「敗者のゲーム」著者 チャールズ・エリス のインタビュー2

<昨日の続き>

イ:米国だけでなく、世界各国の株式市場がコロナショックで暴落した後に劇的に回復し、米国の主要株価指数は史上最高値をたびたび更新してきました。

この劇的な市場の回復についてはどのような感想を抱いていますか。

また、今回の経験から個人投資家は何を学ぶべきでしょうか?

エ:一つは、我々はコロナ禍を深く憂慮したり、コロナ禍が収束に向かう明るい兆しに歓喜したりしてきたが、その状態は長くは続かないということだ。世界は常に平常に戻り、依然と同じ状態であり続ける。

人々は時々、恐怖にさいなまれたり、病気なって気分が悪くなったりする。だが、それで人柄が変わってしまうことは無い。5日後にも、5週間後にも、5年後にも同じ人柄であり続ける。人柄はそう変わるものではない。株式市場も同じだ。

上下に揺れ動きながらも、基本的には上昇し続ける。株式市場が短期的に上下に揺れ動くのは、市場に参加している人達の感情によるものだ。株式市場の長期トレンドは企業の収益と金利というファクトによって決まる。

金利は株式市場に大きな影響を及ぼす。ここ数年にわたって株式市場が上昇し続けてきた大きな要因の一つは、世界各国の中央銀行による利下げだった。

イ:昨年初めには、米ゲーム専門店のゲームストップ、映画館運営のAMCエンターテインメントなどの株が急騰する騒動がありました。この騒動にはどのような印象を持ちましたか?また、この騒動から投資家はどんな教訓を引き出したら良いでしょうか?

エ:あの騒動を何年か後に振り返ったら、急騰した株はプロの投資対象とはなっておらず、株式投資の経験がなく、企業の価値よりも値段だけを見て売買する若くて熱狂的な人たちによって価格が押し上げられていたと多くの人が分析するだろう。プロの大半がそうした売買をするのは危険だと忠告するはずだ。

イ:米国の主要株価指数は今年にも過去3年と同様の上昇を見せると思いますか?S&P500種株価指数は昨年27%も上昇しました。今年も大幅に上昇しますか?

エ:昨年と同じくらい上昇したら、びっくりするよ。未来は過去2~3年の株価の動きでは決まらない。個人的には今の株価は割高だと思っている。ここ2~3年の上昇相場で投資できた人は、運用成績に非常に満足しているだろう。だが、未来のリターンはここ2~3年のように大きなものにはならないと思う。

イ:「敗者のゲーム」最新版(第8販)では、債券への投資を見直すべきだと主張されています。利回りがゼロに近く、過去に得られたほどの利息を得られないというのが理由でした。債権の代わりに何に投資すべきでしょうか?

エ:今からしばらくの間、長期投資の運用リターンは、ここ数年に比べて少なくなるだろう。だが、債権よりも株から得られるリターンの方が良いはずだ。利回りが高くなれば、債券の価格は下落する。株価は今割高で、ここ数年は大きな伸びが望めないかもしれないが、10年や20年の長期では上昇し続ける。

また、大半の人は、自分がすでに債権と同じくらい安定したほかの金融資産をどれだけ保有しているかに気づいていない。

例えば持ち家だ。持ち家は金融資産の一部だ。また多くの国で年金や退職金がある。これらの資産は実に価値がある。価値が安定していて株のように価格が大きく上下しない。また特に若い人には、これから手にする収入や貯金がある。それは株式市場によって変動するものではない。自分がこれからどう働き、どのようなキャリアを気づくかによって決まる。

自分の資産全体を俯瞰すれば、株式が占める割合はかなり小さいことに気付くはずだ。株以外の資産は株のように大きく価格が上下することは無く、非常に安定している。金融資産について大きな決断を下す時に株式のポートフォリオだけを見るのは間違いだ。金融資産の全体を見て判断しなければならない。だがこのミスをしている人が実に多い。

イ:米国の主要株価指数の大部分、25%くらいはGAFAMとテスラといった巨大企業の株で占められています。これは適正な状態ではないと考える人もいるでしょう。大部分が5社で寡占状態の指数は市場平均を表していないと考える人もいるでしょう。

エ:その質問に正対しないかもしれないが、答えを出してみよう。

ほとんどすべての人、つまり、投資の世界で仕事をしていない人の大半は、インデックスファンドを通じて株式に投資するべきだと私は確信している。だが指数と一口に言っても、その数はNY証券取引所の上場企業数よりも多く存在する。実に多様な株価指数がある。S&P500は有名で、とてもよくできている指数だ。そのほかには、世界株の指数もあり、英国株や日本株の指数もある。ハイテク株の指数もあれば、ESGに熱心な企業の株価指数もある。いろいろな株価指数がある中で、投資家は自分に最も適した指数を選ばなければならない。

質問に対する答えはこうだ。長期投資に対して何か特別な方針を持っていないのなら、新興国を含む世界の主要国の株を、時価総額に応じて組み入れた指数に連動する投信を保有すべきだ。それは実に理にかなっている。

もし世界中の株よりも別の指数に連動する投信の方が良いと確信する理由があるなら、その投信を保有すればよい。だが、最初は最も保守的に、世界中の株の指数に連動する投信から始めることを勧める。もちろんS&P500でも良い。ただしS&P500の構成銘柄の一部は割高になっており、下落するかもしれないと多くの人が考えているのではないだろうか。小型株の指数に連動する投信の方が良いかも知れないし、欧州株の指数に連動する投信の方が良いと考える人もいるかもしれない。私見だが、これから少なくとも10年にわたり投資するにあたっての特段の方針がないのなら、世界中の株の指数に連動する投信を選び、保有コストを下げることに注力すると良い。

<明日に続く>