「敗者のゲーム」著者 チャールズ・エリス のインタビュー 総集編

チャールズ・エリス氏がNIKKEIマネーの学びでインタビューに応じていますので、勉強しましょう。

エ:チャールズ・エリス  イ:インタビューアー

イ:まず、最初に、なぜ株式投資が「敗者のゲーム」になってしまったのか、その理由について手短に教えてください。また、「敗者のゲーム」となった株式投資で勝つために、インデックス投資が最適である理由を教えてください。

エ:(株式投資が敗者のゲームになってしまった原因としては)3つの難問がある。

1つ目は、貯蓄は常に難しいことだ。

2つ目は長期投資だ。いや、実は長期投資はさほど難しいことではない。長期にわたって収益性を高める企業の株を保有すれば、長期にわたって株価は上昇し、価値を増すからだ。

一方で、多くの人が突き当たる問題がある。それは、市場平均を上回るリターンを得ようとすることだ。それが可能な銘柄を見つけ出そうとして、売買を繰り返してしまう。だが、市場平均を上回るリターンを上げることは極めて困難だ。というのも、他の多くの投資家も良いリターンを上げるためにベストを尽くしているからだ。

アクティブ型の投資信託を運用するマネジャーの報酬と運用コストを足し合わせると、それらを差し引いてもアクティブ投信が市場平均を上回る成績を上げるのは至難の業だ。実際85%のアクティブ投信が市場平均に負けている。株価指数に連動するインデックス投信やETFの人気が年々高まっているのはそのためだ。

イ:株式市場には多くのプロがひしめき合っています。ですから、誰も長期にわたる勝者に慣れなくなっているというわけですね?

エ:その点については少し慎重に説明しよう。長期にわたって市場平均を上回るリターンを上げることは極めて困難だが、それを達成する方法がないわけではない。では、その例外を教えよう。聞きたいかな?

イ:OK

エ:非常に優れたアナリストの集団を抱えた運用会社で、他者が関心を寄せていない小さな企業を研究していて、その企業が属している業界にも詳しい会社だったら、その運用会社は長期にわたって市場平均を上回ることができるだろう。

しかし、そうした運用会社を見つけることもまた困難だ。さらにそういう会社には、巨額の資金が集まる。そのために彼らは優れた成績を上げることができなくなる。

イ:株式投資が敗者のゲームになった理由の一つとして、効率的な市場仮設にも言及してますね。

エ:著書でも記したように、市場が効率的になった原因は複数ある。まずは、非常に多くの人がアクティブ運用に携わるようになったことだ。50年前には約5,000人だったが、今では世界中で100倍の少なくとも50万人、おそらく100万人のアクティブ運用のプロがいるだろう。

2つ目の原因として、資産運用の進化の過程で多くのプロが淘汰され、今では極めて優れたプロだけがアクティブ運用を手掛けていることがある。

極めて優れたプロを見つけることは簡単なのだが、そのプロの中でも勝ち続けられる飛びぬけたプロを探し出すことが困難なのだ。

また、上場企業は誰にでも公平に情報を開示することを当局から求められている。その傾向は強まるばかりだ。結果として、上場企業に関する膨大な情報が入手可能になった。しかもその情報を誰もがほぼ同時に手に入れられる。こんな状況は50年前には無かった。

イ:多くのプロが競い合う一方で、多くの人があらゆる情報を同時に入手できるようになり、その結果株式市場は効率的になったということですね。それでも市場は時に乱高下を繰り返しています。市場が正気を失っているように見えることもあります。効率的であるにもかかわらず、市場はなぜそうした状況によく陥るのでしょうか?

エ:いい質問だね。

50年前には、人々の情報量や情報の正確性、情報を入手する速度に大きな差があった。それらの差はすべて今や消滅した。しかし、依然として人々は将来になにが起きるかを推測しなければならない。さらに将来に起きると思われる出来事に対して、市場で競い合っているほかの人達が今どう反応するかについても推測しなければならない。

非常に賢い人たちが、それぞれ同じ情報をどう評価して、どう反応するかを推測し合っているというわけだ。

一歩退いて、1日の市場の動きや1か月間あるいは1年の市場の動きから目を離し、代わりに25年の市場の動きを俯瞰したら、さほど揺れ動いていないと感じるだろう。

新型コロナウイルスに対する懸念が市場を覆っていた時期を除けば、市場の軌跡はほぼ直線に近い線を描いているはずだ。市場を突き動かしているのは、ファクト(事実)だけではない。

それと少なくとも同じ程度に、人々のオピニオン(意見)が市場を突き動かしている。ファクトはいつも我々の背後に潜んでいて、我々はそれになかなか気づかない。それに対して人々のオピニオンは常に我々の目の前にある。誰もが異なるオピニオンを持ち、さらにお互いのオピニオンに対してオピニオンを持つ。

それが市場のボラティリティー(変動率)を大きくする一因になっている。

イ:米国だけでなく、世界各国の株式市場がコロナショックで暴落した後に劇的に回復し、米国の主要株価指数は史上最高値をたびたび更新してきました。

この劇的な市場の回復についてはどのような感想を抱いていますか。

また、今回の経験から個人投資家は何を学ぶべきでしょうか?

エ:一つは、我々はコロナ禍を深く憂慮したり、コロナ禍が収束に向かう明るい兆しに歓喜したりしてきたが、その状態は長くは続かないということだ。世界は常に平常に戻り、依然と同じ状態であり続ける。

人々は時々、恐怖にさいなまれたり、病気なって気分が悪くなったりする。だが、それで人柄が変わってしまうことは無い。5日後にも、5週間後にも、5年後にも同じ人柄であり続ける。人柄はそう変わるものではない。株式市場も同じだ。

上下に揺れ動きながらも、基本的には上昇し続ける。株式市場が短期的に上下に揺れ動くのは、市場に参加している人達の感情によるものだ。株式市場の長期トレンドは企業の収益と金利というファクトによって決まる。

金利は株式市場に大きな影響を及ぼす。ここ数年にわたって株式市場が上昇し続けてきた大きな要因の一つは、世界各国の中央銀行による利下げだった。

イ:昨年初めには、米ゲーム専門店のゲームストップ、映画館運営のAMCエンターテインメントなどの株が急騰する騒動がありました。この騒動にはどのような印象を持ちましたか?また、この騒動から投資家はどんな教訓を引き出したら良いでしょうか?

エ:あの騒動を何年か後に振り返ったら、急騰した株はプロの投資対象とはなっておらず、株式投資の経験がなく、企業の価値よりも値段だけを見て売買する若くて熱狂的な人たちによって価格が押し上げられていたと多くの人が分析するだろう。プロの大半がそうした売買をするのは危険だと忠告するはずだ。

イ:米国の主要株価指数は今年にも過去3年と同様の上昇を見せると思いますか?S&P500種株価指数は昨年27%も上昇しました。今年も大幅に上昇しますか?

エ:昨年と同じくらい上昇したら、びっくりするよ。未来は過去2~3年の株価の動きでは決まらない。個人的には今の株価は割高だと思っている。ここ2~3年の上昇相場で投資できた人は、運用成績に非常に満足しているだろう。だが、未来のリターンはここ2~3年のように大きなものにはならないと思う。

イ:「敗者のゲーム」最新版(第8販)では、債券への投資を見直すべきだと主張されています。利回りがゼロに近く、過去に得られたほどの利息を得られないというのが理由でした。債権の代わりに何に投資すべきでしょうか?

エ:今からしばらくの間、長期投資の運用リターンは、ここ数年に比べて少なくなるだろう。だが、債権よりも株から得られるリターンの方が良いはずだ。利回りが高くなれば、債券の価格は下落する。株価は今割高で、ここ数年は大きな伸びが望めないかもしれないが、10年や20年の長期では上昇し続ける。

また、大半の人は、自分がすでに債権と同じくらい安定したほかの金融資産をどれだけ保有しているかに気づいていない。

例えば持ち家だ。持ち家は金融資産の一部だ。また多くの国で年金や退職金がある。これらの資産は実に価値がある。価値が安定していて株のように価格が大きく上下しない。また特に若い人には、これから手にする収入や貯金がある。それは株式市場によって変動するものではない。自分がこれからどう働き、どのようなキャリアを気づくかによって決まる。

自分の資産全体を俯瞰すれば、株式が占める割合はかなり小さいことに気付くはずだ。株以外の資産は株のように大きく価格が上下することは無く、非常に安定している。金融資産について大きな決断を下す時に株式のポートフォリオだけを見るのは間違いだ。金融資産の全体を見て判断しなければならない。だがこのミスをしている人が実に多い。

イ:米国の主要株価指数の大部分、25%くらいはGAFAMとテスラといった巨大企業の株で占められています。これは適正な状態ではないと考える人もいるでしょう。大部分が5社で寡占状態の指数は市場平均を表していないと考える人もいるでしょう。

エ:その質問に正対しないかもしれないが、答えを出してみよう。

ほとんどすべての人、つまり、投資の世界で仕事をしていない人の大半は、インデックスファンドを通じて株式に投資するべきだと私は確信している。だが指数と一口に言っても、その数はNY証券取引所の上場企業数よりも多く存在する。実に多様な株価指数がある。S&P500は有名で、とてもよくできている指数だ。そのほかには、世界株の指数もあり、英国株や日本株の指数もある。ハイテク株の指数もあれば、ESGに熱心な企業の株価指数もある。いろいろな株価指数がある中で、投資家は自分に最も適した指数を選ばなければならない。

質問に対する答えはこうだ。長期投資に対して何か特別な方針を持っていないのなら、新興国を含む世界の主要国の株を、時価総額に応じて組み入れた指数に連動する投信を保有すべきだ。それは実に理にかなっている。

もし世界中の株よりも別の指数に連動する投信の方が良いと確信する理由があるなら、その投信を保有すればよい。だが、最初は最も保守的に、世界中の株の指数に連動する投信から始めることを勧める。もちろんS&P500でも良い。ただしS&P500の構成銘柄の一部は割高になっており、下落するかもしれないと多くの人が考えているのではないだろうか。小型株の指数に連動する投信の方が良いかも知れないし、欧州株の指数に連動する投信の方が良いと考える人もいるかもしれない。私見だが、これから少なくとも10年にわたり投資するにあたっての特段の方針がないのなら、世界中の株の指数に連動する投信を選び、保有コストを下げることに注力すると良い。

イ:株式市場が上がるか下がるかを予測して売買しようとせずに、ずっと株式市場に居続けることが必要なのはなぜですか?

エ:人々は株式市場の先行きを予測しようとしてきたが、予測できた人はほぼ皆無で、それは長い歴史が証明している。もし過去20年にわたって市場の行方を予測できた人がいたとしても、その人が今後も20年間、同じように予測し続けられることはあり得ない。この点は私が保証する。株式市場の先を予測することは不可能。この点を認識して株式投資に望むことが必要だ。

イ:著書の中で、「株式市場が大きく上昇するのは、20年や20年と知った長期間でも限られた日数の間だけだ」と言及されています。その限られた日数に起きる相場の大幅な上昇を逃さないようにすることも、相場に常に居続けなければならない理由の一つでしょう。

エ:そうだ。市場の行方を事前に予測することは不可能だからね。往々にしてみんなが市場の行方を予測しようとするのは、何か悪材料が出て不安になった時だ。相場が下落しているときに人々は次のように言い合う。

「これから大変なことになる。相場の下落は続くに違いない」と。そうした心理自体が相場下落をもたらす。将来に悪いことが起きるとばかり考えるからだ。そして「もう投資を続けられない。保有投信を売却して現金比率を高めよう」と考える。

その結果、株式市場は大幅に下落し、押しつぶされたスプリングのように反発に向けた力がたまった形になる。そして、ある時点で世の中の味方が突然変わる。

「コロナ禍は確かに大変だけど、当初危惧されたほどには深刻ではないのでは?」とね。そして株式市場のスプリングは反発して上昇し、元のトレンドラインへと戻っていく。あるいはトレンドラインを超えて上昇する。そうなると市場関係者は一安心だ。

だが、ここで正常なトレンドライン自体は変化していない。その反発の度合いも急なものになる。上昇相場も同様だ。

「ハイテク株を持っていれば、値上がりが続き、大きく儲けられる」と人々は興奮する。そして突然「この上昇が続くとは思えない。無事でいられるはずがない」と言い出す。相場は下落して長期のトレンドラインに回帰する。

どの日、どの週、どの月に投信を売却して株式市場から離れるのが正しいのか?それを当てるのは困難だ。市場参加者がお互いの行動を推測し合っているからだ。それは鏡だらけの部屋にいるようなものだ。鏡が次から次に現れる。だから次の答えがシンプルで正しい。

「現在起きていることに一喜一憂してはならない。そうせず、長期にわたって株式投資を続けていれば、大きな利益を手にすることができる。」

インタビューは以上です。以下は要約です。

  • アクティブ型の投資信託を運用するマネジャーの報酬と運用コストを足し合わせると、それらを差し引いてもアクティブ投信が市場平均を上回る成績を上げるのは至難の業だ
  • 長期にわたって市場平均を上回るリターンを上げることは極めて困難
  • 極めて優れたプロだけがアクティブ運用を手掛けていて、その極めて優れたプロを見つけることは簡単なのだが、そのプロの中でも勝ち続けられる飛びぬけたプロを探し出すことが困難なのだ
  • 債権よりも株から得られるリターンの方が良いはず
  • 株価は今割高で、ここ数年は大きな伸びが望めないかもしれないが、10年や20年の長期では上昇し続ける
  • 金融資産について大きな決断を下す時に株式のポートフォリオだけを見るではなく、持ち家、年金、退職金など、資産の全体を見て判断しなければならない
  • 世界中の株の指数に連動する投信を選び、保有コストを下げることに注力すると良い。
  • 市場の行方を事前に予測することは不可能だから、株式市場が上がるか下がるかを予測して売買しようとせずに、ずっと株式市場に居続けることが必要
  • 現在起きていることに一喜一憂してはならない。そうせずに、長期にわたって株式投資を続けていれば、大きな利益を手にすることができる

「敗者のゲーム」についてのアマゾンの解説です。

出版社からのコメント

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内容

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チャールズ・エリス Charles D. Ellis

1937年生まれ。イェール大学卒業後、ハーバード・ビジネス・スクールで最優秀のMBA、ニューヨーク大学でPh.D.取得。ロックフェラー基金、ドナルドソン・ラフキン・ジェンレットを経て、1972年グリニッジ・アソシエイツを設立。以後、30年にわたり代表パートナーとして、投資顧問会社や投資銀行などの経営・マーケティング戦略に関する調査、コンサルティングに腕を振るう。2001年6月代表パートナーを退任。現在、ホワイトヘッド財団理事長。この間、イェール大学財団基金投資委員会委員長、米国公認証券アナリスト協会会長、バンガード取締役などを歴任。『キャピタル』『チャールズ・エリスが選ぶ大投資家の名言』『イノベーターは死なず』『ゴールドマン・サックス(上・下)』『投資の大原則』(共著)など多数の著作がある。