資産運用業高度化プログレス 5

Ⅰ 現状 2. 日本の公募投信の状況:

(5) 残高推移

日本の公募投信市場の純資産残高の推移をみると、日銀によるETFの買入分を除けば、この間、株式市場が比較的堅調であったにもかかわらず、横ばいが継続。

• 米国の投信市場の残高と比較すると、日銀によるETFの買入分を入れても20分の1以下の規模にとどまっている。

Ⅱ 主な課題 1. ガバナンス:

(1)経営・ファンド運営に対する顧客利益の観点からの牽制機能の発揮

  • 日本の資産運用会社が、厳しい競争にさらされつつある中、中長期的に良好かつ持続可能な運用成果を上げ、顧客の信頼・支持を獲得し、収益基盤を確立していくためには、顧客利益を最優先するガバナンスを確立し、長期視点での運用を重視した経営を行う体制を整備するとともに、目指す姿と自社の強みを明確化し、その実現に向けた具体的な取組みを推進することで、業務運営の改善(高度化)を図っていく必要がある。
  •  ガバナンスについては、日本の投資信託の大半が契約型であり、米国で主流のミューチュアルファンド(会社型)とは異なり、顧客のみに対してフィデューシャリー・デューティーを負って運用会社に対する牽制機能を果たす独立の主体が存在しない。そのため、まずもって、資産運用会社の取締役会が、顧客利益確保のため中心的な役割を果たす必要があると考えられる。また、資産運用会社が金融グループに属する場合には、当該資産運用会社の判断が親会社の利益に左右されるため、顧客利益を最優先するガバナンス体制の整備が一層強く要請される。
  •  国内大手資産運用会社では、社外取締役等をメンバーに含む、ファンド運営に係る会議体の設置を進めており、ガバナンスの向上に向けた取組みが進みつつあるが、これらは米国法のフィデューシャリー・デューティーのような法的義務を顧客に対して負っているわけではなく、権限も小さい。そのため、個別ファンドの収益性や費用水準等について、実効的な検証や管理を行うための牽制機能の発揮に課題がある。
米国 英国 日本
主なファンドの形態 会社型 契約型/会社型 契約型
ガバナンスを担う主 体 ファンドの取締役会
運用会社の取締役会
実質上、運用会社の取締役会 運用会社の取締役会
顧客(投資家)に対 する義務 ファンドの取締役、運用会社は、信認 義務(fiduciary duty)を負う 運用会社は、受益者の最善の利益 (best interest)を追求する義務を負 う 運用会社は、善管注意義務と忠実義務 を負う(金商法42条)
独立/社外取締役の 設置義務 • ファンドの取締役会:過半数(SEC 規則)の独立取締役
• 運用会社の取締役会:NYSE上場会 社の場合、過半数の独立取締役
運用会社の取締役会構成員の25%以上 かつ最低2名の独立取締役 会社法上、一定の機関構成の場合にの み社外取締役の設置義務 ※ コーポレート・ガバナンスコード上、 上場会社は2名以上の社外取締役の 起用を求められる
主な資産運用会社の 所有形態 創業家による持分保有、パートナー シップ制、株式上場、親会社による所 有(但し、運用会社の独立性が強い) 創業家による持分保有、パートナー シップ制、株式上場 親会社による所有

Ⅲ 対応の方向性 1.資産運用会社が中長期的に良好で持続可能な運用成果を実現していくための取組みの後押し

• 国内資産運用会社、及び資産運用会社がグループに属する場合にはその親会社とも、各社が創意工夫を図りながら以下の取組みを一層進めていけるよう、経営陣を含め対話を継続的に行っていく。

(1) 顧客利益を最優先するガバナンスの確立と機能発揮
(2) 資産運用ビジネスに知見のある経営陣による顧客利益最優先・長期視点での運用を重視した経営を行うための経営体制
(3) 目指す姿・強みの明確化と、その実現に向けた具体的な取組みの推進
(4) 役職員の評価・報酬制度や商品組成を含むプロダクトガバナンス、ファンドの運営管理等に係る業務運営体制の構築・改善

以上の取組みを一層進めることにより、

①運用力を強化し、

②商品組成・提供にあたって、商品数をむやみに増やすことなく、中長期的に良好で持続可能な運用成果を上げられる商品に注力する、

③不採算ファンドや中長期にパフォーマンスが悪化しているような少額投信について積極的に償還・併合を進めるなどのファンド管理を徹底すること、

などを実現しつつ、顧客本位の商品を提供し、中長期的に良好かつ持続可能な運用成果を上げ、顧客の支持・信頼を獲得して、収益基盤を強固にしていくことが必要。

• また、運用哲学や理念を徹底し、良好なパフォーマンスを実現している独立系等の特徴ある資産運用会社との間で、運用力強化に資する取組みや課題について対話を実施していく。

Ⅲ 対応の方向性 2. 資産運用業高度化に向けたその他の施策

• 本稿は、主に個人投資家向けの公募投信の現状という一部の側面から整理したものであるが、機関投資家向けの私募投信や投資一任運用も含めた資産運用業全体について、高度化を図っていく必要がある。

• また、資産運用業の高度化に向けては、資産運用業者間の適切な競争を促していくことも重要であり、公募投信のパフォーマンスの「見える化」や、新規参入の促進策について、取組みを推進していく必要がある。

• 金融庁では、新型コロナウイルス感染症の流行が今後の金融市場や資産運用ビジネスのあり方に及ぼす影響も踏まえながら、資産運用業に関する諸課題について、有効と考えられる施策を今後も推し進めていく。

運用パフォーマンスの見える化

① 地域銀行・企業年金基金等の機関投資家向けの私募投信や一任運用の状況についても、資産運用会社・信託銀行・保険会社から情報収集を行い、調査・分析・公表

② 公募投信のパフォーマンス調査について、海外投信の調査や各社の個別の投信を含めるなど拡充するとともに定例化し、調査結果を消費者を含む幅広い関係者に分かりやすく提供

新規参入の円滑化

① 海外資産運用業者等の集積を目指して登録手続を迅速化

② 20年1月に公表した投資運用業等登録手続ガイドブック・概要書について、東京都の窓口やFinCity.Tokyoとも連携し、国内外での配布・周知活動を実施するとともに、利用者からのフィードバックを基に改訂

その他の取組み

① PEファンド等のオルタナティブファンドに今後の経済情勢の中でどのような役割を期待すべきか、またその際に必要な政策対応について検討

② SDGs・ESGの日本の資産運用業界への影響について調査・分析

③ インデックス・プロバイダーの資産運用市場における機能について調査・分析

以上が、金融庁のまとめた「資産運用業高度化プログレス」の要旨でした。アメリカに比べ、相当遅れていることが分かります。そして、金融機関に勤めている優秀な社員は、かなりの割合が、顧客から手数料稼ぎをするために知恵と労力をを注いでいるのが現状です。その力を、もっと建設的な分野に当て嵌めたら、より良い日本になると思うのですが。