最低限身に付けるべき金融リテラシー2

<昨日の続き>

2013年4月に金融庁金融研究センターは、金融経済教育研究会の研究会報告書として、「最低限身に付けるべき金融リテラシー」をまとめました。それについて、昨日に引き続き考えたいと思います。

生活スキルとして最低限身に付けるべき金融リテラシーを整理すると、以下のとおり4 分野・15 項目となります。

  • (a)家計管理
  • (b)生活設計
  • (c)金融知識及び金融経済事情の理解と適切な金融商品の利用選択
  • (d)外部の知見の適切な活用

その内容を確認しましょう。

(a)家計管理

項目1:

赤字解消・黒字確保という、当たり前の収支管理を身に付けることです。その上で、自分の結婚、教育、住宅購入、老後の生活など、自分の人生目標をを実現していく上で必要なお金を手当てすることが必要です。その第一歩が、適切な収支管理の習慣化です。

現状の収入や支出をきちんと把握し、計画性のない支出は抑え、収支の改善に努めることといった、適切な収支管理の習慣を身に付けることが全ての前提となります。

お役所の報告書ですから、かなり堅い表現が使われています。この文章を読むと、家計簿をちゃんとつけて、毎月の予算と実行を数字の上ですべて把握しなければいけないような気になりますが、それほどしっかりした人は、ほとんどいないと思います。もし、きちんとやるとしたら息が詰まってしまします。

なお、ここで、わき道にそれますが、このような報告書を書いているのは誰でしょうか。

金融経済教育研究会の委員は次の通りです。

  • 鮎瀬 典夫 金融広報中央委員会事務局長
  • 石毛 宏 帝京大学経済学部教授
  • 伊藤 宏一 千葉商科大学大学院教授、日本FP協会専務理事・CFP
  • 翁 百合 ㈱日本総合研究所理事
  • 鹿毛 雄二 ブラックストーン・グループ・ジャパン㈱特別顧問
  • 神戸 孝 FP アソシエイツ&コンサルティング株式会社代表・CFP
  • 永沢 裕美子 Foster Forum 良質な金融商品を育てる会 事務局長
  • 吉野 直行 慶応義塾大学経済学部教授(金融研究センター長)

報告書作成は役人

幅広い分野から委員を選んであります。しかし、このような研究会報告書の常として、実際に報告書を作成するのは役人又は、外郭団体の職員です。そして、その方針は役所が実行に移したい報告書を作成するための隠れ蓑として、このような研究会を設置するのです。具体的には、原案を役人が作成し、それを委員長や委員長代理とすり合わせをして、一部文言の修正を行います。しかし、基本方向は役所の考えた通りにします。もし、委員がどうしても妥協しない場合などは、両論併記や少数意見として載せる場合も有りますが、そのような頑固な委員は、他の委員会では選任されなくなります。

(b)生活設計

項目2:

ライフプランの明確化及びライフプランを踏まえた資金の確保の
必要性の理解

終身雇用は崩れた

昭和から平成の時代の途中までは終身雇用制が残っていました。ただし、この制度は、大企業では多くの場合当てはまっていましたが、そうでない人の方が多いかも知れません。例えば、キリンビールは部長にまで出世すると、55歳で退職を迫られ、その先は自分で就職先を探していました。

東大工学部を出てもリストラ

東大の工学部を出て、NECに研究者として入社しても、IT分野で日本が負けると、多くの人がリストラに遭いました。その結果、東大の電子学科の進学希望者が一人もいない事態になりました。東大の理科Ⅰ類とⅡ類の偏差値は、昭和の時代はⅠ類が4点上回っていましたが、今は同じです。工学部の人気が無くなり、薬学、生物系の人気が高まったからです。

東大法学部も凋落

文科系でも、法学の文Ⅰと文Ⅱの差が4からゼロになりました。東大法学部を出て中央官庁の役人になることの魅力が無くなって来ました。部下を自殺に追いやってまで、国税庁長官になりたがるような仕事には付きたくないのでしょう。

単なる多様化ではなく不確実・不透明な将来

この報告書では、「終身雇用制の下、就職、結婚、出産、住宅取得、退職といったライフスタイルが、標準的な価値観として受け入れられていた以前とは異なり、今日、その価値観が多様化してきている」としていますが、単なる「価値の多様化」で片づけることは難しいでしょう。

それでも自分の人生設計は自分でする

しかし、自らのライフプランをある程度作り、そのイメージに向けて努力するとともに、予想してもいないことに耐えられる、能力・実績・人脈を作っていくしかなさそうです。

人生で想定されるイベント

また、それぞれのライフプランを踏まえ、不測の事態に備え保険への加入や貯蓄を行うことが必要です。また、教育、住宅取得、老後の生活に必要な資金の確保のためにどの程度の金額が必要かを考え、計画的に、教育資金や住宅資金の借入、貯蓄・資産運用を行う姿勢を身に付けることが必要でしょう。

資金の手当て

「いつ」、「何のために」、「どれぐらい」の資金が必要かを把握し、そのために今ある自らの資産を「いつでも使えるようにしておく資金」、「教育や住宅取得等の目的に備えて貯めておく資金」、「長期運用資金」の3つに分けた上で、それぞれの資金の性格に合わせた商品選択を行うことが、適切な金融商品の利用選択の前提であることを理解する必要がある。

子供は22歳では仕上がらない

しかし、実際の人生はこんなに予定通りにいくものではありません。モデル的なライフプランの表では、子供が22歳で大学を卒業するものが多いのですが、実際には、1年浪人、1年留年、大学院進学、アメリカ留学等、親の懐など構わずに事態が進行するものです。子供の教育費が22歳大学卒業で終了してくれたら、それはとても親孝行な子供です。23歳以降に一人500万円、余分にかかる恐れがあると覚悟しておいた方が安心かも知れません。