金融庁は2020年6月、資産運用業に関し海外の資産運用会社のヒアリングや国内資産運用会社等との対話等を通じて、現在の課題や今後の対応について「資産運用業高度化プログレスレポート2020」として取りまとめました。
概要
Ⅰ 現状
日本の豊富な家計金融資産が日本経済や世界経済の成長に効果的に活用され、国民がその成長の恩恵を得ることを通じて安定的な資産形成を図っていくため、資産運用業界に対する期待はますます高まっている。
1. 国際的な資産運用業界の状況をみると、グローバルにはETFやパッシブ運用の急伸により、手数料競争・寡占化等が進み、日本の資産運用会社も厳しい競争にさらされつつある。
2. 国内のアクティブ公募投信の平均的なパフォーマンスをみると、信託報酬等のコストに見合うだけの水準を確保できていないと考えられる。こうしたパフォーマンスの結果、顧客の支持が十分に得られておらず、公募投信市場の純資産残高も伸び悩んでいる。
Ⅱ 主な課題
日本の資産運用会社が、中長期的に良好かつ持続可能な運用成果を上げ、顧客の信頼・支持を獲得し、収益基盤を確立していくためには、以下のような課題について具体的な取組みを進めていくことが期待される。
1.ガバナンス:経営・ファンド運営に対する顧客利益の観点からの牽制機能の発揮が不十分なのではないか、運用ビジネスに対する親会社・グループ会社の理解・協力が不十分なのではないか
社外取締役を含むファンド運営に係る会議体の設置は進んでいるが権限は弱く、個別ファンドを管理・検証する仕組みの構築には至っていない。運用ビジネスの理解が十分ではない親会社が資産運用業高度化の足かせになっている可能性
2.経営体制:顧客利益を最優先し、長期運用の視点を重視する経営体制が整備できていないのではないか
グループ外から資産運用業務の経験豊富な人材を運用子会社の経営トップに招聘する社がある一方で、従来のグループ内の順送り人事により、運用ビジネスの経験等が乏しい人材が経営陣に選任されている社も存在
3.目指す姿・強み:運用会社としての目指す姿や強みが明確化されておらず、その実現に向けた取組みが進んでいないのではないか
自社の強みを確立していこうとする動きが一部に見られるが、総合的なソリューションを提供していく旨の姿を示すに止まり、何を強みとして顧客の期待に応えていくのか必ずしも明確化されていない傾向
4.業務運営体制:顧客利益最優先・運用重視の視点を持ち、目指す姿や強みを実現するための業務運営が実現できていないのではないか
運用会社独自の人事・報酬制度導入の動きが見られるも、顧客本位の商品組成やパフォーマンス確保の更なる取組みが期待される
こうした取組みを進めることにより、顧客利益の観点から、
①運用力を強化し、
②商品組成・提供にあたって、商品数をむやみに増やすことなく、中長期的に良好で持続可能な運用成果を上げられる商品に注力すること、
③不採算ファンドや中長期にパフォーマンスが悪化しているような少額投信について積極的に償還・併合を進めるなどのファンド管理を徹底すること、
などが期待される。
Ⅲ 対応の方向性
国内資産運用会社、及び資産運用会社がグループに属する場合には
その親会社とも、各社が創意工夫を図りながら以下の取組みを一層
進めていけるよう、経営陣を含め対話を継続的に行っていく。
1. 顧客利益を最優先するガバナンスの確立と機能発揮
2. 資産運用ビジネスに知見のある経営陣による顧客利益最優先・長
期視点での運用を重視した経営を行うための経営体制
3. 目指す姿・強みの明確化と、その実現に向けた具体的な取組みの
推進
4. 役職員の評価・報酬制度や商品組成を含むプロダクトガバナンス、
ファンドの運営管理等に係る業務運営体制の構築・改善
以上の取組みを進めることにより、左記①~③を実現しつつ、顧客
本位の商品を提供し、中長期的に良好かつ持続可能な運用成果を上
げ、顧客の支持・信頼を獲得して、収益基盤を強固にしていくこと
が必要。
良好なパフォーマンスを実現している独立系等の特徴ある資産運用
会社との間で、パフォーマンスの要因や持続可能性についての対話
を進めていく。
機関投資家向けの私募投信や一任運用の状況についても調査・分
析・公表していくほか、公募投信のパフォーマンスの「見える化」
や新規参入の促進策等を推進していく。
以上が金融庁のまとめたレポート概要です。Ⅱ主な課題と、Ⅲ対応の方向性は抽象的ですが、現状のままでは、顧客、証券業界、金融業界にとって問題が発生しますということです。
① 顧客にとっての問題点
以前と違って、現在は低コストの、インデックスファンド、ETFが国内、外国ともに充実してきていますし、それを扱う証券会社が増えてきています。従って、それらを間違いなく購入すれば、顧客にとっては問題がほとんどないのですが、現実には、アクティブファンド、ラップファンド複雑な保険などが販売され、顧客に十分な利益が届かないことが多くなっています。
② 証券会社にとっての問題点
顧客が賢くなり、アクティブファンドが売れない時代になって来ました。インデックスファンドから逃げずに、取り組んでいくしか未来を拓く道が無いようですが、彼らにはその道筋が見えていません。
③ 銀行など金融機関にとっての問題点
ラップファンド、毎月分配型投資信託、複雑な保険などを販売するために優秀な行員な、エネルギーを消耗するのでなく、外国の金融業界、社会のためになる業務に邁進できる経営方針になっていません。
これらの問題意識を持ちながら、金融庁のレポートを引き続き読んでいきましょう。