毎年6月になると、自治体から健康診断のお知らせが届きます。
毎年、胃カメラにするかバリウムにするかで悩みます。他の内臓の検査をどうすべきか検討していますが、結論は出ていません。
東洋経済ONLINE 2023/08/17の記事を読んで見ましょう。
人間ドック、医師が教える「ほぼ無意味な検査」2つ
多くの人は「通常の健康診断」で十分な場合も
自覚症状が出る前に芽を摘むことが早期発見につながる
多くの病気は早期発見することで治療がよりスムーズにできます。完治が難しい病気でも、早めに対処することでコントロールしやすくなり、病気と共存しながら健康寿命を全うすることができるのです。
早期発見に最も有効な手段が健康診断です。早期発見というと、痛みや違和感が出たらすぐに病院に駆け込むことだと考えている人もいるかもしれませんが、厳密にいえばそれは「初期症状」。すでに病気は進行している状態です。
例えばがんの場合、がん細胞の芽が出てからしばらく自覚症状はありません。痛みや皮膚の色の変化、目に見える出血などが出たらすでにがんは成長しているのです。もちろん、自覚症状が出た段階ですぐに治療をスタートすることで完治する確率は上がりますが、それより大切なのは自覚症状が出る前のがんの芽の段階で見つけて摘むこと。それが本当の早期発見です。
ですから、
「健康には自信があったのに、検査をしたら病気が見つかった」
というのはある意味では正解で、命拾いをしたということです。
目安としてですが、40歳を過ぎたら、年に1回のがん検診の受診を検討していきましょう。会社員であれば毎年、会社で健康診断を行っているでしょう。自営業、主婦の場合は自治体から無料診断のクーポンが送られてくることがあります。その場合はせっかくのチャンスですから、面倒くさがらずに申し込んでください。
人間ドックは健康診断に比べてより多くの検査ができますが、費用は自己負担で数万~十数万円かかるのが普通です。また、その場での治療はできず、精密検査が必要な場合は、改めて病院で検査を行うことになります。
正直なところ、人によりますが、費用対効果を考えると、多くの方にとっては、現時点では通常の健康診断とがん検診で十分ではないかと思います。
自治体が行っている一般診断は実質無料
現在、自治体が行っている一般診断では生活習慣病のリスクを測る血液検査、尿検査、検便(便潜血検査)、胃、胸部レントゲン、心電図など約30項目の検査が公費で賄われ、実質無料です。胃がん、大腸がんは死亡率を下げるエビデンスのある検診項目があります。
プラス料金は自治体によって異なりますが、無料~3千円程度。自費の人間ドックに比べれば格安ですから、受けないのはもったいないことです。歯科検診、眼科検診も自治体での無料クーポンがあります。
「支払っている健康保険料を取り戻す」という少しヨコシマな考えでもいいので、ぜひ受診しましょう。
もちろん、人間ドックに行くなというわけではありません。人間ドックで細かく検査した結果、がんの芽を摘むことができた、というケースもあります。ただ、高額な検査の中にはほぼ無意味な検査もあることを頭に入れておいてください。
代表的なものは腫瘍マーカー検査とPET検査です。腫瘍マーカー検査は血液検査を行い、数値が高ければがんの可能性を考えるというものです。PET検査は「陽電子放射断層撮影装置(Positron Emission Tomography)」という機械を使い、全身にがんが存在しないか確認する、という検査です。
ただ、腫瘍マーカー、PET検査はがんの早期発見に役立つというエビデンスはなく、現場ではがんがより疑わしい人に使われたり、治療の経過を確認するために使われる検査です。なので結局数値が少し高く出ても精密検査をするべきかは患者さんとの相談となってしまうことが多いですし、がん以外でも糖尿病や喫煙などの理由で数値が高く出てしまい、異常値として表記されていることもあります。
もちろん早期発見に役立つのであればよいのですが、確かなエビデンスはなく、がん以外の理由でも上昇する腫瘍マーカーや、本来の使用用途とは異なるPET検査については、最終的には個人の価値観によるものの、医療者としては大きくすすめられるような根拠はありません。
有効性が議論されているPSA検査
有効性が議論されている検査にPSA検査があります。前立腺がんを見つける血液検査で、たんぱく質の一種であるPSA値が高ければ前立腺がんが疑われます。PSA検査が実施されてから前立腺がんの発見数は格段に上がりました。にもかかわらず、厚生労働省の評価は「推奨しない」、日本泌尿器科学会は「絶対に行うべき」と意見が二分されています。
現時点ではPSA検査についてはさまざまなエビデンスが出ているのですが、なぜ発見数が増えているのに明確な有効性が示されていないのか。この背景については、前立腺がんは進行が非常に遅いがんであることが大きなポイントです。前立腺がんは早期発見した場合でも検査をしながら様子を見る「PSA監視療法」がとられることがある、珍しいがんです。
無症状のまま体の中に潜伏していることも多々あり、検査をしていない場合は、自分ががんだと知らない間に寿命を迎えることもよくあります。要は、前立腺がんは「がんの存在を知らなくてもよかった」ケースすら存在するわけです。
また、手術をした場合、男性機能が失われる場合もあります。「生涯現役」でいたい人にとっては、精神的なダメージを負うことになるでしょう。ただ、がんの進行には個人差があり、前立腺がんが腰椎に転移すると激しい痛みが生じます。そうなった場合は「早く調べておけばよかった」「早期発見して手術しておけばよかった」となるでしょう。どちらになるかは、誰にもわかりません。
こうしたことからアメリカの予防医学協会では「個人の判断に委ねる」としています。ただ、PSA検査自体が比較的新しい検査ですから、まだ各方面の意見が一致していないこともあります。今後、新たなエビデンスの出現により推奨の方針が変わる可能性は多いにあります。
頸動脈に超音波を当てる検査は正確性に欠ける
脳ドックは現在、実施されているのは日本だけです。アメリカでは脳ドックの一部の検査は「行わないほうがいい検査」とされています。
脳ドックでは頸動脈(首)に超音波(エコー)を当てて、血管が狭くなっていないかどうかを調べます。この検査の有効性については証明されていません。大きな問題としては、「偽陽性=問題がないのに『陽性』、つまり異常な所見があると判断される」ケースが、アメリカでは36.5%もあったというデータがあることです。
頸動脈が狭くなりすぎていると、血管が詰まって脳梗塞を起こしやすくなるのは事実です。そのため、場合によってはステント留置で血管の通りをよくしたり、血管の内側を切除して広げる手術を行います。
ですが、エコー検査をした結果「手術の必要あり」とされながら、実際にはまったく軽症だったということもありうるのです。もちろん、麻酔をかけてメスを入れるのですから、体にダメージが残る場合もあります。
家族に脳梗塞や脳卒中で倒れた人が多く遺伝的に心配だという人、動脈硬化が進んでいる人が脳ドックを受けることは否定しません。ただ、現時点で健康上の問題がない人が健康診断と同じ感覚で受けることは、少なくとも医師の立場からはすすめられない検査です。
このようなことを書くと「やはり検査は無意味、むしろ危険なのではないか」と言う人もいるかもしれません。
知識を持っていれば必要な検査がわかる
誤解してほしくないのは、費用対効果が悪く時間や面倒が増える検査があるというだけで、まったく無意味であるということではありません。
知識を持っていれば自分にとって必要な検査がわかりますし、不要なお金を払わなくてすみます。「医者は検査が無意味なことを知っているから健康診断を受けない」「がん検査をしない」という説は異端です。
あるとすれば多忙のあまり健康診断を受ける時間がなかったというケースでしょう。
蛇足ですが「医者の不養生」ということわざは本当です。とくに大学病院や総合病院の勤務医の生活は多忙を極めます。夜間や早朝の呼び出しも多く、落ち着いた睡眠もバランスのよい食事もなかなかとれません。
私自身は健康診断も受けますし、ワクチンも打ちます。私生活ではできるだけ7時間の睡眠をとり、野菜や果物もきちんと食べています。職業柄、人に会って話すことも多いです。要は、特別なことはせず、普通の生活で、それなりに楽しく、健康に過ごしています。