年金改定とマクロ経済スライド 2023年

2023年6月から国民年金・厚生年金の金額が改定になりました。

2023年度の年金額は、67歳までは前年度比+2.2%増、68歳からは+1.9%増と3年ぶりの増額となりましたが、3年ぶりにマクロ経済スライドによる調整(-0.6%)が発動されており、実質的には目減りとなりました。

年金について、東証マネ部の2019/12/20の記事で勉強します。


50%に下がっても、年金額が減るわけではない…?

将来の年金額に関係するらしい「所得代替率」とは

2019年8月27日、厚生労働省から「財政検証」の結果が公表された。「財政検証」とは、年金財政の健全性を、5年に一度検証するもの。その結果を受け、多くのメディアで「将来、所得代替率が50%になる」と報道されたが、そもそも所得代替率とは?

老後資金形成に詳しいファイナンシャルプランナー・福嶋淳裕さんに、所得代替率と将来の年金額について、教えてもらった。

「平均手取り収入額」に対する「モデル年金額」の比率

「所得代替率とは、公的年金の給付水準を示す指標。年金を受け取り始める時点(65歳)における年金額が、その時点の『現役男子の平均手取り収入額(ボーナス込み)』と比較してどのくらいの割合か示すものです」(福嶋さん・以下同)

例えば、所得代替率50%の場合は、その時点の現役世代の手取り収入の50%の額を、年金として受け取れるということ。

「財政検証」では、「夫が平均的収入(賞与含む月額換算42.8万円)で40年間就業し、妻がその期間すべて専業主婦であった夫婦」をモデル世帯として「モデル年金額」を出している。その金額をもとに算出された所得代替率は次の通り。

2019年度の「現役男子の平均手取り収入額」は月額35.7万円、「モデル年金額」は月額22万円((老齢基礎年金6.5万円×2)+夫の老齢厚生年金9万円)のため、所得代替率は以下のように計算される。

●2019年度の所得代替率
22万円÷35.7万円=約61.7%

「所得代替率を見る時に忘れてはならない点は、『ある年に、夫婦そろって65歳になり、公的年金を受け取り始めた夫婦のモデル年金額』と『近年の現役男子の平均手取り収入額』を比べる指標であることです。あくまでこの2つの金額を比べる指標ですので、多くの世帯には当てはまりません」

「マクロ経済スライド」によって所得代替率は低下の一途

所得代替率は全日本人の平均ではないため、鵜呑みにはできないが、年金額の推移を見るには参考になるだろう。

「『財政検証』の結果は、5年前と大きくは変わりありませんでした。この数年間の出生率の向上や女性・高齢者の就労拡大による被保険者数の増加、積立金の好調な運用成績などにより、わずかに改善したといえます。例として、今年度44歳の会社員が年金を受け取り始める際の所得代替率を見てみましょう」

●今年度44歳の人が、65歳で年金を受け取り始める場合の所得代替率の見通し(「2019年財政検証結果」をもとに作成)

上記の表は「財政検証」で出された見込みで、ケースⅠは経済前提が最良のパターン、ケースⅥは最悪のパターン。

2019年度のモデル世帯の所得代替率は61.7%であるため、21年後のモデル世帯の所得代替率は7~10ポイント程度の低下が見込まれるということだ。

「所得代替率が下がっていく原因は、2004年に年金制度の大幅な改革が行われた際に導入された『マクロ経済スライド』という仕組みにあるといえます」

本来、年金額は賃金や物価の上昇と連動して上昇するものだが、「マクロ経済スライド」により、一定の間、賃金や物価が上昇しても年金額の上昇は抑制されることとなった。賃金や物価が上昇する一方で年金額は抑えられるため、調整が続く間、所得代替率は徐々に低下していくことになる。ちなみに、「財政検証」の6つのケースは、いずれも賃金・物価が長期的に上昇していく前提。

「経済前提が悪いケースほど、『マクロ経済スライド』による調整は長く続き、所得代替率の低下も進むと考えられています」

●マクロ経済スライドの調整期間と所得代替率(「2019年財政検証結果」をもとに作成)

ただし、「次期財政検証までの間に所得代替率が50%を下回ると見込まれる場合には、給付水準調整を終了し、給付と費用負担の在り方について検討を行う」とされているため、最低50%は確保される見通しだ。

別の指標で見ると、年金額は増える可能性あり!?

実は「財政検証」には、所得代替率だけでなく、具体的な将来の年金額も記載されている。

「資料の中には、『将来の年金の実質的な額』も記載されています。これは、将来見込まれる物価上昇によって増額する年金額を、現在の価値に割り戻した年金額ということです」

●今年度44歳の人が、65歳で年金を受け取り始める場合の実質的なモデル年金額の見通し(「2019年財政検証結果」をもとに作成)

今年度のモデル年金額は月額22万円だが、21年後の実質的なモデル年金額は19.9万~25万円。増える可能性も秘めているというわけだ。

「今年度44歳の世代に限定せず、すべての世代の『将来の年金の実質的な額』の見通しを要約すると、以下のようになります。年金額は、必ず減るわけではないといえます」

年々減額されると思っていた年金だが、一概にそうとも限らないようだ。さまざまな指標をもとに判断し、将来に向けてどう備えるか、考えてみよう。