個人投資家の金融リテラシー5

<問2に続きます。>

問3. 金利が上がっていくときに、資金の運用(預金等)、借入れについて適切な対応はどれでしょうか。
① 運用は固定金利、借入れは固定金利にする
② 運用は固定金利、借入れは変動金利にする
③ 運用は変動金利、借入れは固定金利にする
④ 運用は変動金利、借入れは変動金利にする
⑤ わからない

金利が上がって行くのですから、今年より来年の金利が高くなります。借り入れをするなら、金利の高い来年でなく、今年固定金利で借り入れた方が得です。運用するのであれば、来年の金利を利用した方が得ですから、今年の固定金利で運用するのでなく、変動金利で来年の高い金利を利用した方が得です。

金利の動向は誰にも分らない

以上は、簡単な問題でしたが、問題は来年の金利が今年より高くなるかどうかが分からないことです。

マイナス金利を予想できたか

現在日本が陥っているような低金利を10年前、20年前に予想していた人はいなかったでしょう。しかも、当時、マイナス金利なんてことを言いだせば、「頭がおかしいんじゃないか。」とも言われました。私もそう思っていました。そして、ヨーロッパが、日本より低い金利になったことも全く意外でした。

住宅ローンの変動金利

住宅ローン金利も超低金利が続いています。ここまで低金利が進むとは考えなかったでしょうから、変動金利で借りた人が得をした時期でした。

プロも将来の金利は分からない

これは素人だけの予測では有りません。日本銀行の黒田総裁は、秀才が集まる大蔵省・財務省キャリアの中でも、群を抜いて頭が良いと言われてきた人です。彼は異次元の金融緩和政策を実施して7年になりますが、自信を持って実施したものの、ほとんど効果がありませんでした。ある時、「教科書どおりにはいかないものだ。」とぼやいたこともありました。

今日の株価予想は素人でもできる

テレビ東京では、毎朝、今日の株価予想、為替予想をしていますが、大抵の場合は、昨日の終値を中心として上下同じ幅で予想しています。これでは何も予想していないのと同じです。ただし、日本時間の深夜にアメリカのダウがはっきりした原因で上下した場合には、中心がずれることがありますが、それは素人でも予想できるものです。

アノマリーも無意味化

将来のことは分からない、ということが最大の問題です。将来のことが確実でなくとも、8割、9割の確率で分かれば、それに賭けて大儲けをできます。大儲けをできる方法があれば、その方法を他の人が取り入れることによって、結局は儲からなくなるというのが投資の世界です。アノマリーは徹底的に研究され、その後追いが増えることによってアノマリーで無くなります。

アノマリーとは

アノマリーAnomalyとは、効率的市場仮説では説明のつかない証券価格の変則性のことです。明確な理論や根拠があるわけではないのですが当たっているかもしれないとされる相場の経験則や事象である場合が多く、たとえば、「1月効果」、「5月に売り逃げろ」(Sell in May and go away)、「曜日効果」、「モメンタム効果」、「リターン・リバーサル」、「低PER効果」、「小型株効果」などがあります。

最高のプロでも51.6%

経済評論家の豊島逸夫氏は金を中心にディーラーをしていましたが、過去の勝敗は1600勝1500敗だそうです。勝率は51.6%です。当人は今年72歳ですから、コンピュータによるアルゴリズム取引が普及する前の時代に取引の現場にいた方です。現在、もし少しでも有利な方法があればコンピュータによってマネされてしまうでしょう。ウォーレン・バフェットも最近は勝率が落ちています。もし、自分の勝率が高いと考えるのは、勘違いといえるのではないでしょうか。

将来のことは分からない

従って、問題文の中にある「金利が上がっていくときに」という表現は、後になって分かることで、現実世界では事前に把握することはほとんどあり得ないことだと思います。

それでも対策は必要

しかし、将来のことが分からなくても、自分なりに対策を講じておかなければならない問題があります。それが日本財政と円安・インフレの問題です。

円が安全資産でなくなる日

次の文章は、先日も掲載したJPモルガン・チェース銀行為替資金統括本部債券為替調査部長マネジングディレクターの佐々木融氏の見解です。

「日本は、日銀の金融緩和政策に頼り過ぎた結果、緩和余地がほとんどなくなっている。次に世界経済が深刻な後退局面を迎えたときには、恐らく財政支出に頼らざるを得なくなるだろう。もし、政府が、日本の企業や投資家よりも先に景気後退の恐怖に耐えられなくなり、財政支出を大幅に拡大し、大盤振る舞いを始めたとき時、それに気が付いた企業や投資家は、海外への投資資金を日本に戻すことをしないかもしれない。」

このような時には、円安とインフレが大幅に進むことになります。もしその時、自分の金融資産の大半を現金・銀行預金で持っていると大きな損失を被ることになります。

外貨に適切に逃避できるか

こういう事態に陥ったら、その時に外貨MMFや外貨ETFを買えばよいという経済評論家もいます。しかし、金融資産を外国に逃避させるような緊迫した状況の中で、購入経験のない外貨MMFや外貨ETFを一般庶民が正しく買えるのでしょうか。間違ってトルコリラに預金してしまうのではないでしょうか。

知識、勇気、決断力、胆力

外貨MMFや外貨ETFはどこで買えるのかもわからないかも知れません。人に聞けば、「野村證券で買える」という人もいますし、「そんな高いものを買わずに、ネット証券で買え」という人もいます。どっちを信じたらいいのでしょうか。金融資産が3000万円あったら、いくらを外国に逃避させれば良いのでしょうか。外貨建商品を買うには知識だけでなく、勇気、決断力も必要です。一時的に1割、2割下落することがありますが、その時の胆力は突然身に就くものでは有りません。

準備しないと力はつかない

知識、口座、勇気、決断力、胆力を身につけるのは一朝一夕ではできません。3年、5年かけて少しずつ積み重ねるしかないように思えます。