Ⅰ 現状 1. 資産運用業を取り巻く環境:
(1) パッシブ運用の急伸と寡占化の進行
米国株式ファンドを中心に、低手数料のパッシブファンドやETFの残高が急速に伸びており(図表A)、これらのファンドを提供する運用会社の純資産額が拡大。
資金流入により運用規模を拡大した米国のパッシブファンド・ETFの運用会社が、規模の利益(運用効率の向上)を活かして手数料を引き下げ、さらに資金を集める、という循環が生じており(図表B)、こうした一部の資産運用会社による寡占化が進行。低金利環境が継続する中での投資家のコスト意識の高まりや規制による情報開示の強化、中長期的にみてアクティブ運用がインデックス運用を上回ることができなかったことが、こうした流れの一因とされている。
B. 世界の資産運用会社等の純資産残高
資金流入により運用規模を拡大した米国のパッシブファンド・ETFの運用会社が、規模の利益(運用効率の向上)を活かして手数料を引き下げ、さらに資金を集める、という循環が生じており(図表B)、こうした一部の資産運用会社による寡占化が進行。低金利環境が継続する中での投資家のコスト意識の高まりや規制による情報開示の強化、中長期的にみてアクティブ運用がインデックス運用を上回ることができなかったことが、こうした流れの一因とされている。
(注)太字はパッシブ運用やETFに特に強みを持つ資産運用会社。
2010年
順位 | 会社名 | 国 | 残高(兆ドル) |
1 | ブラックロック | 米 | 3.6 |
2 | ステートストリート | 米 | 2.0 |
3 | アリアンツ | 独 | 2.0 |
4 | フィデリティ | 米 | 1.8 |
5 | バンガード | 米 | 1.8 |
6 | ドイツ銀行 | 独 | 1.6 |
7 | アクサ | 米 | 1.5 |
8 | BNPパリバ | 仏 | 1.3 |
9 | JPモルガン | 米 | 1.3 |
10 | キャピタル | 米 | 1.2 |
20 | 日本生命 | 日 | 0.7 |
30 | 全共連 | 日 | 0.5 |
31 | 三菱UFJFG | 日 | 0.5 |
2018年
順位 | 会社名 | 国 | 残高(兆ドル) |
1 | ブラックロック | 米 | 6.0 |
2 | バンガード | 米 | 4.9 |
3 | ステートストリート | 米 | 2.5 |
4 | フィデリティ | 米 | 2.4 |
5 | アリアンツ | 独 | 2.2 |
6 | JPモルガン | 米 | 2.0 |
7 | BNYメロン | 米 | 1.7 |
8 | BNPパリバ | 仏 | 1.7 |
9 | キャピタル | 米 | 1.7 |
10 | アクサ | 仏 | 1.6 |
20 | 三井住友トラストHD | 日 | 0.8 |
30 | 日本生命 | 日 | 0.7 |
31 | 三菱UFJFG | 日 | 0.6 |
この結果、例えば英国では、伝統的なアクティブ運用を強みとしてきた資産運用会社の運用資産から資金が流出し、同国に進出した米国のパッシブファンド・ETFの運用会社に大幅に資金が流入している(図表C)。
C . 英国の資産運用会社の年間流出入額
(注)太字はパッシブ運用やETFに特に強みを持つ
米国を本拠地とする資産運用会社。
• この結果、例えば英国では、伝統的なアクティブ運用を強みとしてきた資産運用会社の運用資産から資金が流出し、同国に進出した米国のパッシブファンド・ETFの運用会社に大幅に資金が流入している(図表C)。
会社名 | 英国内の年間出入額(2019年) | 本拠地 | 英国内の純資産残高(2019年末) |
ブラックロック | 91.2 | 米 | 1616.0 |
ロイヤル・ロンドン | 76.1 | 英 | 644.7 |
バンガード | 61.8 | 米 | 416.4 |
JPモルガン | 26.2 | 米 | 233.7 |
ベイリー・ギフォード | 22.8 | 英 | 533.3 |
インベスコ | -122.7 | 米 | 550.4 |
アバディーン | -114.5 | 英 | 381.5 |
M&G | -99.5 | 英 | 455.9 |
シュローダー | -55.1 | 英 | 455.8 |
アルテミス | -54.8 | 英 | 266.4 |
Ⅰ 現状 1. 資産運用業を取り巻く環境:
(2) 厳しさを増す競争環境と海外資産運用会社の対応
米国では、パッシブの運用報酬の低下に連れてアクティブの運用報酬も低下。また、ファンド規模が大きくコストが低下していることから、信託報酬の絶対水準も低くなっている(図表A)。
A. 米国ミューチュアルファンドの信託報酬の推移
市場の寡占化や手数料低下が進む中、アクティブ運用を主軸としてきた資産運用会社は、手数料収入の減少への対応を迫られており、大手の海外資産運用会社でも、規模を追求するための統合の動きが相次いでいる(図表B)。
B. 海外資産運用会社の主な統合事例(純資産残高:億米ドル)
2016年10月 米 ジャナス 1,890
英 ヘンダーソン 1,360
2016年12月 仏 アムンディ 9,850
伊 パイオニア 2,430
2017年3月 英 スタンダード・ライフ 3,430
英 アバディーン 3,460
2018年10月 米 インベスコ 9,370
米 オッペンハイマー 2,460
2020年2月 米 フランクリン・リソーシズ 6,490
米 レッグメイソン 7,270
(注)純資産残高は、統合を発表した年の前年末の数値。
厳しさを増す競争環境に対応するため、海外資産運用会社は、従来型のアクティブ運用にとどまらず、他社にはない自らの強みを顧客の目線に立って見極め、戦略的に経営資源を投入することで、競争力強化を図っている。金融コングロマリットの一部では、銀行の自己資本規制の強化等も、資産運用ビジネス強化の契機となっている(図表C)。
C. 海外資産運用会社の主な戦略の例
- よりアクティブ度の高い戦略の追求
- ESGを重視した運用やエンゲージメントの強化
- オルタナティブ投資(プライベート・エクイティ、プライベート・デット、インフラ、不動産、農園等)への注力
- ビッグデータ・オルタナティブデータ分析や機械学習等、テクノロジーの活用
- パフォーマンス連動型手数料の導入顧客ポートフォリオの構築・管理を総合的に
行うソリューションビジネスの強化(アウトソースCIO等) - 高度な運用・リスク管理システムの他社への販売
- 管理資産の拡大による資産管理関連収益の獲得