1000億円をどうするか。

大谷翔平が約1000億円の10年契約を結んだという報道がありました。まずはその中身をBloombergの12/13(水)の記事で見てみましょう。


【コラム】大谷翔平、MLBのみならずMBAでも不滅に

ロサンゼルス・ドジャースに移籍するために7億ドル(約1020億円)の10年契約にサインした野球界のスター、大谷翔平選手に熱烈な感謝の意を表したい。野球選手として史上最高額の契約だ。その契約の詳細が明らかになった今、野球というより金融に関するニュースとしても、近年まれなケースとなった。

大谷の契約金は大半が後払いになる。代理人と彼はいわば「金を見せてくれ。でも支払いは後で」と交渉したようなものだ。 実際、今後10年間は年間200万ドルしか受け取らない。契約が完了する2034年から、ドジャースは彼に年間6800万ドルを支払い始め、それを10年間続ける。最後の支払いは、大谷が50歳のときに届く予定だ。これは米大リーグ機構(MLB)が定めたルールの範囲内であり、両者は何の制約もなくこの契約を結んだ。実際、これは大谷自身のアイデアだったようで、代理人は接触してきた他のすべての球団に後払いについて同じ案を提示した。だから彼らが望むなら、そうしない理由はない。しかし、なぜこのような契約を結びたいのだろうか。

ドジャースも大谷も、元ニューヨーク・メッツのボビー・ボニーヤ選手のことはよく知っている。ボニーヤとの契約はとんでもないほどに未来志向で、メッツは2001年に引退したボニーヤに今も毎年119万ドルを支払い、2035年まで続けなければならない。メッツが毎年彼に小切手を送る7月1日は、野球通の間では「ボニーヤ・デー」として知られ、皮肉まじりに祝福される。気前はいいがあまり賢くないお金の使い方で知られるメッツにとって、これは恥辱の極みだ。ボニーヤにとっても、何もしないのに給料をもらっていると見られるのは名誉とは言いがたい。

大谷はベーブ・ルース以来の万能選手であるだけでなく、「お金の時間的価値(TVM)」の最も偉大な例証としてボニーヤに取って代わろうとしている。読者の皆さんはこの概念をご存じだろう。将来約束されたお金は今手元にあるお金よりも価値が低く、今支給された場合に金利で増える分を割り引かなければならない。金利(または「割引率」)が高ければその分、将来に繰り延べることで放棄する金額は多くなる。ボニーヤが2035年に受け取る119万ドルは、2001年に受け取った場合の価値よりずっと低い。

以下はPV=現在価値、FV=将来価値、R=割引率という、誰もが習う基本的なTVM公式だ。簡単そうに見えるが、それでも経営学修士号(MBA)を目指す学生を悩ませるのは昔から変わらない。興味のある読者や、ストレス障害を引き起こしても構わないというメンタルの強い人は、アイオワ州立大学によるはるかに詳細な分析を掘り下げてみる価値がある。

PV = FV/(1+r)

最も興味深いのは、大谷がたまたま日本出身だということだ。1994年7月生まれなので、1%の金利すら覚えていないはずだ。彼が2歳になる少し前から、日本の3カ月物国債利回りはその水準を下回っている。大谷世代および10年、あるいは20年上の世代は、TVMは現実味のない学問上の概念でしかなかった。今すぐに必要でなければ、10年後の100万ドルは今もらえる100万ドルと価値が変わらないというわけだ。

大谷選手と代理人らはこのことを十分に知っていたと思われる。しかしこの異例とも言える積極的な後払い措置が日本人によって提案されたことは、やはり感慨深い。待つことの代償はほとんどないという考えに抵抗がなければ、いろいろなことが可能なのだ。


さて、1000億円が手元に有ったらどうするのが良いでしょうか。

著名投資家ウォーレン・バフェットの総資産は14兆円で、そのうち、99%を寄付すると発表しています。したがって、約1000億円が相続財産となりますが、その運用方法については、以下のように述べています。

2023/08/30 PRESIDENT Online


ウォーレン・バフェットが妻に出した指示

ここにちょっと面白いエピソードがあります。ウォーレン・バフェット氏と言えば、世界最高の投資家といわれていますが、その彼が会長兼CEOを務めている投資会社バークシャー・ハサウェイは彼が経営権を握った1965年から2015年までの50年間で株価は約2万倍になっています。その間、アメリカの代表的な株価指数であるS&P500は140倍ですからバフェット氏のアクティブ運用の圧勝です。

その彼が2013年にバークシャー・ハサウェイの「株主への手紙」の中で、このように述べているのです。「プロではない投資家の目的はパフォーマンスの良い銘柄を選ぶことではないし、それを実際に行うことは本人もそのアドバイザーにも難しいだろう。むしろ大切なことは幅広く横断的に投資することだ。S&P500に連動する低コストのインデックスファンドに投資することによりこの目的は達成できるだろう」。さらに続けて彼は自分の妻に対して相続財産の運用として、運用の90%はS&P500インデックスを、そして残りの10%は米国短期国債を買うように指示したと述べています。


S&P500の代表的株式ETFであるSPYの30年間の価格チャートを見てみましょう。

1993年1月29日に43.94USドルだったのが、2023年12月15日には469.33USドルになりましたから、約30年間で10倍以上になりました。しかも、この間、毎年1%強の分配金が支払われています。

つまり、ウォーレン・バフェットの運用方法を採用すれば、少なく見積もっても、10年間で2倍になるでしょう。

したがって、今回の大谷の契約はとても不可解です。