6月13日、公的年金制度改革関連法が成立しました。
その内容を確認します。
年金制度改革の関連法 変わる点は
2025年6月13日 NHK
年金制度改革の関連法では、働き方の多様化を踏まえ、パートなどで働く人が厚生年金に加入しやすくなるよう「年収106万円の壁」と呼ばれる賃金要件を法律の公布から3年以内に撤廃するとしています。
そして、現在従業員51人以上としている企業規模の要件も、2027年10月から段階的に緩和し、10年後になくすことなどが明記されています。
また、法律は、自民・公明両党と立憲民主党の3党の合意に基づき、基礎年金の底上げ措置を付則に盛り込む修正が行われています。
具体的には、4年後の公的年金の財政検証で、将来的に基礎年金の給付水準の低下が見込まれる場合などに、厚生年金の積立金を活用して底上げ措置を講じ、その際、厚生年金の給付水準が一時的に下がることへの影響を緩和する対応もとるとしています。
そして、13日の参議院本会議で採決が行われた結果、自民・公明両党と立憲民主党などの賛成多数で可決・成立しました。
基礎年金 底上げ措置の仕組み
年金制度改革関連法の付則に盛り込まれた、基礎年金の底上げ措置の仕組みです。
日本の公的年金制度は2階建てになっていて、基礎年金とは1階部分にあたる、すべての国民に共通する年金のことです。会社員や公務員などが対象の厚生年金は2階部分にあたります。
このうち、基礎年金の財政状況は、デフレ経済が続いたことから悪化しています。
去年行われた年金の財政検証では、過去30年間と同じ程度の経済状況が続いた場合、基礎年金の給付水準が2057年度にいまより3割ほど低下すると指摘されました。
一方、厚生年金の財政は、働く女性や高齢者が増えたことで比較的安定しています。
そこで、厚生年金の積立金を活用し、基礎年金の給付水準を引き上げようというのが、今回の措置です。
ただ、この措置を講じると、厚生年金の給付水準が一時的に下がることから、影響を緩和する対応もとるとしています。
厚生労働省は「1階部分の基礎年金が底上げされることによって、最終的には、ほぼすべての厚生年金の受給者の給付水準も上がることになる」と説明しています。
厚生労働省の試算では
厚生労働省が機械的に行った試算によりますと、この措置を直ちに実施し、平均寿命まで生きた場合、平均的な賃金で働く男性の年金受給額は、現在62歳以下の人は増加し、38歳以下の人は248万円増えるということです。女性では、66歳以下で増え、38歳以下は298万円増加するとしています。
一方、男性は63歳以上、女性は67歳以上から減額となります。
60代後半から70代にかけて減額幅が大きくなり、男性では69歳と70歳で、女性では73歳と74歳で、それぞれ最大23万円減るということです。
年金制度 ほかの主な変更点
関連法によって、年金制度はどう変わるのか。このほかの主な変更点です。
<個人事業所の厚生年金の適用拡大>
厚生年金の適用拡大に関しては、5人以上の従業員がいる個人事業所のうち、2029年10月から開設される新規の事業所はすべての業種で加入対象となる一方、既存の事業所は当面、任意加入となります。<適用拡大に伴う保険料負担の軽減策>
パートなどで働く人の厚生年金の適用拡大にあたっては、保険料負担が生じることによる働き控えを防ぐため、労使折半となっている保険料を、企業や事業主側が3年の間はより多く負担できる仕組みが、来年10月以降設けられます。企業や事業主側が多く負担した分については全額支援するとしています。<収入の多い人の保険料上限額引き上げ>
将来の年金財源を確保する観点から、収入の多い厚生年金の加入者により多くの保険料を負担してもらおうと、保険料の算定の基となる月の給与水準の上限が、2027年9月以降、現在の65万円から段階的に75万円に引き上げられます。給与水準が最も高い場合、ひと月あたりの負担はおよそ9000円増えるということです。<在職老齢年金の減額基準引き上げ>
65歳以上の人が一定の収入を得ると厚生年金が減らされる「在職老齢年金」制度も見直され、高齢者の働く意欲をそがないよう、減額される基準が来年度からいまより10万円余り引き上げられ62万円になります。<遺族厚生年金の受給要件見直し>
共働き世帯が増えていることなどを踏まえ、会社員などが亡くなった際に配偶者らに支給される「遺族厚生年金」について、現役世代で子どもがいない人が受け取る際の要件の男女差を解消する措置もとられます。
現在、女性は夫が亡くなった時点で30歳未満の人は5年間、30歳以上の人は生涯受け取れる一方、男性は妻が亡くなった時点で55歳未満の人は受け取れません。
これを、すでに受給している人に不利益が出ないよう、2028年4月から20年かけて移行を進め、最終的に受給期間を男女とも原則5年間にしたうえで、収入が少ないなど配慮が必要な場合は最長で65歳まで受け取れる仕組みに改めます。<子育て中の加算など見直し>
年金を受給し始めたあとも主に18歳以下の子どもを育てている人を対象に加算する措置も、見直されます。
今は、子ども1人当たり、第2子までは年額23万4800円、第3子以降はこれに7万8300円を加算していますが、2028年4月から一律で28万1700円に引き上げられます。
一方、扶養している65歳未満の配偶者がいる場合の支給加算については、2028年4月以降に年金を受給し始める人は、現在の年額40万8100円から36万7200円に引き下げるとしています。<iDeCoの加入年齢の引き上げ>
公的年金に上乗せする個人型の確定拠出年金=「iDeCo」の見直しも盛り込まれていて、法律の公布から3年以内に、加入年齢の上限を、いまの65歳未満から70歳未満に引き上げるなどとしています。
【年金改革法案2025】106万円の壁が撤廃へ!「社会保険の加入対象の拡大」のポイントをあらためて解説
6/9(月) YAHOO!JAPANニュース
2025年5月16日、年金制度の改正法案が国会に提出され、多くの注目を集めています。改正法案の内容の1つとして、「106万円の壁」の撤廃による社会保険の適用範囲の拡大が挙げられています。
この法案が成立した場合、現在扶養の範囲内で働いているパートタイム労働者が、自ら社会保険に加入するケースが増えると予想されます。
「社会保険に加入すると手取りが減るのではないか」「扶養から外れると家計負担が増えるのでは」「社会保険に加入するなんて悪いことしかない」などの不安を抱えている人も多いかもしれません。しかし、社会保険への個人加入には多くのメリットがあります。
本記事では、提出された改正法案の内容やその目的、さらに社会保険に加入することのメリットを具体的に解説します。特に「106万円の壁」を意識して働いている皆さまへ、今後どのような影響があるのかを知るために、ぜひ読んでいただきたい内容です。ぜひ参考にしてください。
社会保険加入の「106万円の壁」とは
現在の日本の社会保険制度では、従業員51人以上の企業で働く労働者は、月収が8万8000円(年収約106万円)以上であり、週20時間以上勤務する場合には、社会保険への加入が義務付けられています。
この収入要件がいわゆる「106万円の壁」です。社会保険上で配偶者の扶養となっている人がこの壁を超えると、扶養から抜けて社会保険に自ら加入しなければならなくなるため、就業を調整するケースが多くあります。
近年の最低賃金の上昇に伴い、月額8万8000円を超えやすくなっていることもあり、意識的な就業調整の傾向がさらに強まっています。
また、労働者が就業時間などを調整してしまうことで、企業としても「労働力不足」という課題が深刻化しています。
年金改正法案2025の内容
5月16日に国会に提出された年金改正法案では、社会保険の加入義務について以下のように提案がされています。改正法が全て施行された場合、どの企業に勤めている従業員であっても、週20時間以上の勤務をしている場合には、月額の給与を問わず社会保険の加入が義務付けられることになります。
・106万円の壁(月額8万8000円要件)を完全撤廃
月額8万8000円未満の人も加入対象とする
・企業の従業員数要件の段階的撤廃
企業の従業員数にかかわらず要件を満たすことで社会保険の加入を必須とする
・社会保険の適用事業所の拡大
社会保険の加入義務が除外されていた事業所も全て適用事業とする
改正法の施行予定時期
改正法案では、法案が成立してから3年以内に106万円の壁を撤廃することが予定されています。さらに、企業従業員数の要件撤廃は2027年10月から2035年10月までの間に段階的に行われ、最終的に全企業に適用させていくこととされています。
社会保険に加入するメリット
社会保険に加入することは、保険料が発生するため、家計の負担が重くなるという懸念を持たれている方も多くいます。しかし実際には、自分で社会保険に加入をすることには、一定の価値も存在します。ここからは、社会保険加入によるメリットを紹介していきます。
●健康保険の給付を受けることができる
1つめが、健康保険の給付を受けられる点です。社会保険上の扶養に入っている場合、医療費の補償や高額療養費制度の利用は可能ですが、一定の給付金は支給されません。
しかし、配偶者の扶養から外れ、自分で社会保険に加入をすることにより、健康保険の給付金を受けられるようになります。具体的には、業務外での傷病で休業した際の傷病手当金や、出産をした際の出産手当金を受け取ることができるようになります。
勤務ができない期間の収入を補填してくれる制度があることにより、より安心して生活することができるようになります。
●年金受給額が増加する
現在、配偶者の扶養に入っている場合、「第3号被保険者」として国民年金のみに加入している状態です。この場合、将来受け取れる年金は基礎年金のみとなります。
一方、社会保険に加入すると、以下の2種類の年金を受け取ることができるようになります。
・基礎年金: 社会保険に加入している期間は、引き続き国民年金の加入期間としてカウントされます。つまり、基礎年金の受給権はそのまま確保されます。
・厚生年金:社会保険加入により、新たに厚生年金の受給権が発生します。厚生年金は基礎年金に上乗せされる形で支給され、加入期間と給与額に応じて年金額が計算されます。
つまり、社会保険に加入することで、基礎年金の受給権を維持しながら、さらに厚生年金という追加の年金を受け取ることができるようになります。これにより、老後の受給額が実質的に増加することになるのです。