今年から始まる金融教育 1

金融教育は役に立つらしい

2022年度からの新たな学習指導要領により、高校の家庭科や公民の授業で金融教育が強化されます。NHKのニュース番組では、知識のない家庭科の先生たちが指導のための教育を受けた後、「とても役に立った。ぜひ子供たちに教えたい」という感想を持った教師もいました。

金融教育について、新聞・雑誌はどのように報じているのかを確認したいと思います。新聞社はあいうえお順です。

<朝日新聞>

高校授業で来年度から「資産形成」、投資の知識を学ぶ理由は? 金融庁に聞く

2022年度から、高校家庭科で「資産形成」の内容が必修化します。金融庁では出前授業を行うほか、クイズで楽しくマネーリテラシーを身につけられるサイトを公開するなど、積極的に取り組みを進めています。「子どもにお金の話はタブー」が変わりつつある理由とは?そして、気になる授業の中身とは?金融庁に聞きました。

話を聞いた人

中村 香織さん  金融庁 総合政策局 総合政策課 総合政策管理官

(なかむら・かおり)2006年、金融庁に入庁。2020年7月より現職で金融経済教育を担当。高校や大学を中心とする出張授業や授業用動画教材の作成、小学生向けのコンテンツ作成のほか、安定的な資産形成の促進の一環として「つみたてNISA」の普及促進などに取り組んでいる。

上大谷 起一さん  金融庁 総合政策局 総合政策課 課長補佐

(うえおおたに・きいち)2012年、新卒で金融庁に入庁。2017年に一度金融庁を退職し、コンサル、ベンチャーを経て、2019年に金融庁に中途採用で復職。2021年7月より、金融経済教育担当。

改訂の背景にある、成人年齢引き下げとライフプランの多様化

――まず、今回の高校家庭科の学習指導要領改訂では、「お金」に関してどのような内容が加わったのでしょうか。

中村:大きなポイントは家計管理の一部として、「資産形成」の内容が加わったことです。

これまでの家庭科の「お金」に関する内容は、どちらかというと消費生活における注意点に主眼が置かれていました。分かりやすく言うと、「買い物をする際にどのような点に気をつければよいか」「短期的にも長期的にも、収入と支出のバランスをとることが重要」といった内容です。

一方の新学習指導要領では、さまざまな金融商品への理解を含め、より積極的に経済の計画が立てられるように指導する内容となっています。進学、住宅取得、老後、といったライフイベントはもちろん、病気や失業のリスクに対してどう備えれば良いのかを考え、生涯を見通した計画を立てられるように指導する構成になっているのです。

その中でも、多くの方の関心を集めているのが、学習指導要領の解説に「預貯金、民間保険、株式、債券、投資信託等の基本的な金融商品の特徴(メリット、デメリット)、資産形成の視点にも触れるようにする」という部分でしょうか。日本の家計は現預金の保有割合が多くなっています。でも、ただ銀行に預けているだけでは、お金を“守る”ことはできても“増やす”ことはできません。それならば、リスクを理解した上で、ニーズに応じて金融商品の保有も検討した方が良いのではないか。そうした観点から、高校家庭科の授業において、まずは資産形成の必要性と、各商品の基本的なメリット・デメリットを指導することになったと理解しています。

民法が改正され、来年(2022年)の4月1日からは、成年年齢が18歳になります。つまり、今の高校生たちは、高校を卒業した時点で、一人の大人として行動できるわけです。それを踏まえると、高校生のうちに、金融リテラシーを身に付けておくことが望ましい。今の社会において、お金とまったく関わらない生活は、まずありえませんから。

中村:そして、成年年齢の引き下げ以外にももうひとつ、改訂のねらいがあります。それが、ライフプランの多様化です。

すでに言い古されたことかもしれませんが、これまでの社会には、ライフプランにある程度の“型“がありました。つまり、一昔前までは、学校を卒業して、会社員になり、30歳前後で家庭を持ち、住宅を購入し、定年まで勤め上げる……というような人生設計が主流の時代だったと言えます。

しかし現代では、このようなライフプランが必ずしも主流ではなくなり、働き方や暮らし方について、非常に多様な選択肢を持てるようになりました。それ自体はむろん、素晴らしいことですが、「資産形成」の観点から言えば、以前よりも難易度が上がったことは否めません。というのも、先人に倣えばよかった時代と比べ、より能動的に情報を獲得し、自分に合った資産形成の方法を選びとる必要が出てきたためです。

日本人は「金融ぎらい」?

――先ほど、「日本の家計は現預金の保有割合が多い」とおっしゃいましたが、具体的にはどういう割合なのでしょうか。

中村:日銀によると、2021年3月末の時点で、家計が持つ金融資産の残高は1,946兆円となっています。このうち、現預金が占めるのは54.3%。また、投資信託が4.3%、株式等が10.0%となっています。

家計の金融資産構成

日本銀行調査統計局「資金循環の日米欧比較」(図表2 家計の金融資産構成)から

では、欧米ではどうかというと、アメリカでは現預金が13.3%。一方で投資信託や株式が51%と、日本の3倍以上の割合になっています。ユーロエリアでは現預金が34.3%とアメリカに比べて高いものの、投資信託や株式は27.8%で、やはり日本の2倍近い。つまり、日本の家計は、諸外国と比べてかなり現預金寄りの構成になっているのです。

もちろん、金融資産の構成には「この数字が理想的」という目安はありませんから、欧米に近づけよう、と提言するつもりはありません。ただ、現在の銀行の預金利息はわずか0.001%〜0.02%程度で、“積極的にお金を増やす”手段とはなっていないのが実情。それならば、リスクをしっかりと理解した上で、ニーズに応じて投資信託や株式等にも視野を広げるという選択肢も有効ではないかと思います。

――諸外国と比べて、投資信託や株式等の割合が低いのには、どのような背景があるのでしょう?

中村:色々な考え方がありますが、比較的最近では、大きく3つの出来事によって、「金融は怖い」という認識が強まったように思います。

1つ目は、バブル景気。当時は不動産も株式も価格がグングン伸びていき、「投資しなきゃ損」という風潮すらあったと聞きます。ところが、バブルがはじけると、多くの方が損をしてしまった。このショック体験が、「投資は危険」という認識を強化したと言われています。加えて、今年に入って日経平均が30年ぶりに3万円台を回復しましたが、逆に言えばこの30年間、当時の基準を回復できなかったことも、こうしたイメージを払拭できずにいた一因かもしれません。

そのうえ、バブル期の預金利息(年利)は驚きの約6%。この利率なら、「銀行に預けておけば、10年間で2倍近くになる」計算になります。バブル崩壊後、金利も下がりましたが、放っておくだけでお金が増えるのだから、リスクを冒して投資に手を出す必要はない、という考えから、「家計が大きく現預金寄り」の土台がつくられたとも考えられます。

上大谷:そして、リーマンショックが起こります。“節約”関連のコンテンツが流行し、「お金は使わないほうがよい(なるべく多く貯金すべきだ)」という機運が高まったように思います。

また、株式とは直接の関係はありませんが、多重債務や詐欺の問題。経済的に苦しくなった方に向けての苛烈な取り立てや、金融に関する詐欺事件が社会問題化するたびに、「お金は怖い」と感じる方もいらっしゃったと思います。

ざっくりとですが、これら3つの出来事によって、日本の現預金志向と、「金融は難しい」「怖い」という考えが強まったのではないかとも考えられるのではないでしょうか。

ただ、最近は、若い方が投資を始める流れがあります。長期・積立・分散によって、元本割れのリスクの少ない投資手法を支援するための非課税制度「つみたてNISA」の口座開設が増えているほか、年代別の伸び率は20代や30代が非常に大きくなっており、こうした考え方も変わってきていると感じています。

他人事じゃない、多重債務などの金融トラブル

――「お金は怖いもの」として避けていると、将来、どのようなトラブルに巻き込まれる可能性が高くなりますか。

中村:家計管理や資産形成について、知っておいていただきたいことがあります。それは、「多重債務といった金融トラブルは、決して『遠い世界の話』ではない」ということです。

私(中村)はかつて、多重債務対策の担当をしていました。多重債務者、つまり、借金で生活がままならない方というと、大半の方は“ギャンブル依存”や“買い物依存”といった、ある種極端なケースを想像されますよね。でも、実際には “普通の人”が、ちょっとしたきっかけで破綻し、多重債務に陥るケースが少なくないんです。

——具体的には。

中村:たとえば、そもそもの収入が低く、日々、ぎりぎりの状態でやりくりしている方がいたとします。日常生活はなんとか営めていたけれども、ある日、車検や冠婚葬祭といった、突発的な出費が発生し、一時的にキャッシング(借金)に手を出してしまった。ひとまずそれでしのいだはいいものの、もともとの生活がぎりぎりなため、返済がままならない。仕方がないので、他から借りて返す。こうして、多重債務に陥る……。

あくまで一例ですが、このような流れで多重債務に陥る方が、みなさんが想像している以上に多いのです。だからこそ、高校生の皆さんには、日頃から家計バランスを意識したり、事故や病気、失業のリスクに備えたりといった基礎知識を身につけて欲しいですね。

まずはお小遣いのやりくりから。適切な知識で人生を豊かに

――金融リテラシー教育の浸透のために、金融庁としてはどのような取り組みを行なっていますか。

中村:大きく分けて2つあります。1つは、金融庁の職員が出張授業をしたり、コンテンツを公開したりする活動。もう1つが、家庭科の先生方に向けた研修活動です。

中村:また、金融庁では、大人気の『うんこドリル』とコラボした、お金の使い方を楽しく学べるコンテンツを公開しています。小学生でも理解しやすい内容となっていますが、大人の方からも「意外と勉強になった」という意見もいただきました。ちょうど先日(10月20日)、第2弾を公開しましたので、ぜひ一度チェックしてみてください。

――「お金を身近に」となると、学校教育以外にも、家庭でもできることがありそうですね。具体的には、どのようなコミュニケーションをとるとよいでしょうか。

中村:お子さまの年齢にもよりますが、やはり身近なところでは、お買い物に行った際に簡単な計算をさせてみるとか、お小遣いの使い方を指導するといったところから始まるのかなと思います。たとえば、「来月、〇〇のイベントがあるよね。そこでお土産を買うために、お小遣いを残しておこうよ」と声を掛けるなどでしょうか。収支バランスは何よりの基本ですので、小さな頃から少しずつ身につけていただくとよいかと思います。

それから、保護者世代がよく驚かれるのが、「今の子どもはあまり現金を知らない」事実。キャッシュレスが浸透した結果、お金は「ピッ、とするもの」のような認識で、“お釣り”の概念を知らない子もいると聞いたことがあります。キャッシュレスは便利ですが、使った実感が薄くなりがちです。かといって、「キャッシュレスは危険なので、現金に限る」といった対応の仕方では、時代の流れとも合いませんし、そもそも問題を先送りにしているだけかもしれません。お小遣い帳や、アプリを上手に使うなど、色々工夫していただければと思います。

<産経新聞>

子供の人生を左右 10代からの金融教育のススメ

「お金を増やすのは難しい時代です」。11月19日、松山市中心部にある通信制高校「未来高校」で開かれた金融経済教育セミナー。金融機関から派遣された講師の解説に生徒たちは真剣な表情で聞き入っていた。高校の学習指導要領の改訂で、来年4月から家庭科で資産形成について指導することが盛り込まれており、今後、10代向けの金融教育も広まりそうだ。

セミナーは平成23年からCSR活動、SDGs達成への取り組みとして全国で金融経済教育を行っているSMBCコンシューマーファイナンス(東京)が、地元の愛媛銀行に合同開催を呼び掛けて実施した。

未来高校は学校法人河原学園が経営。松山本校と新居浜校のほか、スクーリング会場を各地に展開しており、週5日通う平日コースをはじめ週2日コースなど自由度の高い4コースを設定している。

生徒数は本校382人、全国では2130人(11月1日現在)。約3分の1が中学校からの進学者で、ほかは他校からの転入生だという。

セミナーは本校で学ぶ1年生が対象。講師は愛媛銀行の「ひめぎん情報センター」研究員、岩本八重さんと、SMBCコンシューマーファイナンスの佐々木健至さんが担当した。

佐々木さんは家計管理の観点から解説。生徒たちは手取り収入、住宅費と水道光熱費、通信費、食費などを想定して資金計画を立てたり、ライフイベント表を用いて「運転免許証を取得する」「車を購入する」「ひとり暮らし」「結婚する」-など、将来どのような人生を送るかを書き出したりした。

赤字になる人が多いです。赤字を改善するのが大切で、支出の中で使いすぎのもの、抑えられるものを考えよう。預貯金だけではちょっと大変だなというとき、お金がお金を生む方法もあります」と説明。

貯金の心構えを「目的をはっきりとしたうえで、毎月同額をためることを身につけてほしい」と語った岩本さん。金利と物価の変動についても説明し、「預金金利は低下し、物価は上昇している。お金を増やすのが難しい時代です」と話した。

金融商品の選び方では、毎月の生活費や入院など何か起きたときに対応するための「使うお金」▽5~10年後などに必要になることが見えている「守るお金」10年以上使う予定がなく、多少増減しても困らない「増やすお金」-があるとして、「増やすお金を資産運用に充てるようにしましょう」とアドバイス。そのうえで、債券、株式、投資信託についてメリットとデメリットを説明した。

岩本さんは「お金を借りるときは、自分に返せる能力があるかしっかり考えること。借金が増えると多重債務に陥ったり、自己破産になることもあります」と資産管理の大切さを語りかけた。

生徒たちも真剣な表情で受講しており、お金の話を通じて自分のライフプランについても思いをめぐらせた様子だった。

1年生の墨田郁生(ゆうせい)さん(15)は「自分が思っているより家計は大変だなと思った。動物が好きなので、動物とかかわるような仕事ができたらいいと思う」と話した。石橋萌花さん(16)は「将来は声優になりたい。人の役に立てるような仕事をしてみたい」と話していた。

野村和弘校長は「生徒は自己実現を達成してほしい。社会の一員として納税者となるのだから、私たちは大事な役割を担っている」と語っていた。

<明日に続く>

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