100 | 2,940 | 564 | |
2019年 | 40,880 | 2,892 | 528 | |
2020年 | 68,450 | 2,916 | 1,147 | 3,848 |
総計 | 340,495 | 13,908 | 6,727 | 3,848 |
(注)ETF(2)は「設備投資及び人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するためのETF」、ETF(1)はETF(2)以外。「貸付」は日本銀行が保有する「指数連動型上場投資信託受益権」の貸付け。(出所)日本銀行
ETFを35兆円購入
この表の総計を見れば分かるように、最近10年間で日本銀行からETFを35兆円買ったことが分かります。この購入に関しては、様々な問題が指摘されています。
ETF購入策は「筋が悪い」
大和証券の木野内栄治氏は、日本銀行によるETF購入策は「筋が悪い」政策と指摘しています。
第1の理由は、容易に売却できないため、この政策を大規模に、長期にわたって続けることは難しいとの議論だ。実際、日銀の購入により、一部の日経平均採用銘柄の浮動株が早々に枯渇するとの誤解が流布していた。
第2の理由は、そもそも株式市場に関心がある国民は少数派である、との見方に基づく。日銀の「異次元緩和」の質的な柱であるETF購入策は大胆な政策ではあっても、広く国民のマインドに働きかけているとは思えない、という指摘だ。
第3は、将来、日銀が大量保有するETFの売却を行えば市場価格を崩す、と考える投資家の不安だ。株価下落の不安は投資意欲を減衰させる。結局、現在の市場価格を押し上げるはずの政策効果は小さくなりかねない。実際、昭和40年不況における証券買い取りの後は、市場売却によって株式市場は大きく下落した。
リスク・プレミアムに効かない
こうした問題点があるために、ETF購入策がリスク・プレミアムに働きかける効果は一時期に比べて減少してしまった、と主張しています。
安く買いたい人が買えない
個人投資家から見れば、株価が下がった時に買い増そうとしている人が、株価が下がらないので買えないという問題があります。そのため、個人投資家が株式市場に関心を持つチャンスをつぶしているかもしれません。
スチュワードシップ・コード
また、企業統治に関しては、ETFを構成する個別株式の議決権について、スチュワードシップ・コード(機関投資家の行動指針)の問題があります。
スチュワード(steward)とは執事、財産管理人の意味を持つ英語で、スチュワードシップコードは、金融機関による投資先企業の経営監視などコーポレート・ガバナンス(企業統治)への取り組みが不十分であったことが、リーマン・ショックによる金融危機を深刻化させたとの反省に立ち、英国で2010年に金融機関を中心とした機関投資家のあるべき姿を規定したガイダンス(解釈指針)のことです。
投資先企業の企業価値を向上し、受益者のリターンを最大化する狙いの下、機関投資家は次の7つの原則を行うべきであるとされています。
(1)受託者責任の果たし方の方針公表、
(2)利益相反の管理に関する方針公表、
(3)投資先企業の経営モニタリング、
(4)受託者活動強化のタイミングと方法のガイドラインの設定、
(5)他の投資家との協働、
(6)議決権行使の方針と行使結果の公表、
(7)受託者行動と議決権行使活動の定期的報告、
コーポレートガバナンス・コード 「Corporate Governance Code」
コーポレートガバナンス・コードは、「企業統治原則」ともいわれ、中長期的な企業価値の向上に向け、上場企業の経営者が取り組むべき指針です。安倍政権が2014年6月に策定した成長戦略に盛り込まれ、東京証券取引所や金融庁が中心に15年3月にまとめ、6月から全上場企業への適用を開始しました。複数の社外取締役選任や、持ち合い株など政策保有株の方針開示などで構成されています。また、18年6月に適用された新たな指針では、取締役会の構成について、女性や外国人など多様性を確保するよう求めたほか、企業同士の株の持ち合いの縮減を促した。最高経営責任者の選任・解任の手続きの客観性や透明性も求めています。
何に投資すればよいか
日銀のETF保有や、アメリカを中心とするテーパリングについては、株式市場に大きな影響があるので、個人投資家としても関心のある所ですが。このまま外国株式ETFやインデックスファンド中心のポートフォリオで良いのかどうかを考えるときに、過去の資産のリターンがどうなっているかも、確認しておきましょう。
主要資産の年率リターン(%)
年代 | インフレ率 | ゴールド | S&P500 | 米国リート |
1970 | 9 | 33 | 7 | 13 |
1980 | 4 | -4 | 14 | 11 |
1990 | 3 | -3 | 17 | 14 |
2000 | 2 | 18 | 1 | 11 |
2010 | 2 | 3 | 14 | 9 |
基本はS&P500
この中で比較的しっかりしているのが米国リートです。一方S&P500も、リーマンショックの起きた2000年代以外は堅調でした。しかし、よく見ると1990年代は、終盤にITバブルがあり、2000年代は終盤にリーマンショックがあったので、それを均してみると、(17+1)÷2=9ですから、20年間平均の年率リターンは9%であり、決して低くない水準です。やはり、基本はS&P500かもしれません。