東京の不動産:新築マンション価格、晴海フラッグ、大量相続時代の到来

東京の新築マンション価格は1億円を超え、晴海フラッグは法人の投資対象となって当選倍率が上がった一方で、実際に住む家族は少ないという問題が明らかになった。このままでは東京には家を持てない家族が増加することになりますが、一方で後期高齢者になった団塊の世代による大量相続時代の到来も近づいています。

これらの問題について、関連する記事を見てみましょう。


日経

2024年1月25日

東京23区の新築マンション価格、初の1億円超 23年平均

新築マンションの価格高騰に拍車がかかっている。不動産経済研究所(東京・新宿)が25日発表した2023年の平均価格は、東京23区が前年比39.4%上昇の1億1483万円と、データを遡れる1974年以降で初めて1億円を突破した。用地取得費や建築コストが上昇し、販売価格が上がっている。野村不動産など大手デベロッパー各社は高価格でも販売が見込める都市部に供給をシフトする。

首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)の平均価格は28.8%上昇し、8101万円だった。発売戸数は前年比9.1%減の2万6886戸と1992年以来の水準に落ち込んだ。

東京23区の直近5年間の上昇幅は60.8%に達する。神奈川県の11.2%、埼玉県の13.1%と比べ上昇幅が際立つ。

発売初月の契約率は東京23区が71%と、好調の目安である70%を2年ぶりに上回った。神奈川県(68.5%)や埼玉県(61%)は前年を下回った。不動産経済研究所の松田忠司上席主任研究員は「価格高騰を受けて、売り出しから完売までの期間が長期化するなど、需要に一服感がみられる地域も出ている」と説明する。

都心部では大手企業幹部や経営者などの富裕層をターゲットにした高額物件が相次ぎ登場した。三井不動産レジデンシャルが23年4月に発売した40階建ての超高層マンション「パークタワー西新宿」は供給した280戸が同年内に完売した。1戸あたり平均1億4000万円前後と高額なものの、オフィス街へ近いこともあり人気となった。

同社は総戸数が約1000戸と大規模ながら全住戸が1億円以上とされる「三田ガーデンヒルズ」(東京・港)の開発も手がける。「近年は23区や都心部での大規模案件が多くなっている」という(同社)。

建築コストの上昇により、マンション各社は郊外で手ごろな価格の物件を出しにくくなっている。このため各社は、価格が高くても高所得者を中心に一定の需要が見込める都市部の販売を拡大している。

野村不動産は22年に1戸あたりの価格が数十億円になる超高級物件を取り扱う専門部署を新設した。商品設計ではコンシェルジュや駐車を係員が代行するバレーパーキングなど、高所得者向けサービスを導入した物件の販売も検討している。

東急不動産は23年9月末に東京・表参道に都心の高額マンションを対象にした販売所を開設した。平均価格が2億円を超える「ブランズ自由が丘」(東京・世田谷)など、23年度内に4物件を扱う。

高価格帯のマンション販売が好調な理由について、ある不動産大手の幹部は「アベノミクス以降の株価上昇で純資産が膨らんでいることも購入を下支えしている」と分析する。

野村総合研究所によると、世帯の金融資産(不動産購入などによる負債を控除)が1億円以上の富裕層は21年に148.5万世帯と、推計を開始した05年比で7割増えた。資産のリスク分散や節税対策でマンション購入が選ばれている面もあり、今後も資産性が高い都心部では高額物件の引き合いが強まるとみられる。

もっとも東京都内の新築マンション価格は平均年収の15倍程度まで上昇。低金利が支えとはいえ、世帯年収が1000万円を超える共働き夫婦「パワーカップル」も購入に踏み切りづらい水準にきている。三菱UFJ信託銀行の船窪芳和氏は「郊外でも都心にアクセスしやすいエリアは価格が上昇しており、新築マンション購入自体が高根の花になりつつある」と話す。


NHK

2024年5月27日

晴海フラッグ 法人所有4分の1以上の街区も 投資目的の実態は

東京オリンピックの選手村を改修し、ファミリー向けのマンションを整備するとされた「晴海フラッグ」について、NHKが1000戸以上の部屋の所有者を登記簿から調べたところ、全体の4分の1以上が法人だったことがわかりました。その多くは投資や不動産業で、中には38戸を所有しているところもあり、元選手村が、投資対象となっていた実態が明らかになりました。

東京・中央区にある「晴海フラッグ」は、東京オリンピックの選手村を改修した巨大マンション群です。

土地を所有する東京都が総事業費、およそ540億円をかけて、道路などを整備し、三井不動産レジデンシャルなど11の事業者が、ファミリー層向けの分譲マンションなどを建設しましたが、販売時の抽せんで、最高倍率が266倍となるなど、希望者が殺到する事態となっていました。

このうち、ことし1月から入居が始まり、最も戸数の多い1089戸が入る「サンビレッジ」という街区について、NHKが登記簿をもとに部屋の所有者を調べたところ、全体の4分の1以上の292部屋が、法人名義で取得されていたことがわかりました。

棟によっては、法人名義の部屋が全体の4割以上を占めているところもありました。

法人のうち、最も多く所有していたのが、福岡市の投資会社で38戸、不動産売買などを行う都内の会社が17戸、同じく都内の会社が10戸で、個人名義でも、10戸所有している人もいました。

東京のマンションが高騰するなかこうした部屋の多くは、投資用として賃貸や転売に出されているとみられ、取材に応じた3戸を所有する法人の代表は、「分譲価格が安かったので通常の2倍近い利回りで貸せている。販売時の1.9倍の価格で外国人に転売して多額の利益を得た知人もいた」と話していました。

“晴海フラッグ”とは?

東京・中央区の湾岸部にあるマンション群、「晴海フラッグ」は、東京オリンピック・パラリンピックの選手村として活用された宿泊施設を、マンションとして改修しました。

この再開発は、都がおよそ540億円かけて造成工事や道路整備などを行い、三井不動産レジデンシャルを代表とする11社が建物の整備や改修を担う官民連携の事業で、地権者でもある都が事業全体を監督しています。

「ファミリー層向けを中心に」という方針のもと、17棟の分譲マンションと、現在建設中の2棟のタワーマンションを整備するほか、商業施設や学校なども作り、1万2000人が住む新たな街が誕生することになっています。

抽せん倍率は最高で266倍に

「晴海フラッグ」に17棟ある分譲マンションは、5年前の2019年4月から販売が始まりました。

周辺相場と比べて、価格が割安だったことを理由に、販売を重ねるごとに一般世帯だけでなく、投資目的の法人などによる申し込みも殺到しました。

1回目は、抽せん倍率が平均で2.57倍、最も人気の高い部屋で71倍でしたが、2022年5月からの5回目に、平均で13.8倍、最高で96倍となり、2023年1月からの7回目では、平均で71.1倍、最高で266倍に達しました。

申し込みの戸数に制限はなく、資金があれば、何部屋でも申し込みができたため資金力のある法人や投資家に有利だという声が上がり、事業を監督する東京都は販売事業者に改善を求め、以後のタワーマンションの応募については、2部屋までに制限されました。

1079戸のうち292戸が法人名義

NHKは、「晴海フラッグ」の所有者の実態を調べるために、最も戸数が多い街区、「サンビレッジ」にある6棟のあわせて1089戸の登記をすべて取得し、内容を分析しました。

その結果、まだ登記されていない10戸を除く、1079戸の所有者のうち、全体の4分の1以上にあたる292戸が法人名義でした。

このうち、最も多い38戸を所有していたのは、福岡市の投資会社で、会社のホームページには、晴海フラッグについて「価値上昇を予想し、分譲初期から積極的に参加。安定的な投資収益を確保」と記していました。

次いで、都内で不動産売買などを行う会社が17戸、別の都内の会社が10戸、都内の医療法人が7戸、札幌市の投資会社が6戸などとなっていて、あわせて45の法人が2戸以上の部屋を購入していました。

6棟ごとに集計したところ、最も多い棟では、全体の4割以上の部屋が法人名義でした。一方、個人名義では、最も多いケースで10戸を所有していました。

複数購入の法人代表 “ほかの物件と比べ投資効率がいい”

「晴海フラッグ」で複数の部屋を持つ法人の代表が取材に応じ、購入した理由を語りました。

このうち、都内を中心に、総額30億円規模の不動産を所有する法人の代表は、投資用として5000万円から6000万円ほどの3つの部屋を購入しました。

現在、すべての部屋を家賃30万円ほどの賃貸として運用しているということですが、ほかの物件に比べて投資効率がいいということです。

法人の代表は、「周辺相場より安い価格で買えたので、利回りが6%ほどとほかの物件と比べても2倍近くある。海外からも人気があるようで購入時の1.9倍で転売して利益を得た知人もいた」と話していました。

東京都 “投資目的で多数の部屋購入は想定できず”

こうした事態を、地権者で事業監督者の東京都はどのように受け止めているのか。

「晴海フラッグ」の開発を担当する東京都都市整備局の井川武史 市街地整備部長は、「2019年の販売当初は、駅から距離がある立地などから売り切れるのか懸念があり、現在のような投資目的で多数の部屋が買われるような状況は想定できず、販売において制限は設けていなかった。急激に状況が変化したと捉えている」と話してました。


CRE-NAVI

2023/08/08

大量相続時代の到来と不動産

今、国内の相続件数はどのくらいあるのだろうか。この推計は易しい。相続発生件数は年間の死亡者の数と一致するからだ。今から40年前の1983年の死亡者数は74万人であるのに対して、2021年は年間で約144万人の方が亡くなっている。40年前と比較して約1.94倍に増加していることがわかる。日本は高齢化しているだけでなく、あたりまえだが高齢化すれば亡くなる人の数が増える、つまり相続件数はどんどん増えていることになる。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、今後2040年にかけて死亡者数はさらに増加を続け、年間160万人を超えていくものとされている。日本はこれからの20年において、相続件数は伸び続け、大量相続時代を迎えるのである。

Ⅰ.身近なものになる相続税

いっぽう相続税が課税された件数をみてみよう。83年は3万9千件であったものが現在では13万4千件と約3.4倍に膨れ上がっている。ただしこの数は2015年に税制が改正され、課税遺産総額を計算する際の基礎控除額が減額されたために、相続税の課税対象者が増えてしまったという背景がある。それでも改正前の2014年で5万6千件であるから83年当時よりも43%も増えていることになる。

それでは相続発生した件数のうちどのくらいの割合で相続税が課税されたのだろうか。これは課税件数を死亡者数で割れば算出され、おおむね9.3%になる。税制改正前は4.4%だったため、課税される割合は2倍強になったことになる。

9%ならば91%は対象外だ。ならば私は関係ないやと多くの人は思うかもしれないが、そういう話ではない。

Ⅱ.基礎控除額が減り相当数が課税対象に

まず、相続税課税の対象者が少ないのは、課税計算の方法を見ると明らかだ。相続の対象となる財産(不動産以外では預貯金、有価証券、保険、貴金属など)を評価した額(相続税課税価格)から基礎控除額を引いたものを課税遺産総額といい、これを法定相続分に分けて課税対象額を算出するのだが、現状での基礎控除額は次の通りだ。

基礎控除額=3000万円+ 600万円×法定相続人の数

たとえば法定相続人が3名の時は4800万円を遺産総額からが差し引くことができる。多くの世帯では課税対象とならないことが推測できる。また配偶者がまだ存命である場合は配偶者特別控除1億6000万円の控除枠や自宅については小規模宅地等の特例があるので、多少資産を持っている人でも少なくとも一次相続に際しては税金の心配はいらないということになる。

しかし、基礎控除額については2015年の改正前は5000万円+ 1000万円×法定相続人の数だった。法定相続人が3名であれば8000万円だったところを控除額が6割に減じられたのである。この影響は大きく、今後首都圏をはじめとした大都市圏で、高度経済成長期以降、地方からやってきた人たちに大量相続が発生するこれからは、相当数が課税対象になる可能性があるといってよいだろう。特に大都市圏で不動産を持っている人にとって、現在のたった9%しか対象にならないとタカをくくっていてはならない、近い将来に起こりうるリスクなのである。

Ⅲ.相続税の課税対象の38%が不動産

特に高齢者夫婦のうち、どちらかに相続が発生した場合(一次相続)の際には、配偶者特別控除や小規模宅地等の特例で課税されていなかったものが、二次相続においては、こうした控除が使えずに課税されてくる世帯が今後は大都市圏を中心に多発することが予想されている。二次相続について認識し、具体策を検討していく時代になっているのである。

では実際、相続税の課税対象となった財産の内訳をみてみよう。国税庁の調べ(2021年)によればなんと土地、家屋を合わせた不動産の割合は38%と全体の4割近くにも及んでいる。いかに不動産が相続にあたっての重要なポイントになっているかがわかる。

Ⅳ.相続と負動産

実は相続税の課税対象になる、ならないは別としてこの不動産、今後は相続においてこれを受け継ぐ人(相続人)に大きな負担を課すことになりそうなのだ。あたりまえの話だが、不動産はただ所有しているだけで、固定資産税や地域によっては都市計画税がかかる。家を維持していくにはマンションなら管理費や修繕積立金の負担が毎月発生する。戸建て住宅でも家の風通しや通水などをこまめにしていないと、特に木造住宅などはあっというまに傷んでしまう。細かな修繕費用の負担、庭木の剪定などなど、家の維持は費用の塊といってよい。

誰も使わない、そして誰の役にもたつことができない不動産であっても、不動産は引き継がれていく。車や機械であればこれをなくしてしまう、つまり捨ててしまうことができるが、不動産は家を壊せても、土地を削り取ってこの世からなくしてしまうことは不可能なのだ。マンションに至っては自分の意志では壊すこともできず、月々の費用負担からも逃れることができない。暮らすには何かと便利なマンションなのだが、相続財産の対象としてはなかなか厄介な存在なのである。

Ⅴ.「財産」としての不動産ばかりではない

相続とは世の中ではなんとなく、税金の問題?とステレオタイプに考えがちだが、そうではない。まず相続はどこの家でも必ず発生するものだ。それは人が亡くなるからである。そして亡くなった人は何らかの形で「遺産」を持って亡くなるのが現代である。

普通の家庭で普通に起こるのが相続であり、その受け継がれていく遺産の中に実は収益を上げる財産としての不動産ばかりでなく、現代においてはやっかいものとなった不動産が隠れていることに注意が必要なのである。

Ⅵ.団塊の世代と相続ラッシュ

団塊世代と言われる1947年から49年に生まれた人は、出生した当時806万人。この世代は日本の人口ピラミッドの中で常に最大派閥を形成してきた。彼らの多くは地方から東京や大阪などの大都市に出てきて学校で学び、卒業後は企業などに就職、企業戦士として活躍してきた。特に企業組織の中にあって最も脂がのる40歳前後、彼らは平成バブルの真っただ中にいた。彼らは世界中を飛び回って優秀な日本製品を売り込み、日本経済の発展に大いに貢献した。

現在、この世代の多くは、一部経営者などで残っている人を除いてすでに企業社会ではおおかた一線を退いている。しかし、リタイア後の彼らは、今度はその元気を国内外の旅行や地域活動などに発揮して、活躍の場を広げている。年金も後続の世代に比べれば潤沢。大企業に勤めていた人達などは厚生年金に加えて手厚い企業年金を受け取るなど、経済的には恵まれた層とも言える。

この元気いっぱい世代も47年生まれを皮切りに、2022年から後期高齢者(75歳以上)の仲間入りを始めた。日本人の健康寿命は男性が72.68歳、女性が75.38歳(2021年)であることからすれば、全員が今後も元気に過ごせる年齢というわけではならなくなる。実際に現時点での団塊世代人口は600万人ほど。出生時の75%に減少している。これから平均寿命である男性81.64歳、女性87.74歳までのあと5年から10年の期間にこのうちのかなりの方が亡くなる、つまり相続が発生することになる。

Ⅶ.「マイホーム」が厄介者になる可能性も

現時点での後期高齢者人口は全国で1879万人である。このカテゴリーにあとわずか3年間で現在の数の3分の1に相当する600万人近くの「新人」が加入してくるインパクトは絶大だ。そして健康寿命を超え、寿命を全うし始めるのがこれから日本で確実に起こる相続ラッシュなのである。

このことを首都圏(1都3県)に的を絞って考えてみる。首都圏における高齢者人口(65歳以上人口)は914万人、このうち478万人が75歳以上の後期高齢者だ(22年1月1日現在)。この時点では団塊世代はまだ後期高齢者にはカウントされていない。首都圏に住む団塊世代は東京都で51万8千人、神奈川県で39万2千人、埼玉県で34万5千人、千葉県で29万8千人の計155万3千人にのぼる。ということは首都圏でも例外なく相続ラッシュになることが容易に想像されるのだ。団塊世代の多くは1980年代を中心にマイホームを首都圏の郊外部に取得している。これらの家は一次相続時点では配偶者に無事引き継がれるだろうが、二次相続になると、彼らの子供の多くが、果たして親の残した家に住むことを選択するだろうか。

そして親の残していく財産の中でもこのマイホームが意外な厄介者になる可能性があるのだ。

国内では実はこれから相続ラッシュの時代を迎える。日本は戦争で多くの国民を失った。戦後から平成にかけて亡くなった多くの人たちは戦争で苦労をし、廃墟の中から立ち上がってきた人たちだ。人口ボリュームも小さく、また金融資産や不動産といった財産も少なかった。団塊世代でも親からたくさんの遺産を相続したという人は少なく、せいぜい地方の実家、付随した田畑や山林などだった。兄弟姉妹も多いので資産は分散し、相続争いなどもごく一部のお金持ちの話に限られてきた。

Ⅷ.複雑化する相続

世代が代わり新たな問題となるのは、これから亡くなる人の多くが、ある程度の金融資産を持ち、マイホームを持っているということだ。戦後三世代、あるいは四世代目に引き継がれていくこれからの家族の系譜で、相続の問題は複雑化し、悩ましいものになっている。

こうした時代背景を見据えて、自身の持つ不動産ポートフォリオの中で、何を活用し、何を手放すのか、そして何に新たに投資していくのかを見極めていくことが極めて大切な時代になっている。おそらく今から2030年までの間の日本社会で起こるかなり大きな変容に対して、不動産を防衛資産として選択していく際には、この相続の大量発生という、確実に起こる変化をどのように捉えるかが、大きな視点になることは間違いないといってよいだろう。