私は、10年程前から、白米、食パンをやめて、玄米・大麦、全粒粉パンに代えました。
全粒穀物が健康に良いという記事を日経で学びます。
大麦、玄米…全粒穀物で死亡リスク減 エビデンス続々
全粒穀物の底力(上)
新型コロナ感染拡大が続き、あらためて健康維持の重要性を痛感している人も多いだろう。なるべく病気にかからず、スリムな体形も維持したい。ストレスに負けない心身でいたい――適度な運動や休息とともに、意識したいのが食生活。けれど、いろいろな情報があって数ある食材から何を選んだらよいのか、迷ってしまう。そんなときにお薦めできる注目食材が、全粒穀物だ。
全粒穀物とは、玄米や全粒粉、大麦やオーツ麦、ライ麦などの未精製の穀物のこと。「食物繊維が多く、ヘルシー」というイメージがあるが、実際に健康向上に強力に働くことが最新研究によって証明された。
2016年に、この全粒穀物や全粒穀物を使った食品を多く食べている人は心血管疾患などによる死亡リスクや総死亡率が下がり、糖尿病による死亡リスクは1日90gの全粒穀物で半分程度まで下がった、という研究が発表されたのだ(下のグラフ)。ちなみに糖尿病による死亡リスクを半減させた「90g」とは、3サービング分のことで、例えば1サービングは、全粒粉パン1切れ、全粒シリアル30gに相当する。
糖尿病は、30~40代から増加し始める生活習慣病で、厚生労働省の2019年「国民健康・栄養調査」では、「糖尿病が強く疑われる人」の割合は男性19.7%、女性10.8%(20歳以上)。年齢が高くなるほどその割合が高くなる。通常、糖尿病では「なるべく糖質の多い主食を減らす」ことが勧められるが、全粒穀物の場合、ある程度食べたほうがそのリスクが下がるというのだ。
糖尿病と全粒穀物ではもう一つ注目したい研究成果がある。2019年に、2型糖尿病の発生率と食事要因の関係を53の研究をもとに分析した前向き観察研究結果が報告された。
この研究では、2型糖尿病のリスクを減らす食品として「エビデンスレベル(科学的根拠の信頼性の度合い)が高い」とされたのは、あらゆる食品中で全粒穀物のみだった。全粒穀物の摂取量を1日30g増やすと13%、糖尿病リスクが低下していた。また、食品に含まれる成分別でみても、エビデンスレベルが高いとされたのは穀物から摂取する穀物繊維のみで、穀物繊維摂取量を10g増やすとリスクが25%低下した。ちなみに、同じ食物繊維でも、野菜と果物の食物繊維については、有意な相関なしとされている。また、同研究において2型糖尿病リスクを高める食品として、赤身肉(1日100g)、加工肉(1日50g)、ベーコン(1日2スライス)が「エビレンスレベルが高い」とされた[注1]。
全粒穀物というあまりお金のかからない食材で、しかも1日30g~90gとることによって病気のリスクを下げられるというのはうれしいニュースだ。穀物や海藻などの機能性について長年研究を行ってきた大妻女子大学家政学部の青江誠一郎教授は、「全粒穀物に関する研究は、2010年ぐらいから一気に加速し始め、現在もその勢いが止まることがありません。米国では心血管疾患予防、オーストラリアでは大腸がん予防、という死亡率を高める病気の予防対策として研究がさかんになりました。ここ数年、しっかりとしたエビデンスがそろい始めているのは素晴らしいことだと思っています」と言う。
[注1]BMJ. 2019 Jul 3;366:l2368.
食物繊維、抗酸化物質が削られずたっぷり残る
それにしても、全粒穀物でこのように幅広く疾患リスクが抑制されるのは、どうしてだろう。「その要因として多くを占めるのは、豊富に含まれる食物繊維の力でしょう。これに加え、外皮に含まれるポリフェノール類などの抗酸化物質、亜鉛やマグネシウムなどのミネラルも、まんべんなくとることができる。しかも、主食だからコンスタントにとれるということが、総合的に効いていると考えています」(青江教授)。
ここで、全粒穀物(Whole grain cereal)についておさらいしよう。
全粒穀物とは、外皮や胚芽をまるごと食することができる穀物のこと。白米や白パンでは、精白することによって外皮や胚芽を取り除くため、これらに含まれる食物繊維やポリフェノール、ミネラルなどの栄養成分が削り取られ、失われてしまう(下図)。
「でも、玄米はボソボソして苦手」という人は、食品売り場に行ってみよう。
米食でいうと玄米、発芽玄米、大麦[注2]、それに「五穀米」などとしてパッケージされている黒米、赤米、そば、きび、あわ、ひえなども全粒穀物だ。パン食なら、小麦の外皮や胚乳ごと粉にした全粒粉パン、外皮のふすまを含むブランパン、ライ麦パン。シリアルでは、オールブランや玄米シリアル、オーツ麦(オートミール)など。味も食感もさまざまな全粒穀物があり、幅広い選択肢があることを実感できるだろう。
[注2]麦ご飯用の大麦は、外皮が除かれているため厳密には全粒穀物ではないが、食物繊維量は全粒大麦とほぼ同じであることから同等に扱える。
全粒穀物には精製されると失われる成分が残っている
全粒穀物には食物繊維が豊富
食物繊維の量が多いわけでなく、全粒穀物の食物繊維はその「質の良さ」に注目したい。
食物繊維は、その性質から「不溶性食物繊維」と「水溶性食物繊維」に分けられる。不溶性は水に溶けず、水を吸ってふくらみ、お通じのかさとなったり腸の動きを促したりして便秘改善に働く。
いっぽう、水溶性は水に溶けてねばねばと粘性を持つ。野菜ではゴボウやチコリ、海藻類など、限られた食材にしか含まれない水溶性食物繊維だが、大麦やオーツ麦には水溶性食物繊維「β-グルカン」が豊富。「β-グルカンは、食物繊維の中でも別格の働きを持ちます」(青江教授)。
「β-グルカンは、一緒にとった食品と混じり合いながら胃や小腸をゆっくりと通過します。このため、胃で膨らんで満腹感を高める、糖や脂質の吸収スピードを緩めて血糖値の急上昇を抑えたり、血中コレステロールを下げたりといった働きが確認されています」(青江教授)。詳しくは第2回で解説してもらおう。
これまで、全粒穀物の機能性は、大きく2つに分けられて捉えられてきた。
●全粒小麦に代表される不溶性食物繊維=腸の疾患の予防や改善
●大麦やオーツ麦に多い水溶性食物繊維=脂質異常症や糖尿病の予防や改善、腸内有用菌のエサとなって腸内環境を整える
ところが近年、「不溶性といえばお通じ改善、腸のお掃除やさん」という認識をアップデートしなければならない発見があったという。
「腸内発酵の解析技術の進化によって、全粒小麦に豊富な不溶性食物繊維であるアラビノキシランが腸内で溶出して水溶性の性質を発揮し、腸内でさかんに発酵することがわかってきました。つまり、不溶性食物繊維も、その種類によっては腸内で発酵するのです。これからは、”発酵性食物繊維”という切り口で食物繊維を見ていく必要があると考えています」(青江教授)。
「腸内で腸内の有用菌がこれら発酵性食物繊維をエサにすると、短鎖脂肪酸という物質を生み出します。この短鎖脂肪酸には、満腹感を高めて肥満を抑制する、血糖値の急上昇を抑える、血圧を下げる、免疫機能に好影響を与えるなど、幅広い機能が見いだされてきています」(青江先生)。冒頭の研究のように、全粒穀物の摂取量が多いほどさまざまな病気を予防できるのは、腸内で発酵が起こることが関係していると考えられる。
全粒穀物のエビデンスを踏まえ、米国では毎日最低3サービング分(90g)の全粒穀物食品を摂取し、1日に食べる穀物の少なくとも半分以上を全粒穀物にすることを食事ガイドラインで推奨(2015-2020年版 米国人のための食事ガイドライン)。また、オーストラリア、カナダ、英国を含めたEU諸国、シンガポールなどの各国も、全粒穀物食の摂取を積極的に推奨している。
日本人は”穀物離れ”で食物繊維摂取量が減っている
一方、日本ではどうだろう。
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、「食物繊維摂取量は、数多くの生活習慣病の発症率または死亡率との関連が検討されており、メタ・アナリシスによって数多くの疾患と有意な負の関連が報告されているまれな栄養素である」という食物繊維に関する記述が入っているものの、「何から食物繊維をとるべきかということにも、全粒穀物についても、一言も触れられていません。国は白米の摂取量を増やすことに重きを置いていますが、大麦を混ぜたご飯や玄米を主食にすれば健康になります、という指針を示した方が白米離れにもブレーキがかかるのでは、と思っています」(青江教授)。
日本人が全粒穀物をもっと取る必要があるのは、そもそも食物繊維の摂取量が1955年の20g以上から現在の約14gへと一気に減少していることと深く関係している(下のグラフ)。しかも、グラフをみると、穀類からの食物繊維摂取量が約7割も大幅に減少し、食物繊維摂取の減少に大きく影響を与えていることが読み取れる。
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」で定められている食物繊維目標量は、「1日あたり成人男性21g以上、成人女性18g以上」。現状の食物繊維摂取量では、「不足」の状態にあることがわかる。
白米ごはんには100gに0.6gの食物繊維しか入っていない。「たとえ、食物繊維を少ししか含まない白米だといっても、日々、コンスタントにとる主食であるために、全体量への影響が大きくなるのです。米離れとともに、大麦などの雑穀が食べられなくなったことも原因のひとつです。日本人の食物繊維の補給源は、穀類が重要です。まず、しっかり主食をとること。さらに、主食を全粒穀物に変えると、楽に、簡単に、効率的に食物繊維の摂取量を増やすことができます」(青江教授)。
穀物由来の食物繊維量が大幅に減っている
でも、糖質のとりすぎは良くないんでしょう? という疑問はもちろん正解だ。
糖質をとりすぎると、血糖値が急上昇し、糖を処理するためにすい臓から分泌されるインスリンの働きによって余った糖が内臓脂肪としてためこまれ、肥満につながる。また、糖尿病の発症要因になったり、皮膚のたるみやしわ、動脈硬化を引き起こす「糖化」の一因にもなる。糖質の過剰なとりすぎはメタボや老化を加速させる。
「しかし、それは砂糖を多く含む菓子や清涼飲料水のとりすぎ、白米や白パンといった精製された穀物のとりすぎに問題があるということです。安易に主食の摂取量を減らしてしまうと、食物繊維不足に拍車がかかります。さらに、穀物由来のでんぷんや食物繊維を腸で待ち構えている乳酸菌やビフィズス菌などの腸内細菌のエサの枯渇を招き、私たちの健康を支えている腸内細菌叢にも悪影響が及ぶのです」(青江教授)。
私たちの健康を下支えする全粒穀物についてしっかり見直していきたい。第2回では、巣ごもり生活で気になる「メタボ」を改善する働きについて、さらに見ていこう。
全粒穀物で内臓脂肪や血糖値改善 効果得る2つのコツ
全粒穀物の底力(中)
主食を大麦にすると満腹感が高まり、内臓肥満が改善する
前回記事(「大麦、玄米…全粒穀物で死亡リスク減 エビデンス続々」)では、全粒穀物を継続的にとる食生活によって糖尿病、心血管疾患、がんや脳卒中による死亡リスクが低下すること、数ある食品のなかでも全粒穀物は糖尿病発症予防に高い有効性を発揮することなどの世界の最新研究報告についてお伝えした。
テレワークが中心になり、運動不足によって体重が増え、健康診断の数値が悪化してきたり、糖尿病や高血圧、脂質異常症といったメタボリック・シンドロームが気になったりする人も多いかもしれない。ぜひ、すぐに取り組める食生活対策として全粒穀物の摂取を始めよう。
「日本人はもともと全粒穀物を多くとる食生活を送っていました」と、大妻女子大学家政学部の青江誠一郎教授は言う。
1960年ごろまで、日本では大麦を代表とする雑穀がよく食べられていたが、食感の良い白米やパン食の普及とともに、主食は精製穀物に切り替わった。それにより食物繊維摂取量はしだいに減少。そして、1970年代から欧米型の食生活が主流となると、脂質過多(特に、動脈硬化のリスクを高める飽和脂肪酸の摂取量の増加)が起こり、並行して食物繊維摂取量はどんどん減少。その結果、大腸がんなどの病気のリスクが上昇してきた。
だからこそ、体をリセットする食事の根幹として、日々の主食を全粒穀物にスイッチすることが健康維持には有効といえる。
食物繊維は便秘解消のためにとるもの、という認識だけではもったいない。では、数ある全粒穀物の中で、私たちは何を選べばいいのだろうか。青江教授が勧めるものの一つが、全粒穀物の中でも多彩な機能性を持つ水溶性食物繊維β‐グルカンを豊富に含む「大麦」だ[注1]。大麦は、そのメタボ改善効果が日本人を対象にした研究で確認されているという。青江教授は、白米を大麦ごはんに置き換えることによって、日本人の内臓脂肪肥満が軽減できるかを検証する研究を行った。1日2食の3割大麦配合ご飯(β-グルカン1日あたり2.8g)を12週間とることで、腹囲と内臓脂肪面積が有意に減少した(下グラフ)。
大麦のβ‐グルカンで内臓脂肪肥満が改善した
大麦の内臓脂肪肥満の改善効果について、青江教授は「大麦の水溶性食物繊維は、ねばねばとした粘性があるため、食べると胃の中でふくらみ、長くとどまります。また、満腹感を高める消化管ホルモンの分泌にも影響して食べ過ぎを抑え、食事のエネルギー摂取量を低減させることができます」と説明する。
青江教授は、朝食で大麦ごはんを摂取すると、白米ごはんを摂取した場合と比較して、満腹感が高まり、昼食時のエネルギー摂取量が有意に減少することを別の研究でも確認済みだ[注2]。また、朝食あるいは昼食に大麦を含む食事をとることで、次の食事の血糖値の上昇を抑えることや、血中コレステロールの低下作用も確認している。
つまり、大麦はダイエット、血糖値抑制、コレステロール抑制の効果が実証されているのだ。
[注1]麦ご飯用の大麦は、外皮が除かれているため厳密には全粒穀物ではないが、食物繊維量は全粒大麦とほぼ同じであることから同等に扱える。
[注2]Plant Foods Hum Nutr. 2014; 69(4): 325-330.
もち麦、オートミール、全粒粉パン。いずれもメタボを改善
大麦というと、従来の押し麦のようなポソポソした食感をイメージするかもしれないが、すっかり人気も定着している「もち性大麦(もち麦)」は、冷めても硬くなりにくく、もちもちした食感が特徴で、食べやすい。
これまでの研究をもとに、青江教授は「もち麦を白米に3割混ぜたものを1日2食でβ-グルカンを約3gとることができます。内臓脂肪低減効果や、コレステロール正常化効果は、このような十分実現可能な量で得られるのです」と話す。
これらの研究を受け、日本では、大麦由来β-グルカンについて以下の3つが「機能性表示食品」に表示されている。
● 血中コレステロール正常化作用
● 食後血糖値上昇抑制作用
また、世界でも、β-グルカンを豊富に含む大麦やオーツ麦で、以下のような健康強調表示が認められている。
β-グルカンは世界でもその健康機能が認められている
もちろん、全粒穀物はもち麦だけにあらず。いろいろな種類の全粒穀物がスーパーマーケットに並んでいる。
「大麦と同様に、β‐グルカンを豊富に含むのが、オーツ麦(オートミール)。オートミールでも大麦と共通した効果が得られると理解してください」(青江教授)
では、全粒小麦や小麦ブラン(オールブラン)はどうなのだろうか。これらには、不溶性食物繊維の1つであるアラビノキシランが含まれている。このアラビノキシランは、不溶性食物繊維でありながら腸内で発酵する働きがあることがわかってきたことは、前回もお伝えした通りだ。大麦やオートミールだけでなく、小麦を含めて全粒穀物全般にメタボ改善効果があるととらえて、食べやすいものからトライするといいだろう。なお、アラビノキシランは、全粒小麦粉や、小麦ブランには豊富で、そのほか大麦やオーツ麦、また量は少ないものの玄米や発芽玄米にも含まれている。
さて最後に、メタボ改善などの効果をしっかり得るために、どんな点に気をつければいいのかを聞いてみよう。青江教授は2つのコツがあるとアドバイスする。
1. 毎日とり、長く続ける
主食を全粒穀物に置き換えて、毎日、長い期間継続すること。「腸内環境を変えるには、コンスタントに腸内細菌のエサとなる食物繊維を送り届けることが大切です。1日1回が習慣化しやすいのならまずはそこから始める。朝食でとるのを達成できたら、夕食にも取り入れてみる、というふうに回数を増やしていきましょう。1日2回の全粒穀物で、ヒト試験においても効果が得られています」(青江教授)。
2. 多様な食材からとる
1種類だけに偏らず、いろいろな種類の全粒穀物をとろう。「大麦のβ-グルカンは、大腸の真ん中あたりまでで発酵する一方、全粒粉や小麦ブランに含まれるアラビノキシランは、食物繊維が絡まり合っているため、長い大腸を通過するうちに発酵を受けやすい状態に変わり、大腸の奥のほうで発酵します。腸の入り口から奥まで、まんべんなく発酵が起こるように、多種類の全粒穀物をとりましょう」(青江教授)。
血圧低下、大腸がんリスクを下げる働きも
全粒穀物の健康効果は多岐に及ぶ。最新研究から高血圧の改善や大腸がんリスク低下も期待できることが見えてきた。
高血圧は、心筋梗塞や脳卒中など突然死リスクを高くするが、その代表的な対策である減塩を継続するのは難しく、セルフケアではなかなか改善しにくいのが問題とされている。全粒穀物には、この高血圧のリスクを下げる可能性も見いだされてきている。
高血圧を発症していない19~68歳の日本人男女944人を3年間追跡した研究からは、これを裏付ける結果が得られた。この研究では、対象者に食事アンケートを行い、全粒穀物の摂取量を評価したが、全粒穀物を「ときどき、またはいつも摂取する」グループは、「全く摂取しない」グループよりも高血圧の発症リスクが有意に低かった[注3]。
この結果に対して青江教授は、「まだメカニズムは確認されていませんが、食物繊維をとることによって腸内の発酵が促されて産生される短鎖脂肪酸が、血圧調節を邪魔する腎臓の毒素を減らすのでは、と推測しています」と語る。
さらに、全粒穀物の摂取量は日本人女性の死亡率1位、男性の死亡率3位である「大腸がん」リスクと関連が強いこともわかってきた。
2019年に発表されたアメリカの研究[注4]において、全粒穀物の摂取量が少ない人では大腸がんリスクが高まる、と報告されたのだ(下グラフ)。この研究は、食事とがんリスクとの関連を評価したもので、数あるがんの中でも、食事の影響が最も大きいのは大腸がん(結腸・直腸がん)だった。そして、大腸がんのリスクの中で最も関連が深いのが「低全粒穀物」、つまり全粒穀物の摂取量が少ないことだとしている。
[注3]Nutrients. 2020 Mar 26;12(4):902.
[注4]JNCI Cancer Spectrum (2019) 3(2): pkz034
全粒穀物摂取が少ないと大腸がんリスクが高くなる
青江教授は、大腸がんリスクと全粒穀物の関連についてこう話す。
「腸内細菌叢(さいきんそう)の乱れは、腸内細菌の種類の減少(多様性の低下)や有用菌の減少をもたらし、炎症性腸疾患や肥満症、動脈硬化、糖尿病、がんなどの病気リスクを高めることが報告されています。いっぽう、全粒穀物をとると、豊富に含まれる発酵性食物繊維をとることができ、腸内の発酵によって短鎖脂肪酸が産生されます。この短鎖脂肪酸が、腸内を有用菌のすみやすい環境に整えたり、腸粘膜バリアを保護したり、炎症を抑えるといった働きをすることに関わるのではないでしょうか」(青江教授)
メタボ改善にも大腸がんリスク予防にも関わる短鎖脂肪酸を増やすには、全粒穀物をしっかりとることで腸内細菌叢を改善することが重要だ。
メタボ改善や大腸がん予防を念頭に、ぜひ毎日とりたい全粒穀物。最終回では、パン派、ごはん派がそれぞれどのように全粒穀物を取り入れていけばいいかを聞いていこう。
全粒穀物、朝とれば昼も効果 2~3カ月で体重も変化
全粒穀物の底力(下)
大麦を朝食に。昼食でも血糖値が抑えられる
第1回(「大麦、玄米…全粒穀物で死亡リスク減 エビデンス続々」)、第2回(「全粒穀物で内臓脂肪や血糖値改善 効果得る2つのコツ」)と、全粒穀物の健康効果についてお伝えしてきた。今回は、どんな全粒穀物を選び、どのぐらいを目標にとればよいかについて聞いていこう。大妻女子大学家政学部の青江誠一郎教授は、「まずは朝食の主食を全粒穀物に置き換えましょう。昼食でセカンドミール効果が得られます」とアドバイスする。
「セカンドミール効果」とは、1982年にトロント大学のジェンキンス博士によって発表された概念で、最初にとる食事(ファーストミール)が、次の食事(セカンドミール)の後の血糖値に影響を与えて血糖値が抑制されることを言う。
前回記事で紹介したように、内臓脂肪や腹囲の減少、コレステロール抑制などメタボ解消に役立つことが日本人で確認されているのが大麦だが、この大麦を配合したご飯でも、セカンドミール効果が確認されている(下グラフ)。
朝食に大麦ご飯を食べると昼食時の血糖値上昇も抑える
青江教授は、大麦のセカンドミール効果のメカニズムを以下のように説明する。
「血糖値の上昇が抑えられるのはもちろん、朝食時に全粒穀物をとれば、満腹感が高まるために、昼食の食べ過ぎも抑えられます」(青江教授)
同様に2020年には、健康な日本人を対象に、大麦粉パン(β-グルカン2.5gを含む)によっても同様にセカンドミール効果が得られることが確認されている[注1]。
[注1]Nutrition. 2020 Apr;72:110637.
ご飯派もパン派も、全粒穀物の選択肢はさまざま
2014年には、朝食に全粒穀物を摂取する利点についての232の研究をとりまとめて評価した論文も発表されている[注2]。「この論文では、全粒穀物や高穀物繊維食は、2型糖尿病のリスク低減、過体重や肥満のリスク低減では『グレードB:おおむね信頼性の高いエビデンスあり』とされています。また、オートミール(オーツ麦)、大麦を含むシリアル食品は、血中コレステロールを低下させる、という機能において『グレードA:信頼性の高いエビデンスあり』、高穀物繊維の小麦シリアルの腸機能改善効果も、グレードAと評価されています」(青江教授)
[注2]Adv Nutr. 2014 Sep 15;5(5):636S-673S.
健康度アップに全粒穀物を取り入れるなら、このようにエビデンスが後押しする食べ方である「朝食での全粒穀物」から始めたい。
ではここから、ご飯派、パン派の方それぞれにお勧めの食べ方を紹介していこう。
大麦ご飯 雑穀ご飯 玄米
まずはご飯から。全粒穀物がいくら体にいいといっても、全粒穀物だけだとなじめない人もいるだろう。なので、ご飯に全粒穀物を足すところから始めよう。
例えば、ご飯に大麦を3~5割混ぜることでメタボ改善効果のある水溶性食物繊維、β-グルカンを得られる。また、玄米には不溶性食物繊維の一つで、腸内で発酵を進めるアラビノキシランが含まれる。
「ご飯食のいいところは、雑穀も加えられること。雑穀は、食物繊維源であるのに加え、多様なポリフェノール源にもなります。ご飯を炊くときにはぜひ雑穀も加えましょう」(青江教授)
全粒粉パン ライ麦パン 小麦ブラン(ふすま)入りブランパン 小麦ブラン オートミール(オーツ麦) 大麦のシリアル
続いて、パン派の人にお勧めの食べ方だ。最近は全粒粉を使ったパンなども手に入りやすく、シリアルの品ぞろえも多彩だ。自分の好みに合わせたチョイスもできる。
「全粒粉パン、小麦ふすま、ライ麦には、腸で発酵するアラビノキシランが豊富。オートミール(オーツ麦)には、β-グルカンが豊富です」(青江教授)
シリアルは、ヨーグルトや牛乳と混ぜるのがポピュラーな食べ方だが、オートミールの場合、水や牛乳を加えて温めるとホカホカのお粥(かゆ)になるので、冬の朝食にもお勧め。全粒粉パンは、できれば全粒粉の配合率の高いものをチョイスしたい。小麦ふすまを使ったブランパンもコンビニなどで手軽に手に入る。
青江教授は、日本人男女を対象とした試験で、オートミール粥1日60g(β-グルカン2.1g)でコレステロール値が下がることを確認している(下グラフ)。
オートミールのお粥でコレステロールが減少
ここまでの説明で全粒穀物の健康効果は理解していただけたと思う。ぜひ積極的に日々の食事に取り入れていただきたい。では、具体的に1日にどのぐらいの量をとればいいのだろう。
「海外の複数の研究によって示されている有効な量は、1食30gの全粒穀物を、1日3回(3サービング[注3])です。理想的な量をとるなら、3食とも全粒穀物をとるのが望ましいですね。しかし、まずは朝食で1回とることから始め、慣れてきたら、夕食の主食を大麦ご飯などにするといいでしょう。コンビニでももち麦おにぎりやもち麦入りサラダなどがあり、大麦配合のうどんなどもあります」(青江教授)
[注3]「1サービング」は、全粒粉パン1切れ、全粒シリアル30gに相当。
もちろん青江教授も、全粒穀物をしっかり3食に取り入れているという。「朝食は、小麦ブラン、大麦、オートミールが入っているものを常備し、その日の気分でブレンドして食べています。心疾患や糖尿病の予防が期待できる乳製品由来のカルシウム源として、シリアルにはヨーグルトを合わせます。昼食はコンビニで、根菜や枝豆が入った食物繊維がリッチなサラダを選びます。夕食は、ご飯は必ず大麦ご飯です」(青江教授)
では、全粒穀物の摂取を始めたら、どのぐらいの期間で効果が得られるのだろう。青江教授は、「腸内細菌叢(さいきんそう)が変化してお通じの改善や、ガスが減りお腹のはりの改善を実感できるのは2週間ほどたってからでしょう。内臓脂肪の減少、コレステロール減少、体重減少などは、2~3カ月後ぐらいになります。とにかく大切なのは継続すること。おいしく食べられ、無理のない方法で続けてみてください」と言う。
豆類や海藻、発酵食品も加えてパワーアップ
主食を全粒穀物に変えたなら、もう一つ意識したいのが「おかず」。食物繊維が豊富な食材を1品おかずに追加すれば、食物繊維摂取量を3~5gほど上乗せできる。
「日本人は、副菜からも多く食物繊維をとっています。水溶性食物繊維を豊富に含むわかめ、ひじき、昆布を取り入れましょう。また、豆類に豊富に含まれるレジスタントスターチ(難消化性でんぷん)は食物繊維と同じような働きをします。大腸の奥のほうまで到達して発酵し、短鎖脂肪酸[注4]を産生します。野菜ももちろんたっぷりとることが重要ですが、葉野菜などに主に含まれるのは、セルロースなどの発酵性の低い不溶性食物繊維なので、根菜類がお勧めです。そして、豆や海藻を意識してとることが、メタボ改善には有効です。間食にはナッツや果物をとるようにしましょう」(青江教授)
[注4]短鎖脂肪酸には、満腹感を高める、血糖値の急上昇を抑える、血圧を下げる、免疫機能に好影響を与えるなど、幅広い機能があるという(第1回記事「大麦、玄米…全粒穀物で死亡リスク減 エビデンス続々」参照)。
あわせて、腸における発酵作用を高めるために意識したいのが、乳酸菌や納豆菌などのプロバイオティクス食品。「ヨーグルトや納豆、漬物(植物性乳酸菌)を合わせてとると、これらが腸を通過するときに腸内での発酵を手助けし、短鎖脂肪酸産生アップが期待できます」(青江教授)
第1回記事(「大麦、玄米…全粒穀物で死亡リスク減 エビデンス続々」)で触れたように、日本人の食物繊維摂取量は、約14gで、「日本人の食事摂取基準」(2020年版)で目標とされる「1日あたり成人男性21g以上、成人女性18g以上」よりも少ない。「主食を全粒穀物にし、副食で海藻や豆を選べば、1日あたりの食物繊維摂取量を5~10g追加することができ、目標をクリアできます」(青江教授)
以下に、1食あたりでとることができる食物繊維量の目安を、主食、おかず、間食ごとにリストアップしたので参考にしてほしい。
1食分でとれる食物繊維量の目安
いかがだっただろうか。主食を全粒穀物に変え、さらにおかずにも工夫を加えたら、食物繊維たっぷりの生活ができるはず。おいしい食べ方を工夫しながら、ぜひ全粒穀物ライフを始めてみよう。