アメリカの大学基金の運用

長期運用の大学基金

アメリカでは、ハーバードやイェール、スタンフォードといった名門大学が数兆円規模の運用を行う基金を持ち、運用益を研究開発費や研究者の待遇改善などに充てています。アメリカの大学基金も長期運用をしているので、個人の資産運用の参考になるかも知れません。

ハーバード大学は2018年度の運用益が2000億円にも達し、大学の収入全体の35%を占めました。

大学 2019年基金(億円)
ハーバード 45,023
イェール 33,346
スタンフォード 30,470
ケンブリッジ 4,591
オックスフォード 8,235
東京 149
京都 197
大阪 52
慶応義塾 783

これらの基金をどのように運用しているのでしょうか。


エンダウメントの運用モデルは成功したのか

名古屋市立大学大学院 経済学研究科 臼杵 政治

エンダウメントの資産運用の特徴は、36年にわたりエール大学基金を率い、今年5月に逝去したデビット・スウェンセン氏の著書“Pioneering Portfolio Management”(邦訳「イエール大学流投資戦略」)に表れている。要約するなら、

(1)(超)長期的な投資家として株式を資産運用の中心に据える、

(2)マーケットタイミングを取らず機械的なリバランスを行う、

(3)株式からのリスク分散効果を期待して、不動産・未公開株(非上場株)・ヘッジファンド・インフラストラクチャーなどの代替資産に積極的に投資する、

(4)代替資産投資では、優れたマネージャー(ファンド)の選択に力を注ぎ、より高いリターンをあげる、

ことにある。エール大学基金の運用状況は下表の通りであり、1990年代から注力してきた代替資産への配分が70%を超えている。


The Harvard Crimson の2018年1月29日の記事も参考にしましょう。以下は拙訳です。

リポート調査によると大学基金は全国平均を下回る

ハーバード大学基金の内訳

  • 自然資源:10%
  • 国内債券:9%
  • 外国株式:7%
  • インフレ連動債券:2%
  • 外国債券:1%
  • 高利回り債券:0.5%
  • プライベート・エクイティ
  • 不動産:14.5%
  • 絶対リターン:14%
  • 新興市場株式:11.5%
  • 国内株式:10.5%

リリースされた全国リポートによれば、2017年度のハーバード基金のリターンは、全国の大学基金の平均を下回りました。

全米大学実務者協会が発表したリポートは、809の大学を調査し、12.2%の基金平均リターンだったと判明しましたが、それは2015年の2.4%、2016年のマイナス1.9%よりかなり高い数字でした。

NACUBO顧問ファンド・レポートによると、10億ドルを超える大型基金の平均リターンは12.9%で、2,500万ドル未満の基金のリターンは11.6%でした。ハーバードは371億ドルを超え、最大の大学基金のままですが、そのパフォーマンスは他の大学より成績が悪く、2017年度は8.1%リターンでアイビー・リーグの中で最低でした。急激な評価損の結果、リターンが11%から8.1%に下落しました。理事会は、自然資源投資の評価損10億ドルを承認したのです。

ハーバード2017年ファイナンシャル・レポートによると、エヌ・ピー・ネアリー・バーブカーは「HMC(ハーバード・マネージメント・カンパニー)における深刻な構造問題」と「ポートフォリオの重大問題」が、低リターンの原因だとしています。2016年12月に大学の投資部門であるHMCのCEOとして就任以来、ナーブカーは戦略と運営面で数多くの変革を成し遂げてきました。ここのマネージャーが自分のポートフォリオにだけ集中する自己中心的なやり方から、全てのマネージャーが純利益に責任を持つゼネラリスト・モデルへと基金を移行させたのです。

ナーベカーはHMCのマネー・マネージャーのアウトソーシング化も推し進め、複数のヘッジ・ファンドをHMCからスピン・オフして、2017年に230名のスタッフの半分をレイオフすると発表しました。ハーバードの社内不動産チームは、2月にべイン・キャピタルに移りますが、引き続きハーバードの資金を投資します。

NACUBOコモンウェルス・レポートの中でNACUBO会長CEOのジョンDワルダは、リターンが上昇する楽観論に対して警告し、その理由として、共和党議員が12月に通過させた新税法において、基金税と事前贈与法改正を上げています。

「今年はリターンが高かったものの、ほとんどの基金に関し、引き続き、長期リターンの行方を心配している」とワルダはレポートに書いています。


この4年後の2021の結果を確認してみましょう。2021年10月15日のブルームバーグの記事です。


米ハーバード大の寄附基金、前年度リターン34%-競合校に後れ取る

基金1年で110億ドル増える-規模は過去最大の530億ドルに
エール大学基金、前年度プラス40%-規模423億ドル

米ハーバード大学の寄附基金は前年度(2020年7月-21年6月)運用成績がプラス34%となった。同大が14日発表した。ライバル校の多くは株式保有やベンチャーキャピタル投資などでより大きなリターンを確保した。

ハーバード・マネジメント・カンパニー(HMC)のN・P・ナーベカー最高経営責任者(CEO)はHMCのリスクプロファイルについて、「他大学の寄附基金と大きく異なる可能性がある」とした上で、将来的にはこうした手法がハーバードの財務に資すると考えていると説明した。

ハーバードの基金は1年で110億ドル(約1兆2500億円)増加。基金の規模は過去最大の530億ドルとなった。

エール大学が同日発表した寄附基金の前年度運用成績はプラス40%。発表資料によれば、基金の規模は423億ドルに達した。

HMCではポートフォリオの3分の1余りを占めるプライベートエクイティー(未公開株)のリターンが77%。株式で50%となったが、ヘッジファンドは16%にとどまった。HMCは株式保有を減らしており、現在は全保有資産の7分の1程度。

ナーベカーCEOは他の投資家がベンチャーキャピタルで成功したことにも触れた上で、HMCによる「最近のベンチャー投資は実を結ぶまでに約10年かかる可能性がある」とコメントした。


日本の大学ファンドは10兆円ですから、ハーバードとエール大学2校分です。アメリカがすごいのか、日本が情けないのか。やれやれ。