2013年4月に金融庁金融研究センターは、金融経済教育研究会の研究会報告書として、「最低限身に付けるべき金融リテラシー」をまとめました。それについて、昨日に引き続き考えたいと思います。
(c)金融知識及び金融経済事情の理解と適切な金融商品の利用選択
項目 14:資産形成における長期運用の効果の理解
元本から生じた利子・配当等を使わずに、次期の元本に組み入れ、継続的に運用を行うことは複利の資産形成です。こうすることにより、その利子・配当等相当部分に対しても次期の利子がつきますから、資産形成において効果が期待されます。
複利を利用せずに、株価が少し上昇すると、その株や投資信託を売って利益を確定させる人がいますが、株・投信を売却すると、そのお金で直ぐに他の株・投信を買ったとしても、税金で差し引かれた部分については複利の効果が出ません。また、すぐに他の株・投信を見つけることも難しいので、ある程度現金で保有する期間も発生します。現金には配当は付きません。
なお、報告書では、この項目に対して次のような説明が書かれています。
「加えて、長期運用には、例えば、外貨建て資産への投資の際に、時期の分散を組み合わせることで、為替リスクの軽減を図りやすいというメリットもある。さらに、金融危機のようなパニック時に底値売りをしてしまい、結果的に損を大きくしてしまう事態を防ぐ効果もあると考えられる。」
外貨建て資産の時期分散投資は疑問
この説明には首をかしげます。外貨建て資産について、このことが当てはまるのは、一定の範囲内で上下に変動する場合には当てはまるでしょうが、10年、20年かけて円高になる場合には当てはまりません。例えば、最近20年間にアメリカのドル建て資産に投資した場合には、この説明が当てはまるかもしれませんが、例えば、トルコリラやブラジルレアルに投資した場合はどうなるのでしょうか。
トルコリラは6分の1
このチャートは、2006年からのトルコリラの動きです。2008年には100円だったものが、現在15.6円にまで下がっています。長期保有すればするほど損をしています。
ブラジルレアルも3分の1
ブラジルレアルは、トルコリラほどひどくありませんが、60円から20円に下がりっぱなしです。
イギリスポンドも2分の1
新興国だからそうなるのだろうと思われるかもしれませんが、50年前は1USドルが360円だったものが、現在は107円です。イギリスポンドも、2007年には250円でしたが、現在は136円まで下がりました。
従って、報告書において、時期の分散の対象として外国為替を例示とするのは、適切なのか疑問です。
(d)外部の知見の適切な活用
項目 15:金融商品を利用するにあたり、外部の知見を適切に活用する必要性の理解
この項目に関しては以下の記述があります。
「金融分野は専門性・複雑性が高く、また、個々人の心理的・感情的な要素にとらわれることがあることから、一定の金融リテラシーを身に付けていても、自分だけの知識・判断で完全に身を守ることは難しい。金融商品を利用選択するにあたり、事前に適切な情報や相談先にアクセスすることができ、アドバイスを求めることの必要性を理解していることは、金融リテラシーの重要な要素である。」
誰に相談するの?
この報告書の記述にある、適切な情報、相談先、アドバイスとは具体的に何のことでしょうか。私にはピンと頭に浮かぶものが出てきませんが、可能性のあるものについて、検討してみましょう。
銀行
銀行での相談はしてはいけません。銀行員の高い人件費、地価の高い好立地等の経費を賄うために、高いコストの商品を勧めますので、相談すべきではありません。銀行で利用すべきは、給与年金の受取口座、ATMによる現金出し入れ、クレジットカードの決済等に絞るべきです。
対面証券会社
野村證券等での相談もすべきではありません。利用できる商品は、ETF等、極めて小範囲の商品です。逆に買ってはいけないのは、アクティブ・ファンドなど高コストの商品です。ただし、株式の売買を趣味でやるのは、自身の判断ですから、私がとやかく言う話ではありません。個別株式に投資するのであれば、業種、銘柄を分散して長期保有に心がけた方がよさそうです。
証券会社の営業は売れ残り商品ばかり
また、対面証券会社は、顧客の資産が多いと、電話や郵便で、公開株式や社債の売り込みがありますが、これらはすべて優良顧客である法人や個人が買わなかった、売れ残りですから、断った方が賢明です。私はこれらの商品はすべて断っているので、最近は全く営業がありませんが、ソフトバンクや郵政民営化の時には、売れ残りがたくさん有ったらしく、営業の電話がかかって来ました。もちろん断りました。さらに、私の自宅まで、営業担当があいさつに来たことがありましたが、つれなく返事をして終わりにしました。この人はどんな営業をしてもだめだと思ってもらいたいからです。
ネット証券会社
ネット証券は様々な面で低コスト化を徹底していますので、無駄な営業は無さそうです。ただしSBI証券の場合は、SBIマネープラザという組織があって、東京には、新宿中央支店、新宿東住宅ローンプラザ、秋葉原支店に店舗があります。私は利用したことがありませんので、どういう組織か分かりません。
ネット証券に銘柄、商品を相談したことはありませんし、する必要もないと思います。
若者はネット証券の時代
私自信と連れ合いは野村證券を利用していますが、子供達にはSBI証券を勧めました。野村證券の問題点は、ETFの売買手数料が高いことと、インデックスファンドについては信託報酬の高いものしか扱っていないことです。
高齢者が野村證券を賢く使う方法
野村證券については、実質的なコスト低減を実現する賢い使い方があります。それは、SPY(アメリカSPDRのS&P500のETF)、1306(TOPIX連動型上場投資信託(ETF))など代表的ETFを買って、そのまま何もせずに10年間保有し続けることです。いわゆるバイ・アンド・ホールドです。野村證券の売買手数料は約1%ですが、10年間持ち続ければ、1年当たり0.1%に過ぎません。それだけのコストで、安心感が得られるのであれば安いものです。私と、連れ合いは、これからも野村證券を使い続けます。
ファイナンシャルプランナー
金融機関の社員であるファイナンシャルプランナーに相談することはナンセンスです。この人達の給料は、勤めている金融機関から支払われているのですから、金融機関の儲かることしか推奨しません。
独立したファイナンシャルプランナー
独立したファイナンシャルプランナーには、契約した金融商品のバックバージンを受け取る場合と、完全に独立している場合がありますが、そのどちらかは判断が付きにくいと思います。
ファイナンシャルプランナーへの相談は不要
個人の資産運用は、そんなに難しいことではありませんから、ETFやインデックスファンドを中心に投資すれば、誰でも運用できます。そして、頻繁に売り買いせずに、10年間保持し続けることです。
以上のことから、報告書で、相談することを勧めている理由が良く分かりません。