日米シニア層の保有資産比較

高齢社会

退職後に保有している資産額は、日米でどうなっているのでしょうか。平成30年7月3日の金融庁の「高齢社会における金融サービスのあり方(中間的なとりまとめ)」に基づいて考えてみましょう。

アメリカは3倍、日本は変わらず

日本は1990年代も現在も約2060万円で変化がありません。アメリカは1990年代は日本よりやや低かったのですが、現在は5870万円で約3倍になっています。

なぜ、これほど大きな差が生まれたのでしょうか。その理由は簡単に説明できます。

現金預金と株式

3つの帯グラフは、上から日米欧です。左が現金・預金、中央に株式等、その左に投資信託があります。日本の現金・預金は53%もありますが、アメリカは13%しかありません。一方で株式等と投資信託の合計は、日本が14%しかないのにアメリカは42%もあります。

現金・預金は資産が増えないのに対して、株式・投資信託は複利で増えます。

SPYは6倍以上に成長

代表的な株式ETFであるSPY(アメリカSPDRのS&P500のETF)は、6倍以上の価格に成長しました。この価格以外に約2%の分配金も手にすることができたのです。

アメリカの資産形成制度

さらに、アメリカでは退職口座(IRA、401k等)、投資信託を中心として、退職後も含め現役時代から資産形成を継続して来たことが好結果につながってきたと言えるでしょう。

居住地

金融庁のこの報告書には、退職世代の現状として居住地の選択状況もあります。

純転入者上位10市区町村は、以下の通りです。

市区町村名 人数
札幌市 11,185
福岡市 3,402
千葉市 2,201
八王子市 1,664
青梅市 1,615
相模原市 1,498
さいたま市 1,479
柏市 1,326
仙台市 1,259
旭川市 1,031

また、純転出者上位10市区町村は以下の通りです。

市区町村名 人数
世田谷区 3,458
大田区 3,341
横浜市 3,173
杉並区 2,850
品川区 2,619
練馬区 2,399
新宿区 2,192
北区 2,190
目黒区 2,189
中野区 2,043
    この表から次の結論を導いています。
  •  全国的に高齢化が進む中、退職世代等は、自らのライフスタイルやニーズ(故郷、生活コスト、医療・交通環境等)を踏まえ大都市から地方都市や郊外への移住、若しくは利便性の高い都市部への移住等、居住地の選択が多様
  • 地域ごとに流出入の理由や居住者の属性も様々であり、その多様性に応じた金融サービスの提供が重要

23区から千葉・埼玉・市部へ

この表の数字は、東京23区の都心から東京周辺部に引っ越す動きを示しています。私の家の周辺でも老朽化した家を建て替えるのではなく、土地を売却して引っ越す人がいます。その一方で、札幌市、福岡市、仙台市、旭川市は若い人が周辺の市町村から集まってきているようです。

坂が多く、駅から遠い住宅地は敬遠

逆に神奈川県のベッドタウンでは、見晴らしの良い丘の上に一戸建てを1億円以上かけて建てた家が多数あります。昭和の時代には、御主人がそこから東京などの会社に通っていましたが、そのご主人も亡くなり、おばあさんしかいない家が増えているそうです。見晴らしは良いのですが、駅まで遠く、病院通いや買い物に不便なので、買い手がつかないそうです。現在は、若い人も高齢者も駅まで数分の便利な住宅を好みます。

バスも敬遠

私の友人で、比較的東京に近い神奈川県に家を買った人がいました。しかし、駅からはバスに乗らないと家につけません。バスは本数が少なく夜遅くなると運行していません。バス利用は不便なので、「もう少し東京から遠くても、バスを使わずに済むような、駅から近い家が良かった。」と嘆いていました。

老老相続

高齢者の抱えている問題の一つが、相続の問題です。年々、相続財産が増加していますが、高齢化の進展により老老相続となっていて、その結果、現役世代に資金が回っていません。私の父も100歳近くまで生きていましたから、私が相続した年齢は61歳でした。ただし、私は相続時精算課税制度を利用して、50歳で住宅建設代金の一部を贈与してもらいました。

相続時精算課税

相続時精算課税の制度とは、原則として60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。この制度を選択する場合には、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日の間に一定の書類を添付した贈与税の申告書を提出する必要があります。

暦年課税への変更不可

なお、この制度を選択すると、その贈与者から贈与を受ける財産については、その選択をした年分以降全てこの制度が適用され、「暦年課税」へ変更することはできません。

相続財産に加算

また、この制度の贈与者である父母等が亡くなった時の相続税の計算上、相続財産の価額にこの制度を適用した贈与財産の価額(贈与時の時価)を加算して相続税額を計算します。このように、相続時精算課税の制度は、贈与税・相続税を通じた課税が行われる制度です。

暦年課税の基礎控除は110万円

暦年課税には年間110万円の基礎控除があります。 贈与には贈与税が課税されますが、贈与税は課税価格(贈与税の課税対象となる1年間に受けた贈与の総額)から基礎控除額を差し引いた金額に対して課税されます。 ですので、年間110万円までは、贈与を受けても贈与税が課されません。

住宅取得資金の非課税贈与制度

相続時に精算課税するのではなく、贈与する非課税制度もあります。これは2021年(令和3年)12月31日までに、20歳以上の人が住宅を取得するための資金を親や祖父母から援助を受けたとき、一定金額が贈与税の非課税になる制度です。最高3,000万円です。