相続時精算課税制度を選択する年の手続き
1.初選択する年分の贈与が基礎控除以下の場合
相続時精算課税制度を選択する年分の贈与が、基礎控除(年間110万円)以下である場合、「相続時精算課税選択届出書」のみ提出することとなります(受贈者の戸籍謄本等も添付)。 選択年の翌年以降は、基礎控除超であれば「贈与税の申告書」の提出が必要ですが、基礎控除以下であれば「贈与税の申告書」の提出は不要です。
2.相続時精算課税を初選択する年分の贈与が基礎控除超の場合
相続時精算課税制度を選択する年分の贈与が、基礎控除(年間110万円)を超える場合、「贈与税の申告書」と「相続時精算課税選択届出書」をセットで提出する必要があります(受贈者の戸籍謄本等も添付)。選択年の翌年以降は、基礎控除超であれば「贈与税の申告書」の提出が必要ですが、基礎控除以下であれば「贈与税の申告書」の提出は不要です。
三井住友トラスト不動産
実務アドバイス:富裕層は、相続時精算課税と暦年贈与のどちらが有利か
相続時精算課税制度の特色は、親子間の財産移転が国税庁のコンピュータに登録されることと、一定時点での価格の確定(凍結)です。平成27年に20歳以上の子や孫に対する暦年贈与の税率が緩和されたので、原則として富裕層には不向きな制度となっています。
1.財産の移転が国税庁に登録されるということ
相続時精算課税制度を選択すると、国税庁のコンピュータに特定贈与者と特定受贈者が登録されます。両者間の資産の移転についてすべてのデータが入力管理されるということです。贈与税の申告書に特定の相手方との贈与に関する相続時精算課税選択届出書を添付して提出すると、それ以後の贈与は、たまたま申告を忘れたものまで相続開始時点では相続財産に加算されます。
気をつけなければいけないことの一つに、精算課税制度を選択した後の年に贈与を受け、申告期限を過ぎても申告していなければ(無申告)、特別控除の枠に余りがあっても特別控除を使えないということがあります。
特別控除の適用は、法令で期限内申告が要件とされているからです。無申告の贈与は、贈与財産価額そのものに対し20%の税率で贈与税本税が課税され、それ以外に無申告加算税が賦課決定されます。
あなたが、1,000万円の金銭の贈与を受け、相続時精算課税制度の適用を選択したとします。特定控除の枠は2,500万円ありますから1,500万円枠が空いています。その後、特定贈与者から300万円の贈与を受け「ああ、1,500万円枠があいているから申告しなくてもいいや」などと考えていると300万円の20%、60万円の贈与税を支払う羽目になります。申告期限を過ぎて贈与税の申告書を提出すると特別控除の枠を使えないのです。
将来、仮に相続時精算課税と従来からある暦年贈与課税との選択制が廃止され、すべて相続時精算課税制度に統一されるとしたら、親族間の資産の移転は漏れなくコンピュータ管理されるということになります。加えて、消費税がインボイス化されると、物や情報の移転についてはすべて伝票が必要になり、作成された伝票の情報はコンピュータに記録されることになります。第三者間のサービスの提供、資産の移転も親族間の財産の移転もなにもかも国税庁のコンピュータに記録されることになるのかもしれません。
2.平成27年以降3億円以上の富裕層は暦年課税で贈与するのが効率的な相続税対策となっている
資産家は、特に財産が3億円以上ある富裕層は、暦年課税制度が廃止されないうちに、毎年根気よく贈与を行っておくことが相続税の節税としては有効です。これは平成27年1月1日以降、20歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた財産に係る贈与税の税率が改正されたことが原因といっても過言ではないでしょう。相続税の基礎控除額は引き下げられましたが、同時に、富裕層の父母から子、祖父母から孫などへの贈与税が、一定部分、引き下げられたのです。
この結果、劇的な変化が生じています。たとえば、既に配偶者に先立たれている3億5千万円の財産を有する資産家が20歳以上の子どもや孫など2人に対し暦年贈与する場合、最も効率的な金額は、なんと一人当たり年間1,200万円なのです。
下表のとおり、子どもや孫など2人に毎年1,200万円を贈与すると年間2,400万円贈与できます。2,400万円に対する受贈者2人の贈与税は492万円です。2,400万円贈与することにより減少する相続税は(4年目まで毎年)960万円です。これを繰り返していくと5年目は想定される財産額が2億5,400万円に減少します。想定される遺産の額がこの水準まで下がると相続税の限界税率も下がるので、最も効率的な贈与額は一人当たり800万円に減少しますが、この事例では5年間に累計1億1,200万円贈与することにより、相続税は2,238万円も減少するのです。
本来、贈与税は相続税の補完税といって相続税の税率よりも贈与税の税率の方が低いはずです。そう信じきっていると時代に取り残されます。いまや贈与をいかに有効に行っていくかが富裕層にとっては(節税という観点だけからみたらという限定付ではありますが)重要なことになっているのです。