長引く円安、構造、デジタル赤字

ポートフォリオのドル割合は、私が8割、連れ合いが7割、娘と息子は10割です。1ドル130円になることはあっても110円になることは当面考えられないと思います。

内外からの日本円に対する信認が揺らいでいることと、金利を上げられないほど日本銀行が国債を抱え込んでしまっていることがその理由です。

私と連れ合いは、1ドル110円の頃に外国株式に投資しましたが、子供たちはまだ数年です。

もし円高になったらどうするのか?という問題がありますが、アメリカ株式を中心に投資しているので、1年8%のリターンがあれば、為替差損を十分にカバーしてくれると思います。

今後のドル・円相場について読んで見ます。


歴史的利上げでも円を救えぬ4つの理由、金利や変動率の低空飛行響く

  • 1カ月10円の「神田ライン」意識し介入に不透明感、円安進行も低速
  • 金利が低いところから高いところへ流れるのは自然-三井住友信託銀

日本銀行が17年ぶりの利上げに踏み切ったにもかかわらず、輸入インフレのリスクを軽減したい政府・日銀関係者が期待したほど円相場は反発していない。むしろストラテジストの多くは円安基調が当面続くとみており、理由として4つのポイントを挙げている。

1つめは、日本の金利が海外各国と比べてはるかに低い水準にとどまっている点だ。2つめに通貨当局の円買い介入を誘発するほど円安進行のスピードが速くないとの見方があり、3つめとして、低ボラティリティー(変動率)な相場環境を利用して低金利の円を売り高金利通貨のドルを買うキャリートレードの存在がある。4つめは円安が輸出増加につながっていない可能性だ。

  鈴木俊一財務相ら通貨政策当局者は、現在の円相場はファンダメンタルズに沿って動いておらず、下落を食い止めるために適切な措置を講じると繰り返し述べているが、円は対ドルで3月27日に付けた151円97銭と30年来の安値付近で推移している。

  三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作チーフ為替ストラテジストは「日銀が利上げしたからといって、実質金利がマイナスの状況は変わらないし、将来的にプラスの実質金利も見通せない状況で円の魅力は乏しい」と言う。加えて、直接投資や貿易収支の赤字といった金利差の関係ない円需給は「常に円売り状態」にあり、円が弱い状況は続きやすいとみている。

  インフレを加味した日本の10年国債利回りはマイナス0.65%程度と米国のプラス約2%、ドイツのプラス0.27%と比べ圧倒的に低い。これはキャリートレードを行う投資家にとって大きなインセンティブで、食品や光熱費などの値上げを通じて家計を圧迫する要因となる過度な円安進行に対処せざるを得ない日本政府にとっては頭痛の種だ。

  米国や欧州など主要国が近く利下げに転じると予想される中、日本だけは年内の追加利上げの可能性が見込まれている。しかし、実施のタイミングは不透明で、国内外の利回り格差の大幅な縮小には時間がかかりそうだ。

日銀の次回利上げは10月までが6割、7月と10月の予想拮抗-サーベイ

  三井住友信託銀行の瀬良礼子マーケット・ストラテジストは、これだけ金利差が開いていれば、余剰資金をゼロ金利に置いておく理由はあまりないと指摘。「水が高いところから低いところへ流れるように、金利が低いところから高いところへ資金が流れるのは自然の成り行きだ」と言う。

介入巡る不透明感

  為替トレーダーは、日本の財務省が行き過ぎた円安へのけん制を強めたことで、円買い介入が行われる可能性を警戒している。ただ、実際に口先介入から実弾介入に切り替わるハードルはかなり高そうだ。神田真人財務官の定量的な発言に注目するトレーダーらは、介入の可能性を推し量る重要な指標として1カ月間で対ドル10円の変動幅に注目している。

  対ドルの最高値から最安値までの変動幅を28日単位で計測した指標、いわゆる「神田ライン」によると、ここ数週間の円はまだそれほど大きく動いていない。円が最後に同指標に到達したのは、財務省が2度の円買い介入を実施した2022年10月だった。現在はその半分以下のペースの値動きになっている。

狙うは5円程度の円押し上げか、ストラテジストが読む介入の効果

  日本は、為替レートの決定を市場に委ねるよう政府に求める国際的な協定を結んでいるが、行き過ぎた動きに対しては介入する余地がある。

予想変動率の低下

Yen Shorts Mount as Currency Volatility Drops

  為替市場のボラティリティは低下し、投資家にとってキャリートレードの魅力が高まっている。米商品先物取引委員会(CFTC)のデータによると、レバレッジファンドとアセットマネジャーによる円の売り越し規模は先月、22年4月以降で最大に膨らんだ。JPモルガン・チェースが発表した世界の為替変動に関する指標は、直近のピークだった22年9月から半減している。

輸出の低迷

  経済学の教科書によれば、通貨安が進むと自国製品が海外で買われやすくなるため、輸出が増え、外需の増加がやがて通貨高につながるとされている。しかし、今の日本ではそうした流れは起きていない。

  日本の主要貿易相手国に対する通貨の強さを示す円の名目実効為替レートは、20年末から25%近く下落した。一方、日銀によるインフレ調整後の輸出を示す指標は同期間に3.3%低下している。

Slide in Yen Sees No Material Boost to Japan’s Exports

  これは、日本企業の間で輸出よりも海外での生産が増えていることの証左でもある。より高い投資リターンを求め、海外へ資金が流出していることも円にとっては逆風だ。

  スタンダードチャータードのG10為替調査グローバル責任者スティーブン・イングランダー氏は先週のリポートで、貿易収支の改善は通貨の調整プロセスの一部であるべきだと指摘。ただ、改善が見られない場合、「円相場が反発する可能性は弱まる」との見方を示した。


24年度の円高は「浅薄短命」、様変わりしたドル/円の構造=植野大作氏

ロイター 2024年4月20日

2024年度のドル/円相場は波乱含みの開幕となった。4月15日の午前中には一時、153円74銭と1990年6月以来、約34年ぶりの高値を記録する場面があった。2023年4月の安値130円64銭を起点に計算すると、1年間で17.6%もの上昇だ。その後はさすがに一息入って自律反落に転じたが、心理的節目の150円を超えるレベルを維持している。

<しばらくは円安地合い継続>

今後もしばらくの間、ドル/円は上振れリスクが強そうだ。まず、テクニカル面では、過去1年間で進んだドル高・円安の貯金が効いて、筆者が最も重視する長期トレンドである「52週移動平均線」が明確な上向き基調を維持して下値サポートの底上げに回っている。

このところの上昇局面で、非常に強い上値抵抗になると思われていた2022年10月高値の151円95銭をスッキリ抜けたため、長期チャートをさかのぼってたどり着く「次の上値めど」は1990年4月高値の160円20銭まで見当たらなくなっている。

今後、何かの拍子にティックが跳ねてストップロスの嵐が吹いたら、「5の倍数」で心理的な節目になる155円00銭を試しに行くかもしれない。

ただ、そのあたりまで円安が進んだ場合は、日本の財務省が日銀に指示して為替介入を発動するだろう。新型コロナが「普通の風邪」になった現在は、円安効果で訪日外国人の消費が復活、上場企業の利益膨張を背景に日経平均も過去最高値圏に上昇するなど、円安の良い面も現れている。

このため、新型コロナ対応で政府が訪日外国人の入国に厳しい制限を課し、日経平均株価(.N225), opens new tabも2万円台半ばで低迷していた2022年の秋に財務省が145円─151円台でドル売り・円買い介入を行った当時に比べ、介入発動のレッド・ラインは上がっていそうだ。

とは言え、155円付近までドル高・円安が進んでも財務省が実弾のドル売り・円買い介入を実施しないで上値試しを黙認すると、以下のような副作用も大きくなるだろう。

)短期間に160円台を目指すような勢いがついて輸入インフレが加速、2)中堅・中小企業の仕入れコストが許容限度を超えて上がる、3)厳しい物価高で年金生活者の生計が圧迫される──などの現象だ。介入実施の要否を決断するのは鈴木俊一財務相だが、恐らく155円超の水準はレッド・ゾーンになるのではないか。

もちろん、ドル/円相場の中長期のベクトルは、日米両国のファンダメンタルズを反映して動く民間の需給で決まるので、日本政府がどんなに為替介入で頑張っても、国際決済銀行(BIS)が今から2年前の2022年4月に行った調査で1日平均1兆ドル強の出来高があったドル/円市場の底に流れる「骨太のトレンド」をねじ曲げたりはできない。

ただ、財務省が数兆円規模のドル売り・円買い介入を短期間に何回も発動して円安進行にブレーキをかければ、米連邦準備理事会(FRB)の利下げによってドル安圧力が発生するまでの時間稼ぎはできるだろう。

<米利下げ開始で円高トレンドに>

3月に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)では5会合連続で政策金利が据え置かれたが、その後の会見でパウエル議長は「年内のある時点」で利下げが適切になるとの見解を示していた。

現在、米国の政策金利は5.25─5.50%と非常に高く、世界で最も流動性がある通貨に先進国トップレベルの金利が付いている。この状況が維持されている間は、ドルの人気は衰えそうにないため、下値が堅くて上値が軽い地合いが続きそうだが、FRBが利下げを始める時期が来れば、その後の速度や下げ幅に比例してドル安圧力が発生するだろう。

前回3月のFOMCで更新された最新の政策金利見通しでは、24年末までに0.25%刻みで3回の利下げが見込まれていた。ドル/円相場に自然体で備わる変動率を勘案すると、潮目が変わると1年間で10%程度の上下動は普通に起きる。FRBの利下げ開始後、150円台から約1割下がるなら、15円以上の下げ幅になる。恐らく140円台はスルーして、130円台で買える機会は来るのではないか。

<日米金利差と円安>

もっとも、仮にそのような筆者の見立てが正しかったとしても、今後のドル/円の下げ幅には自ずと限度がありそうだ。米国で利下げが始まればドル安圧力が発生するとみるのは自然だが、パウエル議長は無条件で利下げ開始を約束しているわけではない。インフレ率が目標2%に向かって下がるとの確信を得るまで、利下げを急ぐ気はないと明言している。

現在3%前後で推移している米国の基調インフレが2%前後に下がるなら、現在5%台の政策金利が4%台に下がっても、物価上昇率を控除した実質金利は今と変わらぬ2%台を維持することになる。

FRBが今年のどこかで始める政策金利の下げ幅がインフレの鈍化分に限られる場合、名目でみたドル建て短期金融資産の金利の魅力は下がるものの、実質的にはほぼ変わらないので、極端なドル安圧力は発生しないだろう。

そのような状況認識を踏まえた上で、日本サイドの金融政策に目を転じると、3月の会合で日銀が8年2カ月ぶりにマイナス金利を解除したにもかかわらず、その後は逆に約34年ぶりの水準までドル高・円安が進むという意外な現象が目撃されている。

「市場の期待の連続性」を重視する植田和男・日銀総裁が、事前の発言機会を利用して大規模緩和の修正時期接近を何回も示唆し、市場に織り込ませていたことも一因だろう。

ただ、マイナス0.1%の政策金利を0.0─0.1%に引き上げた程度では、日本の政策金利は政府と日銀が目標としている2%を大幅に下回る実質マイナス圏に水没している状況に変化はない。

日銀の利上げで持続性のある円高圧力を発生させようとするなら、利回り曲線の起点になる短期金利を物価上昇率より高い2%以上の水準まで引き上げる必要がありそうだ。

だが、日本の金利がそんな水準まで上がると国内総生産(GDP)の2.5倍超の借金を抱えている日本政府、変動金利で住宅ローン組んでいる個人、運転資金を銀行融資に頼っている中小企業の資金繰りが火の車になり、円安とは別の問題が発生しそうだ。

植田日銀総裁は今後の政策運営について、当面は緩和的な金融環境を維持しながら慎重に追加利上げの要否や時期を探る方針を示しており、筆者が所属するチームの日銀ウォッチャーは、現行0.0─0.1%の政策金利を2025年1-3月期に0.25%、26年1‐3月期に0.5%へ引き上げると予想している。

今後、日銀がその程度の利上げしかできないなら、日本の政策金利は名目水準が世界最低であるだけでなく、実質でも先進国で唯一のマイナス状態が続くことになる。持続的な円高圧力を発生させる金利水準だとは思えない。

もちろん、今後の日銀にとって外生変数となる海外の経済・金融情勢に思わぬ変化が生じて想定以上の円安が進んだ場合は、輸入インフレの高進を防ぐため日銀が早期の追加利上げに追い込まれる可能性はある。

だが、その場合は円安が進むのをみてから後手に回って対処する受動的な利上げになるので能動的な円高圧力は発生しないだろう。日銀が出来るだけ早期に政策金利を実質プラス圏に引き上げる覚悟を示さない限り、米国の利下げが始まるまでの間、ドル高・円安圧力の後退は期待し難い。

貿易・サービス収支の赤字

そのような状況の下で、為替需給関連のデータに目を転じると、日米金利差とは無関係に片道切符でドル買い・円売り注文を出すプレイヤーの存在感が、近年増している。このところ、日本の貿易赤字は既往の原油価格下落の影響で縮小しているが、決済通貨別に分けてみると、ドル決済の赤字が年間22兆円程度なのに対して円決済の黒字は同10兆円前後で推移しており、モノの輸出入決済の現場では月間1兆円程度のドル不足が生じている。

サービス収支の内訳をみても、コロナ騒動収束後の訪日外国人消費の復活を受けて旅行収支の黒字は拡大中だが、それを相殺する「デジタル赤字」の拡大や恒常的な輸送収支の赤字により、全体の収支尻は赤字基調が定着している。

このうち、日本の旅行収支黒字の大半はアジア向けであり、対米収支はインバウンドとアウトバウンドが拮抗する状態なので、ドル/円の価格形成に及ぼす影響は概ね無視できそうだ。

他方、日本の企業や個人のデジタル・インフラ利用料の支払先は米国企業であるケースが多いほか、輸送収支の赤字も海上運輸の用船料を中心にドル決済が主流であるため、モノの貿易収支だけでなく、サービス収支の決済でも見かけ以上のドル買い超過になっている可能性が高い。

日本の金融収支に目を移しても、近年進んだ円安の結果、国内外の物価や人件費の格差が大きく開いて「安いニッポン」が話題なっているにもかかわらず、人口減を背景にした国内市場の収縮懸念や構造的な人手不足がネックになり、本邦企業の対外直接投資が、海外企業による対内投資を上回る流出超過が定着している。

<直接投資と新NISAの影響>

コロナ騒動が収束して世界経済の不透明感が晴れたことを受けて、過去1年間の日本の直接投資収支による資金流出超額は過去最高記録を更新しており、ステルス性の高い円売り・外貨買いの発生源になると同時に、本邦企業の海外利益の国内回帰を抑制し、構造的な円安圧力を生んでいるとみられる。

国境をまたいで取引されている証券投資に視線を移しても、自己責任による老後資金の積み立て文化が根付き始めた近年の日本では、若い働き手世代の間で実質金利がマイナス圏に水没している円金利100%の金融商品の人気は低く、相対的に成長期待の高い外国の株式を中軸に据えた国際分散型の商品が売れ筋となっている。

財務省が毎月公表している統計で確認すると、少額投資非課税制度(NISA)の枠が広がった今年1-3月期には投資信託を通じた海外への純資金流出金額が過去4年間の平均3800億円の3倍増、月間1兆1400億円ペースに加速したことが分かっている。日本の個人が安定的な「為替ヘッジ無し」の外貨購入の担い手としての存在感を強めており、無視できない需給インパクトを為替レートに及ぼす時代が到来している。

上記諸々のデータが示唆する日本の国際収支の構造変化をみるにつけ、いわゆる「成熟した債権国」への移行が進む近年の日本では、金利差の影響を受けない為替オープンのフローが形成する「根っこの需給」は、ほぼ恒常的な円売り超過に傾いている可能性が高い。

為替相場の短期の振れや中期の循環は内外金利差の変化に応じて機動的に売買の態度を変える投機筋や投資家の動きに左右されるものの、国内外の金利差の変化と関係なく一方向に流れる円売り・外貨買いのフローは、日米金利差の縮小局面でドル/円相場の下値を支える一方、金利差の拡大局面ではドル/円の上値探査を助長している可能性が高い。

<24年度の円高、130円台までか>

そのような筆者の推測が的を射ていた場合、今後のドル/円相場は米国の利下げ開始を嚆矢(こうし)に日米金利差が縮小している間に限れば、名目金利差の変化に過敏に反応する投機筋による円売りポジションの整理などを動力源にしたドル安・円高方向への推進力を得ると予想する。

だが、円売りポジションの巻き戻しが一巡すると、それまで進んでいた円高がピタリと止まる臨界点を迎え、日米金利差の縮小が止まって横ばいになるだけで緩やかなドル高・円安方向に押し戻されるような需給バランスの偏りが生じている可能性が高い。

この先、米国経済がパウエルFRB議長の目論見通りに減速すれども失速せず、軟着陸に成功するならば、FRBによる利下げが始まっても実質金利はプラスの状態を維持しそうだ。

他方、日本は実質政策金利がマイナスで基礎的な為替需給がほぼ恒常的な自国通貨売りに傾いている。この円を相手に進むドル安の値幅や期間は、平成の頃に比べて浅薄短命になりそうだ。「令和の日本で進む円高はあっても130円台まで」という大局観を維持しつつ、今後の事業計画、資産運用計画の策定に取り組みたい。


OECⅮで最大のデジタル赤字国・日本、欧米の背中遠く=唐鎌大輔氏

2024年4月20日

この1年間でデジタル赤字について取りざたするメディアやアナリストがにわかに増えた。問題提起した1人として、世論が大きくなっていくことはうれしく思う。

しかし、その国際比較については統計上の扱いが煩雑なこともあり、まだ議論が進んでいない現状がある。今回はこの点を深掘りしてみたいと思う。

<旅行収支の黒字飲み込むデジタル赤字>

今年3月26日、日本の財務省に設置された国際収支有識者会合では、国際収支構造の大きな変容の代表例としてデジタル赤字の拡大が言及されている。この点、昨年来、筆者はデジタル赤字にとどまらず、研究開発サービスや経営コンサルティングサービス、そして保険・年金サービスの赤字などが拡大していることも念頭に「新時代の赤字」として理解すべきと主張してきた。筆者が初回会合で提出した資料にも、そう明記させていただいたので参照していただきたい。
とはいえ、「新時代の赤字」においてデジタル赤字がとりわけ大きく、潜在的な拡大余地を秘めているのは事実だ。2023年時点のデジタル関連収支赤字は約5.5兆円と過去最大を更新し、同じく過去最大の黒字を更新した旅行収支黒字の約3.6兆円を優に食いつぶしている。観光産業という「肉体労働で稼いだ外貨」は、今や「頭脳労働で生み出されたデジタルサービス」への支払いに消えている。

<負けているのは日本だけなのか>

しかし、日本のデジタル赤字を懸念する議論に対しては「デジタルサービスは米国の独り勝ちなのだから、日本に限った問題ではないのではないか」といった声も存在する。

欧州もデジタル赤字なのではないか。日本だけ負けているわけではないのではないか。筆者も実際に分析するまではそう思っていた。

だが、話はそう単純ではない。経済協力開発機構(OECⅮ)統計から日米欧を主軸に主要国の比較を試みると「米国の独り勝ち」は事実だが、日本の赤字幅は世界的に見ても大きいという現実がある。

以下の議論では、EUについてドイツ、フランスの2大国以外に、通信・コンピューター・情報サービスの黒字が特に大きいオランダやフィンランドも加えてみた。なお、日本の通信・コンピューター・情報サービス収支を地域別に見た場合、対オランダの赤字が相応に大きな存在であることは財務省統計から確認可能である。

デジタル関連収支の分類は昨年8月に発表された日銀レビュー「国際収支統計からみたサービス取引のグローバル化」の考え方に準拠しており、通信・コンピューター・情報サービス、専門・経営コンサルティングサービス、知的財産権等使用料(除く研究開発ライセンス等使用料・産業財産権等使用料)の三つを合計している。

しかし、国によって(特に欧州では)知的財産権等使用料の詳細な内訳が開示されていないことも多く、そのため完全な比較が難しい技術的な制約もあるが、日本のデジタル赤字の現在地を知る上では参考になる。

<デジタル関連収支、米・英・EUが3強>

具体的に数字を見ると、デジタル関連収支は米国が1114億ドル、英国が692億ドルの黒字となっており、やはり米国の黒字幅が頭抜けて大きい。

しかし、欧州共同体(EU、除くアイルランド)も332億ドルとまとまった幅で黒字を記録しており、米国・英国・EUの3強の様相である。

英国には世界的なコンサルティング企業の本社機能が集中しているため、専門・経営コンサルティングサービスの黒字が膨らみやすいという事情が推測される。つまり、デジタル関連収支の定義には入るものの実態は、コンサルティングという非デジタル要素が大きいと推測される。同様の事情は米国にもある。紙幅の関係上、詳述はできないが米国や英国はコンサルティングサービスの黒字が相当大きくい。

なお、EUからアイルランドを除くのは、EU域内に限らず、世界的にもアイルランドが他の追随を許さないキープレーヤーであり、一つの加盟国として含めるにはあまりにも影響が大き過ぎるという事情があり、この点は後述する。

そのほか、EU加盟国について言えば、フィンランドが95億ドルの黒字である一方、ドイツ、フランスがそれぞれ102億ドル、24億ドルと赤字で、オランダも48億ドルの赤字だ。つまり、これらの加盟国以外で細かく黒字が積み上げられた結果、域内全体としてはデジタル関連収支が維持されている。EUのデジタル関連収支は決して弱いわけではない。

<デジタル貿易の王者・アイルランド>

なお、アイルランドは影響が大きいゆえ除外したと述べたが、実際、どれほどの存在なのか。同国の通信・コンピューター・情報サービスは1940億ドルの黒字で、これは米国の12倍、英国の8倍に相当する。仮にアイルランドを含めた場合、EUのデジタル関連収支は812億ドルの黒字となり、英国の692億ドルを超える。EUのデジタル関連収支自体、アイルランドにほぼ規定されてしまう。

アイルランドは法人税率の低さや、欧州では珍しく公用語が英語であること、教育水準が高いことなどから世界的な大企業がグローバル本社を構えたり、欧州本部を構えたりすることで元々知られているが、その特徴がサービス収支に凝縮されている。

とりわけ通信・コンピューター・情報サービスが大きい背景には、世界最大のコンサルティング企業がグローバル本社を構えていることや、GAFAMの一角が欧州本部を構えていることなどが指摘できる。ちなみに英国のEU離脱以降、アイルランドに拠点を移す企業が増えたこともアイルランドの存在感を強化しているという話もある。

アイルランドは、少なくとも統計上は、デジタル貿易の王者とも言えるようなステータスにある。このような事情から、国際比較の際、アイルランドを入れることで全体の議論が見えにくくなってしまうという事情があるため、筆者はいったん除外して分析を進めることにしている。だが、正真正銘のEU加盟国でもあるため、やはり「EUのデジタル関連収支は決して弱いわけではない」という結論になる。

<貿易とデジタルの二つの赤字抱える日本>

片や、日本のデジタル関連収支は364億ドルの赤字だ。これはOECⅮで最も大きな赤字である。デジタル関連収支の赤字は日本だけの話ではないが、日本の赤字幅は特に大きなものであるという事実は指摘可能だ。

もちろん、ドイツも相応に大きなデジタル赤字を抱えてはいるが、周知の通り、同国は世界最大の貿易黒字国でもある。したがってデジタル赤字を筆頭とするサービス収支が外貨需給をゆがめ、ユーロ相場を押し下げるという話にはなりづらい。

日本も大きな貿易黒字を稼いでいれば、デジタル赤字は話題にならなかったのではないかと感じる。2022年以降、日本でデジタル赤字を筆頭とする「新時代の赤字」やキャッシュフロー(CF)ベース経常収支といった筆者の議論(過去の本コラムを参照頂きたい)が耳目を引いたのは「長引く円安」という時代背景に合致していたからだろう。

円安という現象を読み解く一つの解として需給構造、ひいては国際収支の議論に注目が集まっており、財務省が有識者会合を設けるまでに至っている現状がある。

デジタル赤字は今後、ますます強い経済的・政治的関心を引くだろう。なお、案外知られていない事実だが、日本のサービス収支はデジタル分野に限らず、収支全体で見てもOECⅮ最大の赤字であり、サービス取引が国際化される中で取り残されている状況は否めない。

必死に旅行収支の黒字で穴埋めをしても、それ以外のサービス取引から漏れる外貨が多過ぎるという問題は今後、労働供給の制約が厳しくなる日本からすると、厳しい現実と言わざるを得ない。