<昨日の続き>
2013年4月に金融庁金融研究センターは、金融経済教育研究会の研究会報告書として、「最低限身に付けるべき金融リテラシー」をまとめました。それについて、昨日に引き続き考えたいと思います。
(c)金融知識及び金融経済事情の理解と適切な金融商品の利用選択
項目 12:人によってリスク許容度は異なるが、仮により高いリターンを得ようとする場合には、より高いリスクを伴うことの理解
以下は報告書の記述です。
「一般に、リターンとリスクはトレードオフの関係にあり、金融商品からより高いリターンを得ようとする場合には、より高いリスクを伴うことの理解が重要である。
この点を理解することで、例えば、通常より高いリターンが得られるとして、「そうしたリターンは必ず実現します」、「損失は発生しません」といった説明が行われる場合にも疑いを持てるようになる。
逆に、リスクを避けてばかりいては、リターンが得られないことから、それぞれが将来に向けて堅実に資産形成を行う上で、どの程度のリスクをとり、どの程度のリターンを目指すかについて考えていく上でも、上記の点の理解は出発点となる。」
違法は論外。問題は合法な商品の中の選択
以上、報告書に書いてあることは、かなり乱暴なくくり方をしています。上記の「そうしたリターンは必ず実現します」、「損失は発生しません」というのは違法行為、あるいは詐欺ですから、論外です。利用者にとって、もっと身近な危険は、法律上の問題はないけれど、高い手数料を負担したり、リスクを負わされることです。
合法的であるけれど、いつの間にか利用者が損をしている、あるいはリターンを減らしている具体例を挙げておきます。
確定拠出年金で、リスクを取る方法、取らない方法
2001年に、私が勤めていた会社に確定拠出年金制度が導入されました。2001年と言えば、日本の資産バブルが崩壊してから、まだ10年しか経っておらず、4年前には山一證券の自主廃業などが起きた頃でした。投資や金融商品に関心の無い人たちは、株式や外貨での資産運用を敬遠し、銀行預金で確定拠出年金を貯めました。しかも、それは全社員の90%にも上りました。この確定拠出年金の幹事会社の担当者によると、他の企業でも押しなべて90%が銀行預金を選ぶのだそうです。
ここで、確定拠出年金でリスクをどの程度取っているかを見てみましょう。
最初はニッセイ基礎研究所のデータです。左の青が元本確保型です。
元本確保型の「定期預金」「保険」、価格変動型の「投資信託」
初めに、元本確保型といわれるのは「定期預金」や「保険」で、元本は確保されますが、資産が大きく増えるのは期待薄の商品です。一方、価格変動型といわれるのは「投資信託」です。運用成果によって資産を大きく増やせる可能性がありますが、元本割れの可能性もあります。
保険は元本確保型
例えば、住友生命の確定拠出運用商品は、スミセイDCたのしみ年金5年と、スミセイDCたのしみ年金10年の二つがあります。両方とも、元本確保型商品ですからリターンはほとんどありません。
左がリターン小、右がリターン大
図の中で、左の方の青は「元本確保型」です。次はグレーの「短資」はよく見えません。次の薄い水色は「内債」、濃いオレンジは「外債」、薄いオレンジは「外株」、白っぽいのが「バランス型」です。つまり、左ほどリスク・リターンが小さく、右に行くほどハイリスク・ハイリターンになります。全年代では60%が元本確保型を選んでいます。
確定拠出年金のメリット
確定拠出年金のメリットは、毎月定額を積み立てることができるということと、税制上の優遇措置があるということです。このうち、ハイリスク・ハイリターンの商品を利用しないということは、確定拠出年金のメリットを半分しか使っていないことになります。それどころか、積立の貯蓄は、確定拠出年金を使わなくてもできますから、わざわざ確定拠出年金制度を利用する意味がないということになります。いわば6割の人が、宝の持ち腐れ状態にあるということです。
全額を外国株式インデックスファンド
私は2001年に全額を、外国株式インデックスファンドで運用していますので、現在は元金600万円の2倍の1200万円に増えています。確定拠出年金は、ハイリスク・ハイリターンを利用すべきだと思います。
65%が元本確保型、私は少数派
国民年金基金連合会2017年のデータで、運用商品を確認しましょう。元本確保型は、預貯金が38.6%、保険が26%で、合計64.6%を占めます。2010年代になって、景気が良くなっても、相変わらず日本人の元本確保指向は変わらないようです。私が全額を投資している外国株式型は6.8%ですから、相変わらず少数派です。
最新データでは元本確保型が56%
一番最近のデータは、2019年3月末です。元本確保型は、預貯金が36.0%、保険が19.9%で、合計55.9%を占めますから、2年間で10.9%減少したことになります。日本も、少しずつ、ハイリスク・ハイリターン商品に目が向かいつつあるのかも知れません。
企業型と個人型の違い
この状況を、企業型と個人型に分けで見てみましょう。企業型は、自分の勤めている会社が導入している確定拠出年金制度です。個人型は、イデコiDeCoという、自分で金融機関に申し込むタイプです。企業型は、会社に言われていやいや選択する場合も有るでしょうが、個人型は、投資について勉強する人が多いでしょうから、当然ハイリスク・ハイリターンの割合が多いと思いますが、どうでしょうか。
円グラフの外側が企業型、内側が個人型です。予想に反して、個人型の方が緑の預貯金、水色の保険が多くなっています。イデコを積立型の商品としてしか使っていないようです。
投資信託の内訳
ハイリスク・ハイリターン商品である投資信託の運用割合を、企業型、個人型で見てみましょう。最もハイリスクなのは外国株式型で、外側の企業型は9.0%、内側の個人型は10.3%ですから、個人型、つまりイデコの方がリスクを取っているようです。こちらの方は予想通りです。