確定給付年金のポートフォリオについて見てみましょう。厚生労働省が発表した2018年の「確定給付企業年金の事業状況等」のデータです。
規約型と基金型のポートフォリオに分かれます。
規約型企業年金
債券64%
株式が内外合計で22.4%、債券が内外合計で36.7%です。一般勘定のリスク・リターンは債券並みと考えられますから、それも合わせると64%が債券相当です。かなりリスク・リターンが低い運用方法です。
一般勘定利率引き下げへの対応
低金利環境の長期化により、一部の生命保険会社から“一般勘定”の予定利率を、1.25%から0.25%へ引き下げるとの発表がありました。このため、昨年、確定給付企業年金(DB)導入企業では以下のような対応が予想されました。
① 資産配分を見直す: 株式など、リスクは高いが、より利回りが期待できる資産への配分割合を増やす。
② DBから確定拠出年金制度(DC)への移行:資産運用の責任等が企業負担とならない確定拠出年金制度(DC)へ移行する。
③ 一般勘定を代替する商品に切り替える:生命保険会社は、一般勘定の予定利率を引き下げた後の代替手段として、一般勘定と運用実績に応じて変動するタイプの「特別勘定」を組み合わせた商品を販売すると発表しているため、一般勘定での運用部分を代替商品に切り替える。
④ DB の掛金を引き上げる: 予定利率の引き下げによる利回り低下を補うために、掛金を引き上げる。
基金型企業年金
債券56%
株式が内外合計で24.7%、債券が内外合計で40.7%です。一般勘定も合わせると56.1%が債券相当です。基金型の方が一般勘定が少なめです。
国内債券 | 国内株式 | 外国債券 | 外国株式 | 一般勘定 | 短期資産 | その他資産 | 計 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
計 | 14.1 兆円 | 6.2 兆円 | 10.4 兆円 | 8.6 兆円 | 12.7 兆円 | 3.4 兆円 | 7.1 兆円 | 62.6 兆円 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
うち規約型 | 6.2 兆円 | 2.6 兆円 | 3.3 兆円 | 3.3 兆円 | 7.1 兆円 | 1.3 兆円 | 2.2 兆円 | 26.0 兆円 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
うち基金型 | 7.8 兆円 | 3.7 兆円 | 7.1 兆円 | 5.3 兆円 | 5.6 兆円 | 2.1 兆円 | 5.0 兆円 | 36.6 兆円 |
運用利回り1%では大幅赤字
運用利回りは以下の通りです。どちらも1%ですから、もし、2~3%の運用利回りを従業員に保証していれば、大幅な赤字になり、会社が補填するなどの対応をしなければなりません。このため、上記の選択肢のうち、② DBから確定拠出年金制度(DC)への移行が進むと思われます。私の子供達には、全額を7%程度のリターンを期待できる外国株式インデックスファンドで運用するようにアドバイスしています。
単純平均利回り | 資産加重平均利回り | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
計 | 0.97 % | 1.13 % | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
うち規約型 | 0.96 % | 0.88 % | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
うち基金型 | 1.00 % | 1.30 % |
一般勘定
一般勘定とは、運用実績にかかわらず一定の給付が保証されるタイプの保険商品の資産を管理・運用するための勘定のことをいいます。一般勘定では、あらかじめ定められた予定利率が保証され、運用のリスクは保険会社が負います。一般勘定に対して、運用実績に応じて給付が変動するタイプの保険商品の資産を管理・運用する勘定を特別勘定といいます。
確定給付企業年金
確定給付企業年金制度は、2001年6月に成立した確定給付企業年金法により創設され、2002年4月から実施された厚生労働省管轄の企業年金制度です。
確定給付企業年金とは
国民の高齢期における所得の確保に係る自主的な努力を支援し、もって公的年金の給付と相まって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的としています。
制度運営において決算事務、裁定行為等の点で厚生年金基金の運営を踏襲し、受給権保護についても、厚生年金基金同様に財政状況の検証や積立義務等を強く求めています。
基金型と規約型
確定給付企業年金制度には設立形態の異なる2つのタイプ(基金型企業年金、規約型企業年金)があります。
1.基金型企業年金
「基金型」は「企業年金基金」という法人を母体企業とは別に設立して、年金資産を管理・運用し、給付を行う企業年金です。規約型企業年金と比較すると、母体企業からの独立性が強く、基金自ら年金資産を運用(いわゆる自家運用)することも可能です。
2.規約型企業年金
「規約型企業年金」は、事業主と従業員が合意した年金規約に基づき、事業主が主体となり実施する企業年金制度です。企業は必ず、信託会社や生命保険会社等と資産管理運用契約を締結し、母体企業の外で年金資産を管理・運用し、年金給付を行います。
3.基金型企業年金と規約型企業年金の比較
【基金型と規約型の比較】
基金型企業年金 | 規約型企業年金 | |
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制度の仕組 | 母体企業とは別の法人格を持った基金を設立した上で、基金において年金資金を管理・運用し、年金給付を行う企業年金(自益信託) | 労使が合意した年金規約に基づき、母体企業の外で年金資金の管理・運用を行い、年金給付を行う企業年金(他益信託) |
制度の開始 | 企業年金基金の設立認可を厚生労働大臣から受ける(特別法人の設立) | 労使合意された規約を厚生労働大臣から承認を得る |
人数要件 | 加入者数300名以上 | 無し |
運営 | 母体企業から独立している基金事務局での運営であり、別途、運営費が必要 | 企業の人事部等での事務運営が可能 |
資産運用 | 一定の条件のもとに自家運用等が可能 福祉事業が可能 |
信託銀行などと資産管理運用契約を締結 母体企業の外で資産運用 |
規約変更 | 規約変更は代議員会の議決が必要 | 規約変更等は労使合意で可能 |